第2話 少女は死にたい
風呂。それは心休まる場所である。それは誰もが持っている共通認識だが、2人以上で入るとなると話は別なような気がする。
1人でぬくぬくと風呂に入っている方が好きという人と、2人、3人で友達と一緒に入るのが好きという人もいる……かもしれない。
私は絶対に前者だ。ここで使う絶対は誇張表現ではなく、対抗を絶するの意味での絶対だ。比べるまでもなく前者だ。
それは私が今までの人生で孤独を好んできたからだと思う。
私は孤独を悪い事だと思わない。
「孤立」が身体的な隔絶であって、「孤独」は精神の隔絶だ。
どんなに皆と意見が食い違おうとも、どんなに周りに合わせようとも、自分の確固たる意思や考えを心に持ち、それを正しいかどうか自分で判断する、それが孤独だ。
孤立はそもそも人と関わらない。それは人間を衰退させるのだ。
これは私の言葉じゃなく、どこか遠い昔に読んだ本に書いてあった言葉だった。
久しぶりに引っ張ってきた知識の紙は破けていたり、文字がふやけていたけれど、断片のようなものは読み取れた。
そう考えると私は「孤独」ですらないのかもしれない。
私は今まで生きてきた中で読んだ本を自分なりに解釈し、自分の知識の本に書き留める。
そこには私の考えはない。
本という知識の殻に閉じこもった哀れな人間。それが私だ。
…………風呂に2人で入っているのにも関わらずどうでもいいことを考えれた。
『8月3日水曜日 4時17分』
「冷えちゃったでしょ?お風呂沸かすからちょっと待っててね」
そう言われて、こくりと頷く少女。
そんな少女はかなりの美少女だと思える。
整った顔のパーツの中でも大きな双眸が目立ち、肩甲骨くらいまで伸びた髪は夜の海を思わせるようにドス黒く、背丈は私より少し小さいので155cmくらいに思える。
……あと胸が結構大きい。
可愛い子は自分を可愛いと自覚する。
生まれてきてから「可愛い」と言われて育てられるし、好意だって寄せられて生きてきたのであろう。
そうしてだんだん自覚する。
私は他の人とは違って「可愛い」と。
その「可愛い」の鎖に捕らわれて生きてきた人間は大抵脆い。
その鎖は他の人によって切られるのか、風化してしまうのか分からないけれど、どちらにせよ鎖の痕が残る。
今まで締め付けられてきた痛々しい痕は一生消えることは無い。
そしてその痕を隠すように、自分でまた別の鎖を巻き付ける。
そんなことを考えながら少女を見つめる。
少女は私の視線に何か感じ取ったのかどうかは分からないけれど
「?」と、
少女が「私になにか用ですか」というように首を傾げる。
その時彼女の首筋からしずくが伝い、肩から服の中へ入っていった。
「あ」
それを見て私がまだ風呂を沸かしていないことに気づく。
て言うかまずタオル渡してないや。
急いでタオルを洗面所から2つ持ってきて少女に1つ渡す。
「ちょっとお風呂沸くまでタオルで我慢してね」
少女はまたこくりと頷く。
何か話した方がいいのかな
そんなことは思ったけれど結局何も聞けず時間だけが過ぎた。
時計の無機質な針の音だけが部屋にこだまする。
それは、それだけが、私をどこまでも癒してくれた。
「お風呂沸いたから入って来ていいよー」
そう呼びかけると、少女はすくっと立ち上がり風呂場へ向か……わなかった。
少女が向けるべき視線の方向は風呂場とは違う方向だった。というか私に視線が向いていた。
「えっと、何かな?」
何か不備があっただろうか、服…は入浴中に洗面所に置いておく、ということもさっき伝えたし……また別の?なんだろ?
すると少女は急に私の手を取った。
少女の手はヒンヤリ冷たかったが、潮のせいでベタついていて少し不快に思えた。
「ちょっ、どうしたの?」
強引に少女が私の手を引いて早歩きでグイグイ進む。
そして到着したのは……
「お風呂場?え?」
「一緒に」
「え、」
一瞬時が止まったかのように錯覚したが、少し考えてこの子がやりたいことがわかった。
多分、家主である私を差し置いて先に風呂に入るのがむず痒がったのだと思う。
それ以上でもそれ以下でもない。
その証拠に少女は私の服を脱がして……脱がして?
「なにしてんの!?」
「別に大したことはしていませんけど」というように少女は首を傾げる。
「入ろ?」
て言うか喋れるのね……変な子
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