第5話 ガッチーズ誕生!

 黒い人影ひとかげは腰に手を当ててえらそうに仁王立におうだちしている。これはお母さんが僕を本気でおこるときによく決めるポーズ……。終わった。お母さんがこのポーズを決めるときは、かなりのお怒りモードの時だ。僕はしかられる覚悟かくごを決めた。僕の怒られ方次第しだいでは、お泊まり会速攻中止そっこうちゅうしもありえてしまう。こういうときは自分からあやまるにしたことはない。


「お母さん、ごめんなさい、これはその……」


「お兄ちゃん達、勝手にお父さんの部屋に入ってダメじゃない。バカなの?」


「……へ?」


「リンちゃん?」


「リンリンか! ガチビビったぜ!」


「うん……」


「もうお前おどかすなよな! まじでお母さんかと思ってビビったし!」


「何がビビったしよ。お母さんがお父さんの部屋にみんなで勝手に入ったなんて知ったら、速攻そっこうお泊まり会解散かいさんだよね! お兄ちゃん!」


絶対内緒ぜったいないしょにしろよ!」


「どうしよっかなぁ」


 黒い影の正体が僕の生意気すぎる妹リンだとわかって僕達はほっと胸をで下ろした。お母さんじゃなくて、本当に良かった! と思ったのもつか、リンはかけている赤縁あかぶちのメガネを指で直しながら、お父さんの部屋に入ってきた。


 まずいっ!

 お父さん宛の小包をさわったことがバレてしまう!


 僕はサッとお父さんの机の前に移動して、さっきの変な箱をリンから見えないように隠した。でも、そんなのはもうすでにバレていたようで……


「お兄ちゃん、それなに?」


「え?」


「その後ろにかくしてる変な模様もようの箱」


「え? そんなのないよ?」


「あるよね。それだって、それ」


「え? どれ?」


「バレバレだって。もう本当、バカなの?」


「りんちゃん、あのね、これはね、えっとね」


「もうまさやんは黙ってて! バカなの?」


「はい……」


 ごめんな、まさやん。僕の妹は「バカなの?」が口癖くちグセなんだ。


「へー。これタイマーだね。今どきポケベル?」


「わわわっ!」


 僕がまさやんとアイコンタクトしている間にリンは僕の後ろに隠していた箱の中身をのぞき込み、中に入っていたものを手に取って見ている。


「ちょ、お前、勝手にさわったりしたらダメだろ!」


「勝手にこの箱開けたのはお兄ちゃんなんでしょ? これって、さっききた宅配便の人が持ってきたやつだよね?」


「おまっ、なんでそれを?」


「窓から見えたから。ああ、ピンポーンは宅配の人なんだって」


 そんな時から見えていたのなら、あんな仁王立におうだちのポーズをして登場しなくてもよかったんじゃ!?


「へぇ、それにしても初めてみるな。ポケベルなんて」


「リンリン、とりま、そのポケベルっていうのはなんなん?」


「ポケベルっていうのはね、スマホができるずっと前にあったメールのやり取りだけするやつ。もう使ってる人なんて誰もいないけどね」


「へぇ、さすが物知りだね、リンちゃんは」


「うん」


「まあな、リンは本ばっかり読んでるガリ勉だからなっ!」


「お兄ちゃんみたいにゲームばっかりよりいいに決まってる! バカなの? それよりも、さっきの音よ。お兄ちゃん達、お父さんの部屋でなにしてたの?」


「え? それは……」僕が言葉をつまらせると、リーくんがすかさず今までのことを説明してくれた。


「ほら、これが証拠しょうこ動画どうが!」


 リーくんのスマホに映っているポルターガイスト現象げんしょうや、箱から音や光が出たのを見てリンは、「こったことしてくれるじゃない」と言って、また動画を見た。そして、パソコン画面が映し出された場面で、「ちょっと止めて!」とリーくんに指示を出した。


「これって……、犯行予告はんこうよこくだよ!」


「「「「犯行予告!?」」」」


「うん! お兄ちゃん達もこれ読んだならわかるでしょ?」


「え?……うん?」


「もう、本当バカなの? 小学六年生が四人もいるのに!」


「俺っち、カタカナ苦手かなぁ……」


「もう! これは、こう書いてあるの! お前の作っているシステムは社会の悪だ。今すぐ作るのをやめろ。やめなければお前の会社の全てのデータを破壊はかいする。猶予三日ゆうよみっか。って書いてあるのよ?」


「ガチで?!」


「リン、それ、めっちゃやばいじゃん!」


「うんうん!」


「お前のって、ガッくんのお父さんの会社のデータってこと?」


「そうだよ! これ、サイバーテロだよ! お兄ちゃん!」


「「「「うそ……」」」」


「本当! でもさ、よく考えてみると、わざわざこんなもん送ってきて、こった演出して、これ送ってきた人、ひまなんだね多分。システムこわすだけならさっさと見つからないように今どきオンラインでやるでしょ?」


