第12話 浮かびあがった地図

 油をってうかかび上がってきたものはどうみても地図にしか見えない。所々背の高いビルの絵や、何かのマークのようなものも書いてある。


「これって、スマホで画像検索がぞうけんさくしたら出てこないかな?」


 リンにそう言われ、リーくんがスマホでそのマークを撮影さつえいし画像検索にかけると、大きなデパートのマークだと分かった。僕たちの住んでいる県の大きな街にもそのデパートはある。丸に漢字の「大」をもじって顔になってるようなマークは、『大黒百貨店だいこくひゃっかてん』のものだった。


「やっぱり! このマーク見たことあるもん! リーくん、こっから一番近い大黒百貨店の場所って地図で出せる?」


「オッケー! すぐにやってみる!」


 リンもたのもしいけれど、リーくんもなかなかだ。僕たちの中でスマホを持っているのはリーくんだけだし、スマホの操作そうされている!


 リーくんが高速に指を動かして地図を探しているのをみていたら、となりにいるまさやんが僕に小さな声で話しかけてきた。


「ねぇ、ガッくん。この地図が出てきたってことはさ、怪盗キューピーにどんどん近づいてるってことだよね?」


「え? うん、そうだよね」


「なんだか僕、楽しい気持ちもあるけど、ちょっと怖いなって思う気持ちもあるんだ」


 まさやんの気持ちは僕にもわかる。怪盗キューピーは確かに変な格好をしているし、アニメキャラみたいでかっこいいとは思うけど、僕のお父さんにサイバーテロを仕掛しかけてきた頭のおかしいやつなんだ。


 それに、なんでお父さんの作ってるシステムが『あく』なのかの理由も探さなくてはいけない。子供だけで、本当に大丈夫なんだろうか。


 そんなことを少し考えていたら、「ヤッベ、これって街中にある一番でかい駅なんじゃね? 」とリーくんの声が聞こえて、僕とまさやんは同時にそっちに顔を向けた。


 いつの間にかリーくんのとなりにはこうちゃんも立っていて、「ここはここと同じだと思う」と言っている。


「やっぱり! お兄ちゃん達みて、これ! この地図のこのマークの場所がこの大黒百貨店だとすると、そこからまっすぐ伸びるここに、背の高い銀行のビルが立ってて、でもって、その先には、図書館のマークがあるよ! これって、こうちゃんが住んでる街だよね?」


「うん」


「となると、こっから電車で45分はかかるよね。お母さんは明日おばあちゃんちに行くって言ってたし、お母さんが帰ってくる前に家に戻れば……って、それはダメか。どこ行ってたのか聞かれちゃう。あ! そっか! じゃあ、こうすればいいんだ! 明日みんなでここの先にある小柴山こしばやまに登りに行きたいっていうのは、どう?」


「みんなで小柴山って、それって僕は宿題をしなきゃってことになってるからダメなんじゃない?」


「お兄ちゃん」とリンが真顔になって僕の方を向く。


「もうあきらめて欲しい」


「なにを?」


「お兄ちゃんはもう、宿題ができなくてお母さんに怒られる運命なんだよ?」


「え? そうなの!?」


「そうだよ! どう考えても終わるわけないじゃん!」


「ぐっ!」


「だからみんなで小柴山に行きたいってお願いして、ママーズたちにオッケーをもらえれば、みんなで小柴山に行けるってこと! お兄ちゃんは怒られるけどね!」


「…………」


 僕はなんだか少しモヤッとした。

 くっ! 言われたい放題だ!


「でもさリンちゃん、小柴山になんかあるの?」


「そうだよ、小柴山なんて行ったって何にもないかもしれないじゃんか!」


「もう、まさやん、お兄ちゃん、バカなの? それは一日出かける口実こうじつ! まずそれで一日中家から出かけれるようにしておいて、で、本当の目的地はこれから見つけ出すんだよ。だって! 地図が出てきたってことはこの中に怪盗キューピーがいる場所があるってことなんだから!」


「リンリン、ガチで頭いいな! 小柴山なら今までみんなで何回も登ったことあるし、ママーズもいいって言ってくれそうじゃん!」


「でしょ! 私さっそくママーズのオッケーもらってくる!」


 そう言ってリンは自分の部屋から出て、閉めかけたドアの隙間すきまから顔を中に入れて僕に言った。


「でも、少しは宿題進めておかないと、お兄ちゃんだけ小柴山にいけないかも」


「マジで?!」


「お母さんのオッケーが出るくらいは進めておいてよ!」


 バタン! とドアを閉めてリンは一階にいるママーズ達の元へかけおりていった。


「ガッくん! ドンマイ!」


「リーくんに言われるとめっちゃムカつく!」



 リンは上手にママーズ達を丸め込み、明日みんなで小柴山に行けることになった。だからここから先の謎解きは明日にして、今日は明日のためにもうねむることにした。僕たち男子は僕の部屋に移動する。リンの部屋を出るときに、そういえば、とリンが思い出したように僕に言った。


「そういえば言うの忘れてたけど、お母さんとの約束はね、お兄ちゃんが小柴山に行くためには、計算ドリルと漢字ドリルが半分以上終わってたらオッケーだって。みんなで行けるように、頑張がんばってね!」


「半分以上って多すぎん?! 」


 自分の部屋に戻った僕は、もう眠たすぎてドリルなんかできる気がしない。それでもまぶたを必死にこじ開けて、なんとか深夜2時をすぎたころには計算ドリルと漢字ドリルの半分が終わり、僕の長い長い一日がやっと終わった。



 

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