第8話 タイムリミット

 とりあえず今までのことをまとめてみようとリンが言い、自分の勉強机に座って黒い手帳を引き出しから取り出した。


「リンリン、それなに?」


「これ、探偵手帳たんていてちょう!まずは犯人の名前は、怪盗かいとうキューピーっと。それでそいつの目的はお父さんの作ってるシステムをこわすこと……こんな感じに書けばわかりやすいかな?」


 まさやんがリンの書いている手帳をのぞきこんで、「リンちゃんすごいね、わかりやすい」というと、リンは嬉しそうに、「へへへ」と笑って赤色のメガネを指でクイッと鼻にかけ直した。思わず僕ものぞきこむ。


 確かにわかりやすく書いてある。本当に名探偵みたいだ。


***


『お父さんの会社へのサイバーテロをそしせよ!』


犯人

・怪盗キューピー(シルクハット、マント、オーバーな動作でしゃべる、ボイスチェンジャー、多分男の人、性格はかまってちゃん)


犯人の目的

①お父さんの今作っているシステムをこわすこと

②なんでお父さんの作ってるシステムが悪いのかを調べること

③お父さんを自分の仲間にしたい?


今あるヒント

①ポケベル(タイムリミットをひょうじ)

②箱(QRコード)


タイムリミットがスタートした時間



***


 リンは探偵手帳にそこまで書いて、怪盗キューピーがやったみたいに椅子いすをくるっと反転して僕たちの方を向いた。


「お兄ちゃん達が最初に箱がれるのを見た時間は何時くらい?」


「あ、それならすぐわかるぜ、ほらスマホ見ればさ」


「さすがリーくん!」


 リーくんのスマホの動画撮影開始時間どうがさつえいかいしじかんは、午後3時10分だった。


「3時10分ってことは、このポケベルのタイマーの時間が69時間を切ってるから、今がえっと、6時だから、だいたい3時くらいがスタートってことだよね。3時にスタートっと」


 そう言ってリンはまたくるっと椅子をまわして机に向き直り、探偵手帳の『タイムリミットがスタートした時間』のところに『8月16日午後3時』と記入した。


「大変お兄ちゃん! もう3時間も使っちゃったよ!」


「でもまだ69時間もあるんだろ?」


「バカなの?! 寝る時間は捜査そうさができないじゃん!」


「「「「なるほど〜」」」」


「いい? 一日8時間寝るとしてだよ? 猶予ゆうよは三日だから72時間、その間に寝るのは三回もあるよ? てことは、えっと、ハチかけるサンで24時間は使えないから、69から24を引いて、45時間しか残ってないことになっちゃう!」


「45時間もあるじゃん」


「もう! リーくんバカなの? これからどれだけのなぞを解かなきゃいけないかもわかんないじゃん! こうしてはいられないっ! 早く次の手がかりを見つけないと!」


 リンは椅子からぴょんと飛び降りて、怪盗キューピーから届いた謎の箱をまた調べ始めた。僕たちもリンをかこんで座る。と、その時、リンの部屋のドアが力強く「ドンドン」とノックされた。


 ヤバイっ! これってまさか!?


「リン? お兄ちゃん達来てる?」


 やっぱり! ママーズ達が家に帰ってきちゃったんだ! それになんかお母さんの声がお怒りモードの時の声っぽい!?


 思わずリンの顔を見た僕にリンは、うんうんうなずいてから、小声で僕たちに指示を出した。 


「お兄ちゃん達、普通ふつうにしててよ。私がうまいことごまかすから! リーくん、この箱そこのベッドの下にかくして! すぐにっ!」


「りょ!」


「お兄ちゃんも、いつも通り、や、それだとまずいから、いつもよりにしててよ!」


「うん?」


 なんかいま、変なことを言われたような気がするけど、まぁいっか?


「リン? いないの? 開けるよ?」


「いるよー! いまお兄ちゃん達とトランプしようかなって思ってたとこー」


「そう? 開けるねぇ」


 お母さんはさっきよりは優しい声でそう言って、リンの部屋のドアを開けた。僕はそんなお母さんの声を聞いて、お怒りモードじゃないんだと思ってほっとした。


 けど……。



「がく〜! ちょっと一階にきなさいっ! あとリーくんも、こうちゃんもまさやんも! ちょおっと、お話がありますっ!」


 一階に降りる僕たち。

 かなりお怒りモードな僕のお母さん。お母さんの階段を降りる音もドンドンひびいて聞こえる。


 リビングの前に到着とうちゃくしたお母さんはガラッとドアを開けて、お怒りモードポーズの仁王立におうだちで中を指さした。


「これ、なあに?」


 クーラーはつけっぱなし。

 ゲーム機を出しっぱなし。

 荷物はほったらかし。

 さらには、コーラのペットボトルのふたが開けっぱなし?

 


「あなた達! 片付けできないなら速攻そっこうお泊まり会中止するからね!」


 お怒りモードのお母さんにしかられて、僕たちはリビングを片付け、掃除機そうじきをかけて夕飯の準備を手伝わされた。


 今日は毎年恒例まいとしこうれいお泊まり会。夕飯は毎年恒例バーベキューだ。リンがそんな僕たちを見て、ひとこと、「バカすぎる」と言ったのを僕は聞き逃さなかった。








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