第7話 怪盗キューピー

 真っ黒だったリーくんのスマホ画面に少しづつ動きが見える。暗闇くらやみの中に誰かがいるみたいだ。


「ガチでヤベェ、これって大丈夫なんかな?」


「しっ!静かに!リーくん、スマホの音量マックスにして床にスマホ置いて。そうしたらみんなでれるから!」


 リンにそう言われて、急いで僕たちはリーくんが床に置いたスマホの周りに座り直した。スマホの画面はだんだんと明るくなっている。そして、見えてきた黒い人影ひとかげ。スマホの画面が小さいからよくわからないけど、どうやらシルクハットのようなものをかぶって、椅子いすに座って足を組んでいるように見える。後ろから光が照らされていて、まるで影絵かげえみたいだ。


「マジウケる。なにこの帽子ぼうし。それにマントとかつけてるし!」


「だよね」


「うん」


「リン、これってさっき言ってたウィルスなのか?!」


「しっ! 静かに!」


 リンに注意ちゅういされ、僕たちは肩をすくめ、息をひそめて画面に集中した。


 影絵のようになっているその人影が、それが話を始める合図でもあるかのように、足を組みなおす。僕はドキッとして、ごくんとつばを飲み込んだ。長い足を伸ばして組み直すなんて、まるでアニメでもみてる気分だ。僕はその影絵のような人影にもっと意識を集中した。


『ここにたどり着いたと言うこと、まずはそれをめてやろう』


 ボイスチェンジャーを使ったようなデジタルな男の人の声が聞こえ始め、僕たちはみんなで顔を見合わせてから、またすぐにスマホを見た。


『我が名は怪盗かいとうキューピー。社会のやみぬすみ出し、この世界を正しい方向へとみちびくものだ。お前が今作っているシステムは社会をゆがめる悪しきものだ。今すぐ作ることを放棄ほうきし、システムを全て破壊はかいするのだ』


「どういう意味なんだろう?」


 リンがつぶやく。スマホを見つめる僕たち。この状況じょうきょうは普通じゃない。でも、どこかワクワクしてくる。だって、黒い人影がボイスチェンジャーで話すなんて本当にアニメみたいだ。


 シルクハットをかぶった黒い人影は、くるっと椅子をまわし、その反動で人影がつけているマントがふわっと動いた。


 いまのもなんか、すごくかっこいい!


 椅子が元の位置に戻り、また足を組み直す人影に興奮しつつ、視線しせんをみんなに向けると、リン以外のメンバーも僕と同じように思ったのか、まるで映画でもみてるみたいな顔をしてスマホ画面をのぞき込んでいる。でも、リンだけは真剣しんけんにスマホ画面を見つめていて、僕は急いでスマホに視線を戻した。


 黒い人影は両手を広げ、次の話をしはじめる。黒い人影のやけにオーバーなジェスチャーが僕のワクワク感を高めてくる! 僕は出来る限り体をちぢめてスマホ画面に顔を近づけた。


『だがしかし、お前はなかなか行動力がある。この動画にたどり着くことができたのだ。お前がいま作っているシステムを破壊はかいすれば、お前の会社の他のシステムを攻撃こうげきすることをやめてやってもいい。猶予ゆうよは三日。その間にお前の作っているシステムのなにがあくなのかを知るのだ。そして、お前もこちら側にくるがいい。この世界を正しい方向に導くために、お前の力を善良ぜんりょうな方に使うのだ。私にたどり着けることを期待きたいしている』


 そこまで話したその人影はすくっと立ち上がり、着けているマントをバサっと思いっきりひるがえした。そして、そのマントの黒い影が画面いっぱいに広がった瞬間しゅんかん、動画はブツっと切れた。


「うっそ、マジですごくね?」


「うん」


「なんか、ちょっとかっこいいとか思っちゃった」


「まさやん、僕も!」


「もう! お兄ちゃん! バカなの!? 今の話聞いてた? 猶予は三日、それまでにお父さんの作っているシステムのなにが悪いのかを見つけて、こいつにたどり着かなきゃ、お父さんの会社のシステムはぶっ壊されちゃうんだよ!」


「お、おう、そうだなリン!」


「でもさ、なんかすごいかっこ良かったよね!」


「うん!」


「めっちゃ映画でも見てる気分だった! 俺っち興奮こうふんしてきた!」


「もう、そんなこと言ってる場合じゃないってば! でも、変な格好かっこうにマントまでつけて、ちょっと……アニメみたいって私も思った……」


「「「「だろ?」」」」


「と、とにかく! なにがなんでもこいつを見つけ出さなきゃダメってこと!」


「そうだな! こんな面白いやつ、絶対見つけ出したいよな!」


 リーくんがそう言って、もう一回観てみようとQRコードをスマホで読み込んだ。でも、さっき見た動画につながることはなく、僕たちはとってもがっかりした。


「ガチで? 一回だけってせこくね? こんなことなら画面録画がめんろくがしとけばよかったぜ!」


「ほんとそうだよね! でも、言いたいことはわかったわよ。いま手元にあるヒントだけで怪盗キューピーにたどり着かなきゃ、お父さんの作ってるシステムも、お父さんの会社のシステムもぶっこわされちゃうってこと!」



 僕たちはみんなで顔を見合わせて、うんうん頷き合い、決意けついを固めた。リンがスッと手を僕たちの真ん中に伸ばし、僕たちもそこに手を乗せる。


 この怪盗キューピーを絶対に見つけ出し、お父さんのシステムを守るんだ!


「お兄ちゃん達! 絶対見つけ出そうね! セーノ!」


 リンが大きな声でそういうと、僕たちはさっきつけたばかりの探偵団たんていだんの名前をさけんで気合きあいを入れた。



「「「「「ガッチーズ!」」」」」



 みんなの手の熱を感じながら、僕はこんなに楽しいことってゲーム以外にもあったんだ! と思った。


 

 




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