第3話 私の好きな人
「なんであんなことしたの?」
私はかなり唐突とも思えるタイミングで目の前の裸の少女にそう切り出した。
少女がピクリと動き湯船に波紋をつくる。
その波紋は私にぶつかってぐにゃりと曲がった後、私を通過して壁にぶつかって消える。
「嫌だったら言わなくてもいいけれど、私はあなたに言わなきゃならないことがある」
そう、この少女に会ってから言いたくてもいえなかったことがある。
そのことは多分まともじゃないし、受け入れてもらえないとも思う。
でも
「別にあなたがどこで死のうと構わないけれど、あの海で死のうとするのだけはやめて」
私の好きな相手、私の死に場所、私を受け入れてくれる場所、それがあの海だ。
どこまでも私たち、私に無関心なあなたの声
どこまでも、私の見える範囲で広がるあなた
破天荒で気分屋なあなた
そのくせすぐ周りの影響を受けるあなた
私を産んでくれたあなた、私がそこで死にたいと思わせてくれるあなた
ああ、思えば想うほどに私はあの海で死にたい。
あなたの唄を聞かせながら死なせて
あなたの奥の奥まで、光が届かない深い所で死なせて
あなたの腕で荒っぽく抱きしめながら死なせて
あなたは誰のものにもならない。それは私も例外じゃないけれど、そういうところが愛おしい。
だから、言う
「あの海は私だけの死に場所なの」
「ふふっ」
少女がクスリと笑う。
「お姉さん、変な人だね」
変な人、それは昔から言われてきた。
私に絡みついてきた鎖は「変人」だった。
いや、自分で巻き付けたのかもしれない。
「振られたの」
「私は好きな人に振られた」
唐突に少女の口から漏れ出た言葉は私を絶句させた。
なんで?
そんなこと思ってはいけないのかもしれないが、私にとってそれは疑問の対象だった。
何かを好きになる。
人を好きになる。
告白する。
これらはなんとも思わない。
だが、付き合いたい。
この感情だけは分からない。
私は好きの最高潮は付き合う前だと思う。
誰かを好きになって、その人に好かれるために自分を変えて、それでも届かない。
そういうことを繰り返すのが尊くて、愛おしいのでは無いか?
だから私が好きな人がいるとするならば、私を振ってくれる人間だ。
私と付き合ってくれない人間だ
私にはまだ足りないと思えるし、ずっと私を持たなくていいし、変化させてくれる。
言ってしまうならば……
恋は叶わぬのが美しい
「あなたにとって振られるのは辛いこと?」
少女は首を横にフルフルと振った。
「じゃあ、どうして?」
「振られたのが辛かったんじゃないの。私を受け入れてくれなかったのが怖かったんじゃないの。」
「私がおかしいって気づいたから」
「女の子を好きになるなんて」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます