第19話 三つの模様と探し出した三つのマーク

 知恵神社ちえじんじゃとなりにある公園はそれほど大きな公園じゃないけど、休憩きゅうけいスペースのような場所にはテーブルとイスが置いてあった。


 僕たちはテーブルの上に小包こづつみからはがした紙や、さっき知恵神社でもらってきた領収書りょうしゅうしょなるものをおいて、今までのことを整理せいりすることにした。


「まずは、この変な模様もようだよね」


「「「「うん」」」」


「お兄ちゃんが展望公園てんぼうこうえんで見つけたこのマークと、私が図書館で見つけたこのマークは、コーラで浮かび上がってきた変な模様にてるってだけで、あらためてこうやってみてみると、どことなく少しちがうよね」


「だよね。ガッくんが見つけたマークだと、カニのハサミが向き合ってるけど、変な模様の方は、どっちも同じ方向にハサミがいてるしね」


「そうなの! まさやんも気付きづいてた?」


「うん。バスの中でこうちゃんとそう話してたんだ。だって僕たちもそれなりに公園の中では探してたわけだし」


「僕も、展望公園の展望台で似てるような気がするマークは、見つけてた」


「「「「そうだったの?!」」」」


「うん。でも、ハサミの向きが気になって。それに、ガッくんのが先に当たりだってわかったから言わなかった」


「言えよっ! そこは言ったほうがいいよ! こうちゃん!」


「うん。でもガッくん、僕が見つけたのもガッくんとおんなじマンホールの蓋だし」


「てことは、あの公園用のマンホールのふたなのかもね」


「あー、リンリン、それ俺っち知ってる! なんかあれだろ? オリジナルのマンホールの蓋だろ? アニメキャラのやつとかもあるらしいぜ!」


「そうそう! それだよ! だから、海原展望公園のオリジナルのマンホールなのかも!」


 早速さっそく、その推理すいりが当たってるかどうかをリーくんがスマホで検索けんさくする。『海原展望公園、マンホールの蓋』と検索をかけると、マンホールマニアの人が書いているブログから、僕が見つけたマンホールの写真が出てきた。


「ほら! ビンゴ! やっぱり海原展望公園オリジナルのマンホールの蓋なんだって!」


「「「「おおおー!」」」」


「でもだからといって、やっぱり模様とは少し違うよね……」


「「「「ぉぉぉぉ」」」」


「じゃあ、次は私が見つけたのうみそみたいなマーク」


 リンが県立本多図書館で見つけたマークを指差ゆびさすと、「これも少し違う気がするんだ」とこうちゃんがメガネを指で直しながら発言した。


 なんだかこうちゃんのその感じ。ちょっと探偵たんていぽくってかっこいい。

 でも、あまりいい発見じゃなさそうな声のトーンだと思った。


「リンちゃんの見つけたマークは脳みそって感じがすごく簡単に書かれてる。でも、こっちの模様の方とは少し違う……」


 僕たちはこうちゃんの話に集中した。こうちゃんの声が慎重しんちょうに言葉を選んでる気がする。もしかして、なにかわかったのかもしれない。


「……それだけ」


「今すごく期待きたいしたし!」


「でもさ、お兄ちゃん。本当こうちゃんの言った通りだよ。おんなじように見えるけど、おんなじじゃない。でね、これみて。さっきお兄ちゃんがボタンを押して出てきた領収書なんだけど……。この知恵神社の領収書に書かれている小さなマーク、これをね、こうやって半分に折ると……。ほら! どうみても変な模様のこれとおんなじじゃない?」


 確かに綺麗きれいに半分になった知恵神社のマークと、コーラで浮き上がってきた変な模様はまるっきりおんなじ見える。


「ガチで! てか、もうそれこのまんまじゃん!」


 リーくんのその言葉に、僕たちはしばらくだまんだ。だって、知恵神社で見つけたマークが変な模様にそのまんまということは、僕たちが見つけたカニのようなマークと、脳みそみたいなマークはもしかして変な模様といっしょじゃないかもしれないんだから。


 公園の木にたくさんセミがいるのか、セミの声だけが耳の奥までひびいてくる。僕たちは押し黙って、しばらくセミの声にうもれていた。


「今から探し直すのは無理だよね……」


 リンが沈黙ちんもくやぶりそういうと、僕たちは静かに「うん」と小さく答えた。


「どうしよう……。もし違ってたら……」


 リンが泣きそうな顔をして下を向く。


 僕も今からまた変な模様を探しにいくなんて無理むりだと思ったら、悲しくなってくる。だって、公園のマークを見つけたのは僕なんだから。それに、時間だって、もう残り少ない。僕の家には夕方の六時くらいには帰らなきゃいけない。


「リン、ここまできたんだし、とりあえず、きっとこれで合ってるってことで、先に進むでいいんじゃない?」


「うん……。もう、そう思い込んで次いくしかないよね。だって。ほら時間も残り47時間を切ってるし……」


 リンがポケベルを僕に見せる。公園の時計は四時を過ぎてるし、それくらい減ってしまっていても不思議ふしぎじゃなかった。


「今日はここまでしかダメかも。だって、六時には家に帰らなきゃいけないし。ここからだと、えを考えても、あと一時間くらいで帰り始めなきゃ間に合わないよ……」


「ガチそれなー! ガチでそれなー!」


 リーくんが重い空気を破るようにやけに明るく声を上げる。


「ガチもっとみんなで謎解きしたい気分だよなー! だからここで時間いっぱい考えたらいいじゃん!」


「マークあってるかもしれない」


「だよなこうちゃん! 俺っちもあってるって思ってるぜ! それに、この先何見つけるのか俺っち全然ぜんぜんわかんねぇし!」


「あ、まずはもっかい地図をながめるところからやってみるとか?」


「まさやん、ガチそれな! それありよりのありだよな! なっ! ガッくんもそう思うだろ?」


「え? あ、ああ、うん。そうだよな、リン!まだ帰るまで一時間くらいは時間もあるんだし、ここでこの先見つけ出そうぜ!」


「お兄ちゃん達……」


「だって俺たちあれだろ? ピンチの時こそガチで楽しむ的な探偵団たんていだんだろ?」


 いつもふざけてばかりのリーくんだけど、今はその明るさに助けられた!

 みんなの空気も重たい世界から抜け出してきてる!

 もちろん僕も!


「そうだよリン! 気合入れ直して次のヒント探し出そうぜ! こういう時は、あれだろ? セーノ! だろ? リン!」


 リンの顔がぱあっと明るくなった。


「うん! そうだよね! お兄ちゃん達ありがとう! セーノ!」


「「「「「ガッチーズ!」」」」」


 

 僕たちは気合を入れ直した!

 だって僕たちは、ピンチの時こそガチで楽しめる探偵団なんだから!

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