第20話 新たな発見!

「じゃ! まずは地図をもっかいながめてみようだね!」


 元気を取り戻したリンが、テーブルの上に出してあったクリアファイルから地図が出てきた紙を取り出した。油で浮かび上がった地図は少しベタベタしていて気持ち悪い。そんなことを言えば、コーラで浮き上がった模様もようの紙もネチョネチョしている。


「お兄ちゃん、時間節約じかんせつやくしたいから、私とリーくんはこのうかかび上がっている模様がなんの模様なのかスマホで調べることにする! お兄ちゃん達は地図の方をもっかい調べてみて!」


 探偵手帳たんていてちょうまでリュックから取り出しているところを見ると、リンのことはもう心配しなくても良さそうだと思った。


 ようし! だったら僕たちも絶対何か見つけ出してやるっ!


「まさやん、こうちゃん、絶対何か見つけ出そうな!」とは言ったものの、油で浮かび上がった地図は今まで何回も見てきたから、新しい発見がなかなか見つからない。


「リーくんこれ、画像検索がぞうけんさくできる?」


「まかせろ! リンリン! 余裕よゆうだぜ!」


 かいがわに座っているリンとリーくんは時々「まじでこれじゃん?」などとテンポよく調べ物が進んでいるようだった。


 くそう! スマホ、うらやましいぜ!

 僕たちも急いで何か見つけなきゃ!


「まさやん、そっちの紙何か見つかった?」


「全然。もう何回も見た紙だし見つからないよ」


「こうちゃんは?」


「僕も」


「ううむ。一枚一枚がダメなら! となりのテーブルに移動してくっつけて地図にしてみようぜ!」


 僕の提案ていあんで、休憩所きゅうけいじょの隣のテーブルに移って紙を並べ、地図になるよう組み合わせてみた。


「できたっと。で、何かわかることがあればいいんだけど」


いし


「え? 石?」


「うん。今日行った場所に石を置いてみるのは?」


「こうちゃんナイス〜! それってめっちゃいいじゃん!」


 僕たちはその辺に転がっている石をいくつか拾ってきて、海原展望公園うなばらてんぼうこうえんと、県立本多図書館けんりつほんだとしょかん知恵神社ちえじんじゃの場所に赤っぽい石を並べた。


「こうやって並べてみてみると、三角形になってるよね」


 まさやんがそう言ったのが聞こえたリンが、隣のテーブルから「バカなの? 三箇所さんかしょなんだから三角になるに決まってるじゃん!」と楽しそうに声をかける。


 リンは完全かんぜん復活ふっかつしたみたいだ!

 だって、お決まり文句もんくの「バカなの?」が出てきたんだから!


 僕はうれしくなって、まさやんの顔を見たけど、まさやんも「バカなの?」と言われた割には嬉しそうだった。


「他の赤い印をつけたところにも、石を置いてみたらどうかな?」


「ガチそれな!」


 こうちゃんのアイデアに僕が相槌あいずちを打ち、早速さっそくに石を置いてみることにした。赤い印は全部で十箇所じゅっかしょ。そのうち今日行った場所が三箇所だから、残り七箇所ななかしょだ。今日行った場所と区別くべつできるように、今度は黒っぽい石を置いてみる。


「なんか、余計よけいにわけわかんなくなったね」


「うん……」


「だ! 大丈夫だいじょうぶだよ! きっと何か見つかるって!」


 大丈夫とは言ってみたものの、僕にはなんのひらめきもりてこない……。

 くそ! 常識じょうしきがない方が見つけやすいからってリンに言われてるのにっ!


 あれ? でもそれって僕のことめてるんだよな?!

 ま……、まあいいか。

 今はそれどころじゃない!

 何か見つけ出せ!

 じゃないと、ここから先どうしたらいいかが分かんないんだから!

 

 どこかないか、おかしなところ、おかしなところ、おかしなとこ……ろ?


