第30話 国立競技場の入場券


「ガチですげぇ。本当に来たな国立競技場!」


 国立競技場はテレビで見るよりもずっとずっと大きくて、近くに行くと、ずうっと向こうのほうまで屋根が続いている。案内看板あんないかんばんを見ると、国立競技場は数字の「ゼロ」の形みたいに楕円形だえんけいになっていた。その楕円形の建物の何箇所なんかしょかに入り口がある。僕たちは千駄ヶ谷せんだがやという駅から歩いてきたから、今いる位置は「Cシー」と書かれた入り口が一番近い。


「お兄ちゃん、とりあえず、どこから入れるのか、ぐるっと一周してみるしかないよね」


「だな!」


 僕たちは大きな屋根の下をぐるっと一周しながら入り口を探す。でも、入り口だと思われる場所には銀色のパイプでできたシャッターが下りていて、中は見えるけど入ることができなかった。それでも僕たちはどこかに入り口がないかを探す。


「お兄ちゃん、この国立競技場に使われている木は全国から集められた木なんだって知ってた?」


 歩きながら上の方にかざりで付けられているたくさんの木を指さしてリンが言う。


「私たちの住んでいる所の木も、どっかにあるんだよねきっと。怪盗キューピーをやっつけたら、そしたら家族みんなでまた来たいな。お父さん、建築物けんちくぶつ大好きだし! この国立競技場を設計せっけいした人、めちゃくちゃ有名な建築家けんちくかさんなんだよ」


「へぇ、そうなんだ」


「お父さんと一緒に来たいな。絶対怪盗キューピーをやっつけて、家族みんなでこようね! お兄ちゃん!」


 僕の横で不安な気持ちをかき消すように、リンがやけに元気に話しかけてくる。その気持ちは僕にも分かった。もうすぐ国立競技場の案内看板に書かれていた半分くらいまで進んでしまうけれど、今まで通り過ぎてきた入り口ゲートはどこも閉まっていて、入ることはできなかったのだから。もしも、このままどこの入り口も空いていなかったら、そう思うと、子供だけでここまで来てなんの意味もなかったってことになってしまう。


 みんなでキョロキョロと入り口を探しながら歩いていると、いつの間にか一周して、最初の「C」と書かれた場所に戻ってきた。


「どこの入り口も空いてなかった」

 

 こうちゃんがぼそっと言う。僕は急いで、みんなに声をかけた。


「見落としてるだけかも。もう一周しようよ!」


 ここまで来て国立競技場に入れないだなんてありえない!


 また、「C」と書かれた場所から、ぐるっと屋根の下を歩いていく。もう一周してまた入り口が見つからなかったらどうしよう。そう思いながら管理事務所かんりじむしょのある「E」と書かれた場所に差しかかった時、こうちゃんが何かを見つけたのか立ち止まって、指をさした。


「さっきはいなかった警備員さんが立ってる!」


「「「「本当だ!」」」」


 すらっと背の高いおじさんの警備員さんが入り口ゲートに立っていて、それに、さっきは閉まっていた銀色のシャッターが開いている! 僕たちは「E」と書かれた場所に一番近い入り口ゲートに走っていき、警備員さんに声をかけた。


「あの、僕たち中に入りたんです!」


「本日はし切りとなっております。入場パスのQRキューアールコードを持っている方しか中には入れません」


「「「「「QRコード?!」」」」」


「ああ! もしかして!?」


 リンが何かひらいたのか、背負っていたリュックの中からあの、小包からがした白黒模様しろくろもようの紙を取り出して警備員のおじさんに見せる。


「あの、これ! これじゃダメですか?」


「……。こちらで読み込むには、少々大きすぎるかと」


「でも、QRコードと言ったら、これしかないし……」


「リンリン、それスマホで撮って、その画像とかじゃダメ?」


「リーくん天才! それだ!」


 僕たちは急いで白黒模様の紙を組み合わせ、QRコードになるように四角く折り曲げた。それをリーくんがスマホで撮影して、スマホの画面を警備員のおじさんに見せる。


「これで行けるくね?」


「どうぞ、こちらにかざしてみて下さい」


 リーくんが入り口ゲートのQRコードを読み込むガラス面にスマホをかざすと「ピッ!」と小さな音が鳴り、国立競技場の中に入るゲートが開いた!


「「「「「すげぇ〜!」」」」」


 おどく僕たちに、警備員のおじさんは無表情むひょうじょうのまま中に入ることを許可きょかしてくれた。


「どうぞ、中へお入りください。ようこそ国立競技場へ」


 タイムリミット残り2時間。

 ついに怪盗キューピーとの最終決戦さいしゅうけっせんの時がきた。



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