第17話 県立本多図書館

 海原展望公園うなばらてんぼうこうえんから小山駅こやまえきに向かい、バスを乗りいで到着とうちゃくした県立本多図書館けんりつほんだとしょかんは新しく建てられた図書館で、大きなドームのようになっているお洒落しゃれな建物だった。


「私、一回来てみたかったんだ!」


 リンはお父さんの影響えいきょうで建物を見るのが好きだから、大好きな本がいっぱいある上にお洒落な建物の図書館はものすごく興味きょうみがあるみたいだった。でも、僕たち六年男子はだれこのんで図書館に来るタイプではない。


「すごいよね! この図書館! お父さんの持っている建築探訪集けんちくたんぼうしゅうの本にもってたよ! 休憩室きゅうけいもめっちゃ綺麗きれいなんだよ! お兄ちゃん達お昼ご飯はそこで食べようよ!」


 でも、この提案ていあんにはすぐさまみんなで「いいねぇ!」と声をあげた。バスの中はすずしいけど、りた途端とたんに太陽の光と熱で一気にあせき出てくる。


 きっと図書館の休憩室なら涼しいはずだ!


 休憩室は建物に興味のない僕でも思わず「わお!」と声をあげてしまうほどかっこいい空間で、天井がまあるくドームのようになっていた。それに思った以上に広くって、ジュースの自販機じはんきもあれば、アイスクリームの自販機もある。冷たい水がタダで飲めるウォーターサーバーがあるのもありがたかった。


水筒すいとうの中のお茶なくなりかけてたから、めっちゃ助かるよね!」


 まさやんがウォーターサーバーの水を水筒の中に入れながら僕に言う。僕も、まさやんの後に水筒に冷たい水をあふれるほどに入れた。


「お兄ちゃん達、すわるとこあってよかったね!」


「ほんとだよ。てか、図書館ってこんなに人がいるものなの?」


「この図書館はすごく人気なんだから! それに夏休みの自由研究じゆうけんきゅうコーナーとか、すんごいんだって!」


「へぇ、リンちゃん物知りだね」


「うん! こないだテレビの特集やってたの見たの! あ、それよりも! ここで探すマークのことなんだけどね」


 リンはリュックの中からまた白黒模様しろくろもようの紙を取り出し、真っ白でまあるいテーブルの上に裏返して乗せて、僕たちに説明を始める。


「この三つ模様のうち、ひとつはお兄ちゃんが見つけたマンホールのカニ。それがこれね! で、残りの二つなんだけど、ひとつはこのぐにゃぐにゃした模様で、もうひとつは、なんか丸っこい模様でしょ?」


「「「「うん」」」」


「で、実は私、こっちの模様、なんとなく分かるかもなんだ!」


「うっそ! それってすごくね? もうすぐにでも見つけれちゃう的な!?」


「リーくん、そうなの。お兄ちゃんがさっきの公園でマンホール見つけたからひらめいたんだけど、もしも私の読みが当たってるとすれば、これはきっとのうみそだと思うんだよね!」


「「「「脳みそ?!」」」」


「脳みそってあれだろ? 頭の中に入ってる?」


「そう、ここに入ってる脳みそ! お父さんの部屋の中にあったむずかしそうな本で、こんな感じのマークを見たことがあるんだ」


「リンちゃんすごいね、そんなお父さんが読むような難しい本、読めるの?」


「うんうん!」


「読めると言うか、面白くって見てたの。それで、お父さん、これって何? って聞いたことがあるんだよね」


「じゃあリン、そのお父さんが持っていた本をこの図書館で見つけれれば、変な模様二個目コンプリートってことじゃん!」


「「「うんうん!」」」


「多分ね!」


「「「「すげぇ!」」」」


 だからはやく探しに行こうよとリンに言われ、急いでおにぎりを食べた僕たちは、休憩室を出て図書館の案内板あんないばんを見て、二階の一番奥にある『コンピューター』と書かれた場所に向かった。


 背表紙せびょうしが漢字ばっかりの、何が書いてあるか全くわからない本だらけの中からリンが、「あったこれだ!」と一冊の大きな雑誌ざっしのようなものを見つけ出すのを見て、「こいつ、まじで頭がいいな」と僕は思った。僕と同じDNAディーエヌエーとは思えないや! きっと僕はお母さんに似てるんだ、なんて思っていたら、リーくんがリンを大きな声でめた。


「ガチでこんなむずかしい本、よくわかるなリンリン!」


「しぃー! リーくん、声が大きいって! ここは図書館なんだから」


「うん」


「ほら、こうちゃんのくらいの声じゃないとダメだって。で、早速さっそくなんだけど、えっと、どの辺だったかな……、ここじゃない、ここでもない、……あ、あった! これこれ、これってすごくてると思わない?」


 リンが難しそうな本のページをめくり、探し当てて指を差す場所を見ると、本当に探している変な模様のようなイラストがあった。


「めっちゃこれじゃん!」


「しぃー! お兄ちゃん、バカなの? 大きな声はダメだってば!」


 られた僕は手で口をふさぎながら、うんうんうなずく。


 でも、これほんと、見つけようとしてるマークそのまんまな気がするし!


「リーくん、これスマホで写真撮ってくれる? こっそりだよ? 写真とかきっと撮ったらダメかもだから!」


「お、オッケー……」



——カシャッ! カシャッ! カシャッ! カシャッ! カシャッ! カシャッ!



「あ、ヤッベ! 連写れんしゃモードで押しちゃった!」


「「「「しぃーっ!!!」」」」


 連写モードの音がやけにひび本棚ほんだな隙間すきまで僕たちは一瞬緊張いっしゅんきんちょうしたけど、周りの大人は誰もカメラの音を気にしてないようだった。


「ガチでごめん!」


「大丈夫、バレてないから! これで二個目の変な模様ゲットだね!」


 リンが小声でうれしそうに言うのを聞いて、僕たちは親指を立てて「イエーイ!」と返した。


 次なる目的地もくてきち知恵神社ちえじんじゃ

 

 知恵神社へはバスの乗り換えをしなくても県立本多図書館から一本で行くことができる。リーくんがスマホで調べると知恵神社までのバスが来るまでまだ三十分はありそうだった。


休憩室きゅうけいしつでアイス食べて時間まで待たない?」


 僕の提案ていあんにみんな大賛成だいさんせい


 僕たちはそれぞれ好きなフレーバーのアイスクリームを自販機じはんきで買って、休憩室で食べてから次の目的地へと向かった。




 時刻は午後二時十分。

 タイムリミットを表示するポケベルの残り時間は49時間を切っていた。



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