第10話 フライドチキン落下事故

 こうちゃんが綺麗きれいがした紙に、この先の怪盗キューピーにつながるヒントがあると思うと、僕たちは興奮こうふんしてきた。


「マジでヤベェ、俺っち興奮して喉渇のどかわいたし、ちょっとコーラ飲んでくるわ!」


 リーくんがそう言って、一階のママーズたちが女子会をしているリビングに向かった。僕も一緒に行こうかと思ったけど、それよりも今は目の前に並んでいる紙の謎に興味きょうみがある。まさやんもこうちゃんも僕と同じだったみたいで、僕たちはリンの部屋に残った。


「これってまじで見つかりそうな気がしてくるよね」


「うん。でもお兄ちゃん、これって普通の謎解き脱出ゲームだとまだ入り口に入ったところくらいだよ。ここからが本番だって」


 嬉しそうにそう言ってからリンがすくっと立ち上がり、自分の勉強机の引き出しから何かをとって戻ってくる。


「まずは、紫外線しがいせんライトだよね!」


「紫外線ライト?!」


「うん! ほら! これこれ!」


 リンが嬉しそうに僕たちに見せているのは、百均で売っている『秘密のメッセージペン』なるものだ。このペンはリンの超お気に入りで、友達に秘密の手紙を書く時に使っている。このペンで書いた文字は見たところ何にも書いてないように見えるのに、キャップについている紫外線ライトを照らすと文字が浮かび上がってくるのだ。


「これのキャップについている紫外線ライトで浮かび上がってくるとかだったらいいんだけどな」


 リンがそう言って、床に並べた紙を一枚ずつ表も裏も照らしていく。


「出てこないなぁ。こんな簡単じゃないってこと? ふっ! やるわね! 怪盗キューピー!」


 何にも見つからないのになぜか嬉しそうなリンをみて、本当に謎解きが大好きなんだよな、と思った。僕とは正反対だ。でもそんな僕も今はワクワクしてリンが紫外線ライトでらすのをみている。まさやんもこうちゃんも、食い入るようにしてリンの照らす先を見ている。


 何か出てきてくれよな! そう誰もが思っているはずなのに、最後の一枚を照らしても、何にもヒントらしきものは出てこなかった。


「「「ああ! 出てこなかったぁ!」」」


 基本「うん」しか言わないこうちゃんまでもが声を上げる。でもリンは嬉しそうに、「今度は何を試そうかな」なんて言っている。


「水にらすパターン、火であぶるパターン、あとは何があったかなぁ?」


 リンが楽しそうに言いながら勉強机のとなりに置いてある本棚から『謎解き大辞典だいじてん』と背表紙に書かれた本を手に取った時、リンの部屋のドアが開いて、リーくんが戻ってきた。


「ママーズにつかまっておそくなっちゃったぜ!」


「リーくん、その手に持ってるもの、なに?」


「え? これ? フライドチキン! 俺っちのママからの差し入れ残ってたから持ってきちゃった」


「ちょっと、やめてよリーくん! 私の部屋が汚れちゃうし!」


「大丈夫だって! ちゃんと皿にのせてきたし!」


「リーくん! もう本当やだ! バカなの!?」


 思ったとおりリンに「バカなの!?」と言われたリーくんは、そんなのおかまいなしで、お皿を持って立ったまま床に並べてある紙をさわろうとしている?!


「お! この紙、なにかわかったぁ? って、おっとっと……!」


 うそだろ?! バランスをくずし、リーくんの持っている皿の上からスローモーションで落ちてゆく油ベットリのフライドチキン……。手を伸ばして絶対紙に落ちないようにしようとする僕とまさやんとこうちゃん。でも、その甲斐かいなく、あっけなく白い紙にべちゃっと音を立てて落ちるフライドチキーン!


「あ……わりぃ……」


「信じられないっ! すぐに拾って!」


「マジごめん!」


 そう言ってフライドチキンを拾い上げるリーくんが、「ん?」と声を出した。


「もう、本当早く拾って! これしかヒントがないんだからっ!」


「うん、そうなんだけどさ。リンリン? これって、なんだと思う?」


「そんなのフライドチキンの皮とかについてるやつでしょ!」


「や、違くて、ほらここ、いま落ちた場所見てみてよ」


「もう! どれよ!?」


「これ、ほら、フライドチキンが落ちた後の場所、なんか書いてあることない?」


「えっ!? うそ!?」


「ほらここ! ここ!」


「「「「どれどれ〜!?」」」」


 リーくんがフライドチキンを落とした場所には、油がべったりとついていて顔を近づけるとフライドチキンのにおいがした。でも、リーくんが言うように、本当に何か模様もようのようなものが浮かび上がっているような気がする。


「油なんて……やったことない……」


 リンがそう小さくつぶやくと、すぐさまリーくんの持っているフライドチキンの皿をうばい取り、人差し指をフライドチキンに押し付けてから、浮かび上がった模様のすぐ横にその人差し指をおいた。そしてゆっくりと指を離す。


 ゴクリ。

 フライドチキンの匂いにつられて出てきた唾を飲み込んで、僕たちもその指先のあった場所を見つめる。


「出てきた……。出てきたよお兄ちゃん!」


「うん、確かに何か、書いてあるように見える!」


「うん!」


「だよねだよね。リンちゃん、すごいよね!」


「ヤベェ、俺っち、もしかしていいことしちゃった? テヘヘ」


 まさかのフライドチキン落下事故らっかじこでヒントが浮かび上がってくるだなんて!






 


 

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