第18話 知恵神社

 知恵神社ちえじんじゃは街の中にある神社で、バス停でバスを降りてから少し歩いていかなくちゃいけなかった。神社に行くまでの道には、お肉屋さんやお花屋さん、洋服屋さんに八百屋さんなどが並んでいる。いま僕たちは普通ふつうなら大人と一緒いっしょに来るような知らない場所に子供だけでいるんだ。そんなことを思い出したら、また、お母さんにうそをついて子供だけでこんなところに来ていることが怖くなってきた。


 商店街しょうてんがいの中にいる僕たち以外いがいの子供は、みんな大人と一緒だよな……。……って! ダメだダメだ! 弱気になるな! ここまできたら行くしかないだろっ!


「みんな! そこ通り抜けたら神社だろ? 誰がはやく到着とうちゃくするか、競争きょうそうしようぜ!」


 不安になりかけた気分を変えるために、僕はリンの背中のリュックをいきおいよくバーンとたたいて、「よーいどんっ!」と走り出した。みんなもそれにつられて、僕の後ろから走ってくる。


 まだまだリアルな怪盗キューピーからの謎解きは終わってない!

 あとひとつ、模様もようを見つけて、絶対怪盗キューピーを見つけ出すんだ!


 一気に商店街の屋根の下を通り抜け、青空が見える場所に出た僕たちの目の前に赤色の建物、知恵神社が見えてきた。このまま進めば神社の入り口に一番のりだ!


「はあー! やった! 僕が一番乗りっ! って、ええっ!? これが神社!?」


 赤い色の建物を目指して走ってきた僕の目の前には、キラキラまぶしく輝く黄金の鳥居とりいがどどーん!でっかくっている!


「すげぇ、ガチで金色じゃん!」


 リーくんもはぁはぁ息をしながら鳥居を見上げて声をあげた。


「最近金色になったんだよね」


 こうちゃんが、たらたら流れる汗をメガネを外して拭きながら、簡単に知恵神社の説明を僕たちにしてくれた。


「僕が五年生の時は赤かったよ。人も全然ぜんぜんいなくって。でも、金色にしたから、ほら、あそこ」


 こうちゃんが「あそこ」と指差す先には、金色の鳥居をバックにスマホで自撮じどりしているお姉さん達がいた。


「マジか。俺っちもろっと!」とリーくんがスマホを取り出そうとして、リンに止められる。


「リーくん、バカなの? ここに今日来たことがお母さん達にバレちゃうでしょ?」


「ヤッベ、そっかそっか! そうだったわ!」


 僕たちは、早速知恵神社の中から変な模様がないかを調べることにした。


 僕たちの背の何倍も大きくて、太陽の光でキラキラ輝いている黄金の鳥居をくぐり、ジャリジャリっと音を立てて真っ赤な建物に近づくと、ずらっと人がならんでいるのが見える。


「リン、あそこに何があるか見に行こうぜ!」


 並んでいる人の列の横に周り、何があるのかをのぞき込んでみると、変な四角い箱に向かってお辞儀をしているのが見えた。


「お賽銭箱さいせんばこなんじゃない?」


 まさやんがそう言うと、「怪盗キューピーにたどり着けますように! って、みんなで神様にお願いしておこっ!」とリンが言った。


 僕たちはそのお賽銭の列に並んで、順番が来るのを待った。


 それにしてもめっちゃ暑い〜!


 セミの声もうるさくて、列に並んでいるだけで頭がクラクラしてくる。はやく順番が来てくれよ! と思っていたら、僕たちの前にいたお姉さん達がお賽銭箱の前からいなくなり、ついに僕たちの番が来た。


 え?! これがお賽銭箱!?


 真っ赤な知恵神社の前に置いてある四角い箱の上には、黒くて大きなテレビ画面みたいなのがついていて、どう見てもお賽銭箱には見えない。


 リーくんがその真っ黒な画面をさわると、画面がパッと白色に変わり、シャンシャンシャンシャンと鈴の鳴るような音がして、白色の服に赤色のはかまをはいた、めっちゃ可愛かわい巫女みこさんのキャラが登場した!


 まるで僕が好きな異世界いせかいアニメのキャラクターみたいだ!


《知恵神社にご参拝さんぱいまことにありがとうございます。お賽銭さいせんはスマホ決済けっさんもお選びいただけます》


「「「「「すげ〜!」」」」」


 声までアニメみたいだ! 


 大きな画面には、スマホのマークと、お金のマークが書かれたおふだのようなものをアニメキャラな可愛い巫女さんが両方の手に持って微笑ほほえんでいる。


「と、とりあえず、お賽銭はお金だよね!」


 まさやんが急いでそう言うと、リーくんがお金マークが書いてあるお札のところを指でタッチした。


《かしこまりました。お賽銭箱をご用意いたします》


 画面に映っているアニメキャラの巫女さんがそう言うと、お金のマークが書いてあるお札がふわっと巫女さんの手から浮かび上がり、タッチパネルがスーっと上にスライドして、その下から普通のお賽銭箱があらわれた。


「「「「「おおー!」」」」


 僕たちは、その中にお賽銭を投げ込んだ。カランカランとお金が落ちていく音は、普通ふつうのお賽銭箱みたいだ。すぐにタッチパネルが一番最初の位置まで戻ってきて、金色の太いひものついた金色のすずが、画面の中でカランカランと音を出しながられている。その画面にまた可愛い巫女さんがスーッと左から現れた。


《 それではわたくしとご一緒いっしょに、二礼二拍手一礼にれいにはくしゅいちれいをいたしましょう》


「お兄ちゃん達! はやくおまいりしなきゃ!」


 僕たちは急いで画面に出ている巫女さんをの真似まねをして、二回お辞儀じぎをしてから手をたたき、最後にもう一度お辞儀をした。


 怪盗かいとうキューピーがはやく見つかりますように!

 うそついたことがバレてお母さんにおこられませんように!

 頭が良くなりますように!


 お願いがすんで顔をあげると、画面の中では可愛い巫女さんがニッコリ微笑ほほえんでいて、《領収書りょうしゅうしょが必要な方は、こちらのボタンをしてください》としゃべった。


「ここ押せってこと?」


 僕は思わず画面に出ている難しい漢字が書かれているボタンを押した。


——ウィーン


 変な音を出しながら、お賽銭箱の横に同じくらいの高さで立っている、赤くて四角い棒から白いレシートみたいな紙が出てくる。


「もう! お兄ちゃん! こんなのあったら、今日ここにきたことバレちゃうじゃん!」


「え? そうなの?」


「そうだよ! 領収書って、きっと今日の日付ひづけとかも書いてあるよ! ほら、ここ見てよ、今日の日付と時間と、あと、お金の金額と、……うそ!」


「ん?」


「うそ、うそ、うそ、うそー!」


「なんなんだよ! そんなにさっきのボタン押しちゃダメだったの?!」


「お兄ちゃん達……変な模様の三つ目ゲットしたかも……」


「「「「ガチで!?」」」」


「ほら! これ見て!」


 リンが僕たちに見せてくるそのレシートみたいな白い紙には、むずかしい漢字がいくつか書かれていて、その一番下に、確かに変な模様に似ているマークがのっていた。


「とりあえず! ここじゃダメだから、ほらあそこの公園の日陰ひかげでもっとくわしく見てみようよ!」


 僕たちは知恵神社のすぐ隣にある公園に急いで移動した。




 


 







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