第21話 小柴山で見つけ出すもの

 小柴山こしばやまへ僕たちがついたのは、六時ちょっと前だった。小柴山のバス停には浴衣ゆかたを着た家族連れや、僕たちみたいな小学生の集団もいて、僕はこれから行く小柴山の夏祭りが楽しみになる。


 子供だけで夏祭りとか、超最高ちょうさいこう


 夏祭りの会場はロープウェーで登った山頂さんちょうにある小柴城前広場こしばじょうまえひろばでやっていて、バス停からロープウェー乗り場に向かう人が沢山たくさんいる。リーくんのスマホ検索情報けんさくじょうほうによると、なんと、いつもは子供片道こどもかたみち三百円のロープウェーが、今日は百円で乗れるとのことだった。小柴山には山頂まで続くドライブコースもあるから、きっと車で夏祭りに行く人も多いはず! そう思うと僕もはやく夏祭り会場に行きたくなった。


 射的しゃてき輪投わなげに千本引せんぼんびき!

 豪華景品ごうかけいひんがなくなる前にいかなくちゃ!


「ガチ楽しそうじゃん! お小遣こづかいもまだ少し残ってるし、俺っち射的とかやりてぇな!」


「だよなだよな! 僕もいまそれ考えてた!」


「お兄ちゃん、リーくん、バカなの? まずは謎解なぞときだよ! ここで何を見つけるのか、全くそこはわかってないんだからね!」


「「ガチそれなー……」」


 僕たちは、小柴山ロープウェー乗り場の近くにある大きな木の下のベンチに向かった。


 リンがリュックから白黒模様しろくろもようの紙と、地図が浮かび上がった紙を取り出したけれど、僕は、何度も何度見てきた紙にこれ以上何か見つかるなんて思えなかった。それに、僕たちがいるベンチの横を、次から次に家族連れが通り過ぎロープウェー乗り場に向かっていくのを見ていると、僕のはやく夏祭りに行きたい気持ちはどんどん高まってくる。


 何か見つからなきゃ夏祭りを楽しむなんてできないんだ。


 僕は頭を働かせようと、リュックの中から水筒すいとうを取り出して冷たい水をごくっとひとくち飲んだ。図書館としょかんで水筒にあふれるほど入れた水は、もうそんなに残っていない。夏祭りの屋台やたいでお小遣いを使いたいから、自販機でジュースも買えないし、この水は今や貴重きちょうな水だ。


「あぁあ、もう水がないや。こんなことならもっとおっきな水筒持ってこればよかった」


「みず?」


「うん、水。ほら、もうこんなに水筒の中の水なくなっちゃったし」


 僕がそう言って、水筒を手で上下にると、中の水がチャプチャプと残り少ないことを知らせる音を出す。それを見ていたリンが何かひらめいたのか、水筒を指差し、いきなり大きな声を出した。


「そうか! 水ね! 水かも!」


「「「「みず?!」」」」


「水だよ水!この紙を今まで一度も水にらしてないじゃん?」


 リンいわく、紙を水を濡らすとヒントがかび上がってくるパターンは、謎解きではよくあることらしい。


「水に濡らすパターンを試す前に、リーくんがフライドチキンを落としちゃって、それで油で地図が浮かび上がったから水をまだ試してないんだよね!」


「「「「なるほど〜」」」」


「火であぶるのもやってないんだけど、火はここにはないし。水で浮かび上がってくれたらいいんだけど……。だからお兄ちゃん、ほら水筒から、この小柴山の部分、真っ白で何にも書かれてないところにお水をたらしてみてよ!」


 みんながいっせいに僕の方を見る。


 くそう! 貴重な水なのに! 嫌だなんて言えそうな雰囲気ふんいきではない!


 僕は貴重な水をリンの指差すところに慎重しんちょうに少しだけたらした。


 ベンチの上に置いた紙にじわじわとみてゆく僕の貴重な水。小柴山の部分には、油がそんなについていないのか、地図が浮かびあがっている部分は水をはじいてるのに、小柴山のある白い部分だけは水が染みていった。


「ここで地図が終わってるから、ここには油つけてなかったんだね」


 まさやんがその様子を観察しながら言い、ベンチに置かれた紙を見つめる僕たち。その僕たちの目の前で、水が染み込んだ部分がじわじわと少しづつ色を変化させていくように見える。


「お兄ちゃん! もっと水をかけてみて!」


「お、おう!」


 貴重な水なんだ! 何か出てきてくれよな!

 

 水筒の水を全部その部分にかける僕。それを見つめる仲間たち。


「「「「「あ……」」」」」


 僕たちの目の前で、真っ白な小柴山がある部分に、水が染み込めば染み込むほど、どんどんどんどん色が濃くなって何か模様のようなものが浮かび上がってくる!


「「「「「おおー!」」」」」


「ガチ! 出てきたぜ!」


「リンちゃん! これって、怪盗かいとうキューピーがかぶってたシルクハットの形だよね!」


「うん! まさやんそうだよ! シルクハットの形だよ! きゃー! 大正解だいせいかい! もう感動かんどうしちゃう! これで何を探せばいいのか分かっちゃったじゃん!」


 リンの興奮気味こうふんぎみな声でいっせいに僕たちは紙から顔をあげた。みんなの顔もリンと同じように興奮しているのがわかる。


「早速このマークを探し出そうよ!」


 リンのけ声で、僕たちはまず小柴山のバス停や駐車場、休憩所きゅうけいじょにロープウェー乗り場と、今いる場所の近くを探した。でもそんな簡単に見つかるわけもなく、時間だけが過ぎていく。その間もどんどん人はロープウェー乗り場に向かっていく。


 はやく見つけなきゃ!

 こんなんじゃ、いつまでたっても夏祭りになんか行けないよ!


 そう思いながらロープウェー乗り場の近くでシルクハットの形を探していると、リーくんとばったりでくわした。


「リーくん、どう?」


「ガチ、なんにも見つからないぜ! ガッくんは?」


「僕も!」


「てかこれって、もう山の上に行くしかないじゃね?」


 僕とリーくんは顔を見合わせ、ニヤリと微笑ほほえんだ。リーくんの「夏祭りにはやく行こうぜ」と言う心の声が僕の心にめっちゃ聞こえてくる。もちろん僕もおんなじ気持ちだ!


 時間はもうすぐ七時!

 夏祭りはもう始まってるはずだ!


「リン! 夏祭りの会場に移動いどうして探そうぜ!」


 僕たちは怪盗キューピーのかぶっているシルクハットのマークを探すために、ロープウェーにのって、夏祭りの会場がある山頂、小柴城前広場へと向かった。


 

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