第13話 行き先

 ……はずだった。

 はずだったのにっ!


「なんでもう朝なんだぁー!」


「うるさいよ、お兄ちゃん。バカなの? 」


「こんな朝早くに起こさなくってもいいじゃんかっ! 僕寝たの二時だよ! 二時! わかる? 今六時! 四時間しか寝てないしっ!」


「バカなの? 出かける前にみんなで少しでもなぞいとかなきゃでしょ?どこに行けばいいのかがまだわかんないんだから。それにこれみてよ。タイマーどんどんっていってるんだよ?」


 そう言ってリンが手に持っているポケベルを僕の顔の前に突き出してくる。

 えっと、タイムリミットまで53時間を切っている?


「もうこんなに減っちゃったの?!」


「そうだよ! 寝てる時間もタイマーは止まってくれないんだからっ! だからはやく起きてどこに行くのかを見つけようよ。こうちゃんのママが小柴山こしばやまに行くなら車で送ってくれるとか言い出しちゃって大変なんだから!」


「え? 送ってくれるのラッキーじゃん?」


「お兄ちゃんバカなの? 小柴山が目的地じゃないんだから! それに小柴山に登るフリして別の場所に行かなきゃなんだよ? だからぁ! はやく目的地を探さなきゃダメなの! さっさと顔洗ってきてよね! まさやんとこうちゃんはもう私の部屋で謎解なぞとき中だよ! こうちゃんのママ、家に帰るついでに送ってくれるらしくて、八時過ぎには家を出なきゃだよ」


 謎解きして行き先を見つけて、それで出発が八時!?


「時間がないから急いで!」


 リンにせかかされ、僕は急いで洗面所に向かい顔を洗って歯磨きをしてからリンの部屋に向かった。


 部屋の中に入ると、まさやんとこうちゃんがリンと一緒いっしょに謎の箱からはがした紙をかこんで座っている。


 あれ? そういえばリーくんは?


「リーくんも起こさなくっていいの?」


「お兄ちゃん、リーくんが起きると思う? 朝までゲームしてたっぽいし」


「確かに」と言った後で、じゃあ僕ももっと寝かせてくれよと思った。でも、リンが僕をたたき起こしたということは、謎を解くのに僕が必要だったと言うことかもしれない。


 それって僕がたよりになるってこと?

 だったらめっちゃうれしいし!

 ふっ! なんだかんだ言っても低学年の妹だなっ!


「それで? なにかわかった?」


 僕はリンのお兄ちゃんとしてリーダー気分で三人に声をかけた。


「ぜーんぜんわかんない! でもこの紙と箱とポケベルしかないんだから、その中に絶対ヒントがあるはずなんだよね」


「「うん」」


 まさやんとこうちゃんが同時に答えて僕の方を向く。二人とも困った顔をしているところを見ると、まったく見当がつかないようだった。


 やはり、ここはお兄ちゃんとしていいところを見せなくては!


「僕にも見せてみてよ!」


 僕はまさやんとこうちゃんの間に座って、地図が浮かび上がった紙の一枚を手にとった。油をつけて浮かび上がった地図だから、少しべたべたしてて感じが悪い。


「この中のどこに行けばいいか、だよな……」


 そう言って紙を部屋の電気にかしてみるけど、所々にいろんな形の小さなマークが書いてあるくらいで、浮かび上がった地図以外におかしなところはない。


 地図帳ちずちょう地図記号ちずきごうっているページが開いて置いてあるのをみると、リンが僕の地図帳を僕の部屋から発掘はっくつしてきて、それを広げてみんなで調べていたみたいだった。