「あれ?」


「ガッくんどうしたの?」


「いや、あの僕なんとなく今気づいたんだけど」


「うん」


「この地図って、紙全体に書かれてるわけじゃなくて、街の中とか海の方とか、一部だけのってるじゃん?」


「「うん」」


「でさ、この白い何にも書かれてないところはどこなんだろって思ったんだけど」


「え? それってどういうこと?」


「あ、うん。ほらさ、赤い石は今日行った場所、それで、黒い石は地図の中にあるけど、川の中だったり、海の中だったり、特に何も地図記号ちずきごうがない場所だったりするじゃん? でもさ、ほら、ここみてよ。この黒い石だけひとつ、白くて何も地図が出てない場所においてあるんだよ」


「本当だ!」


「だろ? で、これってどこなんだろう? って思って。こうちゃんどう思う?」


小柴山こしばやま


「「え?」」


多分たぶん、小柴山。だって、僕の家がこの柳田小学校やなぎだしょうがっこうの近くで、そこから真っ直ぐ行ったら小柴山」


「「まじで?!」」


「うん」


 僕たちはリンと調べ物をしているリーくんに声をかけて、地図アプリで小柴山なのかどうなのかを調べてもらうことにした。


「ガチ! ここ小柴山だわ!」


「え? てことは、ここがもうひとつの目的地もありうる?!」


「お兄ちゃん、それはかなりありうるかも! だって、黒い石を置いた他の場所はみんな地図の中にあるのに、ここだけ地図の外だし!」


「「「ガッくんすげぇ!」」」


 六年男子のメンバーに褒められて超嬉ちょううれしい僕は、「よっしゃあ!」と大きな声を出した。


「まだ分かんないけど、かなりありだと思う! でも、今から行くとなると時間が……」


「リンリン、ガチそれなんとかなるかも!」


「「「「え!?」」」」


「ガチ! これだって! いま小柴山で検索けんさくしたら出てきたんだけど!」


 リーくんがスマホで僕たちに見せてきたものは、小柴山夏祭こしばやまなつまつりの紹介しょうかいっているページだった。盆踊ぼんおどりのやぐらをかこんで、浴衣ゆかたを着た人がおどり、そのまわりに射的しゃてき綿わたあめ、焼きそば屋さんみたいな屋台やたいならんでいるイラストが書いてある。


 リーくんがスマホを僕たちにき出しながら、自分のアイデアをむちゃくちゃ嬉しそうに語り始める!


「俺っちのアイデアはこうだ! 小柴山に登りに来た俺たちは、小柴山で夏祭りがあることを発見! ママーズ達に、夏祭りに行きたいからそれが終わるころむかえに来てって、お願いする! これ、ガチ行けそうな気がするし!」


 リーくんの話を聞いて、僕もそれはかなりいける気がした!

 同じ小学校じゃない僕たちが集まるときは、ママーズたちなんだかんだ言っても僕たちがしたいことを叶えてくれるんだから!

 それに、僕は昨日ドリルを半分終わらせた!


「いけると思わねぇ?」


 リーくんがニヤニヤしながらスマホに耳をつけている。

 早速さっそく、リーくんのママに交渉こうしょうする気だ!


 僕たちはそれをいのるような気持ちで見つめている。リーくんのねばりの交渉が続く。「ガチたのむわ!」とリーくんがスマホの向こうからは見えないのに手を顔の前に出しておがんでいる。


 僕たちもスマホの向こうのリーくんのママに手を合わせてお願いビームを発射はっしゃする!


 頼む! 夏祭りに行ってもいいよと言ってくれー!


「やりぃ! 他のママーズにも聞いてみるって言ってたけど、俺っちのママが迎えに来てくれるって言ってたから、もうこれはいける確定かくていだな!」


「「「「よっしゃー!」」」」


 僕たちの一日はまだ終わらない!

 ここから小柴山に移動して、探偵団たんていだんとして怪盗かいとうキューピーを見つけ出すんだ!


 僕たちは急いでテーブルの上の紙を片付けて、小柴山に向かうために移動いどう開始かいしした。

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