第4話 私の優しさ
少女は2日前の8月1日に行われた近所の花火大会で友達、女の子の友達に告白した。
そこで振られたらしいのだが、少女が言うにはそれは大した問題ではなかった。
問題はその後。
少女の告白した女の子が他の人にそれを喋りのネタにしてしまった。
話はみるみる広まり、ついには自分のところまで来てしまったらしい。
『女の子を好きになる変なやつ』
そこで少女は絶望してしまった。
ベットに寝転がりながらさっきのお風呂での話を頭の中で整理する。
その事件、というより出来事の中心である少女は私の隣で目を瞑っている。
私が貸したTシャツはブカブカでこの子がまだ少女であることを確認させられる。
そう、まだ少女なのだ。
少女が女の子に好奇心、というより好意を持つ。それが悪い事だとは思わないし、思えない。
人生経験が長いわけじゃない。恋愛経験が豊富なのか、それともこれが初恋だったのかも分からない。
そう思うとやや悲しくなる。
こういう時人は泣くのだろうか、、、私には到底分からない。
少女の髪が目元にかかって濡れていた。
これは決して涙では無いのは分かっている。
私は少女の髪の毛に触れ目元からどかしてやった。
「なんです?」
「あ、ごめん起こした?」
「いえ、ずっと起きてましたよ」
ずっと起きてたのか……
少し恥ずかしくなって、コロンと少女に背を向けるように寝返りをうつ。
「あなたは優しいですね」
背中越しにチクリと刺さるその言葉。
優しい、という言葉を聞いた瞬間私の顔が強ばるのがわかった。
優しい、ね。
別に何か特別なことをした訳じゃないけれど—全部私のためだけど—少女にとって私は優しく映ってしまったのだろうか。
全部自分の自己満足なのにそれが誰かに善行だと思われるのは嫌いだ。
私はただ善行をすることで自分を満たして、気持ちよくなってるだけ。
こんなのただの
「いいの。全部私の自己満足だから」
「でもそれってあなたが本質的に優しいってことじゃないんですか?」
違う
「人に優しくできるのはいいことです」
やめて
「こんなのは優しさじゃないよ」
自分で自分を肯定しているのに、他人には私を否定して欲しいと思っている。
矛盾しているけれど、私はそれを望む。
「いえ、優しさです」
「何言って……」
何か言い返してやろうと思ったけれど、少女の行動によってそれは止められた。
少女の胸が私の背中に密着し、腕はお腹辺りに軽く回されている。
私は少女に抱きしめられていた。
少女はもう何も言わない、肯定も否定の言葉も言わずに、ただ私を抱きしめる。
それが心地よいと思える日がくるといいな。
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