「僕たちその小さなマークは全部調べてみたんだけど、ただの地図記号だったんだよね」


「うん」


「で、どこに行けばいいのかがまだわかんないの。お兄ちゃん、わかる?」


「ううむ」


「お兄ちゃん、なんかひらめいたりしない? こういうのって常識じょうしきがない方が見つけれることあるからさ」


「ううむ……」


「私たちもう三十分くらい見てるけど見つけれないんだよね」


「うん」


「ガッくん、なんか見つからない?」


「ううむ……」


 電気に透かしてみても、床に置いて立ってながめてみても、「これだ!」というものは見つからない。白い紙に油をつけた紙を七枚並べて、一枚の地図になってるだけだった。


 みんなが僕に期待しているのがわかる。

 常識がない方が見つけやすいんだから。


 もう一度座り込んで紙を見つめる僕。

 める空気。


 だめだ! なんにも見つけられないっ!

 それにまだ頭が寝不足の寝起きでしっかり働いてない!


 でも、このみんなが僕に期待してる感をなんとかしなくては。このままなんにも見つけられないでは後に引けなさそうな空気がただよってる気がする……。


「もしかして……」


 僕はそうつぶやいてから、本当はなんにも思いついてなんかいないけど、思わせぶりに白黒の模様もようがついている方の紙を手に取り、「こっちに何かヒントがあるとか?」なんて言ってみる。


ねんのため、念のため……」なんて言いながら一番上にあった白黒模様の紙を手に取って眺めてみた。


 くそっ! まったくもってなんにもわかんない!


 白と黒の模様がついた紙。

 写真を撮って組み合わせたらQRコードになった紙。

 裏面は白色で、表面が白黒模様の紙。


 ああ、ダメだ。なんにも思いつかないやっ! せめて調べてる風に見えるようにしなくては!


 そう思って白黒模様の紙を電気に透かしてみると、チカッと目に違和感いわかんを感じた。


「あれ?」


「お兄ちゃん! なにか見つかったの?」


「いや、なんか今、電気に透かしてみたら変な感じがしたからさ」


「え? 変なって?」


「うん、あのね、こうやってさ、紙を電気に透かしてみると……? あれれ、さっきのように見えないや……おかしいな、こうやって紙をやったんだけど、そしたら何かチカって光ったような……。あ、ここだ。リン、この角度で持ってるから下からのぞいて見てよ」


 僕に言われて急いで下からのぞいたリンは、しばらく紙をのぞき込んで探していたけれど、僕の言っている光が見つかったと同時に、「これだ!」と声をあげた。


「すごい、これだよお兄ちゃん!」


 リンによると、僕が一いっしゅん見えたチカッと光ったような気がしたもの、それは小さな穴からみえた部屋の電気だった。


「まったく気づかなかった! 小さな穴だよこれは! だよねだよね、穴がなかったら箱から光がもれれるわけがないんだよっ! すごいよお兄ちゃん! お手柄だよー!」


 リンに褒められうれしい僕は、寝不足ねぶそくだけどすっかり目がめた。僕のお手柄で今日の行き先が見つかるかもしれないんだから!


「お兄ちゃん達、この紙の中から小さな穴を探して、それを地図に重ねてみようよ! ほら、ここに書いてある数字同士を重ねればちょうど箱の裏表になるようにしてあるからさ!」


「「「おおおー! さすがっ!」」」


 箱から紙をはがした時にリンやこうちゃんが書いた小さな数字。それを頼りに地図に白黒模様の紙を重ね、小さな穴に赤色のボールペンの先を差し込んでマークをつけてから白黒模様の紙をどけると、地図にいくつかの場所が示された。


「リンちゃん、これみると、なんにもない場所にも赤い点があるけど、ちゃんと何かある場所にも赤い点がついてるね」


「うん」


「ここに行けってことなのか? リン?」


「多分ね……。お兄ちゃん! リーくんをいますぐたたき起こしてきて! スマホでどういうルートが一番効率いちばんこうりつがいいのか、リーくんに調べてもらおうよ!お手柄お兄ちゃん!」


 僕は「へへへ」と照れかくしに笑って、リーくんを叩き起こしに自分の部屋に戻った。



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