「そ、そういうもん?」


「そういうもんだって。今どき、国際的こくさいてきなサイバーテロ組織そしきだってあるくらいなんだから」


「「「「なるほどー!」」」」


「だからぁ、わざわざこんなもん送りつけるってことは、かまってちゃんなのよ。おれがやったんだとか言いたいやつとかがやるじゃん、こういうこと」


「リンリンまじで頭いいな! じゃさ、この箱送ってきたやつは見つけて欲しいって事? 」


「多分ね。じゃなきゃ、こりすぎじゃない? さっきの動画を見る限り」


「あ、でもさ、りんちゃん、なんで箱は動いたの?」


 リンはそんなの簡単じゃないと最初に言ってから、手に持っている四角くて黒い小さな機械きかいを僕たちに見せた。


「これよ、ポケベル。このポケベルは音も出れば振動しんどうふるえることもできるのよ!」


「「「「なるほどー!」」」」


「でも、問題が……」


「え? 何か問題が他にも!?」


「うん。お兄ちゃん、これ見て。これ、どんどん数字が少なくなってるよね?」


 僕たち六年男子はリンの手に持っているポケベルというものをのぞきこむ。確かに、数字がだんだん減っている。まるでストップウォッチみたいに。


「さっきの予告状も猶予ゆうよは三日って書いてあった。一日は24時間。お兄ちゃん、三日で何時間?」


「え?! えっと、24かける3だから、えっと、えっと……」


「もう! バカなの!? 72時間だよ!」


「「「なるほどー!」」」


「なるほどじゃないっ! これ見てよ! もうタイマースタートしてるってことでしょ?!」


 確かにリンが言うように、ポケベルに映っている数字は7を頭にしてどんどんどんどん減っていく。


「え?! じゃあお父さんの会社のデータが壊されちゃうってこと!?」


「そうだって! もう始まってるんだって。しかも、お父さんは山に登っていて明日の夜にしか帰ってこないの!」


「ガチでやばすぎじゃん!」


「うん」


「どどど、どうするの? ガッくん?」


「え? どうするって……リン! どうしたらいいのこれ!?」


「そうね……」と言って、リンは赤縁のメガネをそっと指で押しながら、「ふっ」とかすかに笑った気がした。


「この箱を送ってきたやつを見つけ出して、このサイバーテロを止めてみせる、とか?」


「うそだろ……?」


「ううん、本気だよ。だって、この送ってきた人、かまってちゃんなんだよ? 絶対自分にたどり着くヒントとか残してるって! こう言うのは、よく探偵たんていアニメであるんだから!」


 そう言えば、リンは探偵アニメが大好き、いや、アニメだけではない。映画もドラマも、むずかしい本だって辞書じしょを片手に読んでいる。さらには、謎解なぞとき脱出ゲームがバカみたいに大好きだ。


「ふふふ、私がこのなぞをといて見せましょう!」


 なんだかうれしそうに言うリンを見て、僕たちのめていた空気が少し変わった気がした。そう思ったら、なんだかこの状況じょうきょうが面白くなってきた。


「まさに頭のおかしいかまってちゃんが仕掛しかけてきたリアル謎解き脱出ゲームね! もちろんお兄ちゃん達も一緒にこれを送ってきた犯人を見つけるでしょ?」


 リンにそう聞かれ、僕たち四人は顔を見合わせた。さっきまでの恐怖感きょうふかん緊張感きんちょうかんはどこかに行ってしまって、なんだかみんなワクワクしているように見える。


「もちろん! 超楽しそうじゃん!」


 リーくんが言う。


「うん!」


 こうちゃんも言う。


「みんながやるなら、僕も……」


 まさやんもそう言った。


「お兄ちゃんは?」


 僕は正直不安だけど、こう言うしかない!


「あったりまえだろ! やるに決まってる!」


「じゃあさ、お兄ちゃん達に提案ていあんがあるんだけど……」


 さっきまでのえらそうな態度たいどとは打って変わってリンが少しモジモジと下を向きながらずかしそうにしている。


 え? こんな姿、めずらしくないか?! いつも上から目線だし!なんて思ってたら、リンが、しの名探偵アニメの話をしてから、なんとか探偵団たんていだんみたいな名前をつけないかと言った。


 僕たちはもちろん大賛成だいさんせい


 リーくんが「ガチガチのガチで楽しいやつじゃん! それ!」と間のいいタイミングで発言したことを受け、僕たちは、ピンチでもガチで楽しむクレイジーな探偵団「ガッチーズ」を結成けっせいした!





 

 

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