第4話 怪しげな箱

 二階のお父さんの部屋の前につき、僕たちはドアの前で耳をすました。


「「「「…………」」」」


「何にも聞こえないね」


「うん」


「俺っちも、外のセミの声しか聞こえねぇよ?」


「だよね……。でもさっき本当に動いたんだよな」


「部屋開けてみたら?」


「うん」


「そ、そだね……」


 ゴクリ。僕はつばを飲み込んでから、ドアノブに手をかけた。大丈夫、だってさっきはひとりだったけど、今はみんながいるんだし……。


——ギィーー……


 ムッとする部屋の熱気を顔に感じながら、部屋をのぞき込む僕たち。薄暗い部屋には特に変わったことはなく、さっき僕が置いた位置にお父さん宛の小包は置いてある。


「別に、変なことなくね?」リーくんがそう言って、一歩部屋の中に入ったのをみて、僕たち三人も部屋の中に進んだ。


 リーくんが、お父さんの机の前まで行き、さっき動いた変な箱を手に持って、「これが動いたの?」と僕に聞く。


「うん、それがさっきガタガタガタガタ動いたんだけど……」


「何にも中から音がしないけどなぁ? 」と言いながら箱に耳を当てているリーくん。そのそばに僕たち三人も近づいて、同じように箱の中に耳をすましてみた。


「何にも聞こえないし、生き物が入っている気配は感じないね」


「うん」


「でもさっき、確かに動いたんだよな……」


「それはさぁ、ガッくん、もう、あれだって」


「え? リーくん、あれって?」


「ポルターガイストじゃね?」


「ややや、やめてよ! リーくん、変なこと言うの! それだと僕の家にお化けがいることになっちゃうじゃん!」


「おぼんだしね」


「まさやんまで!」


「うん」


「こうちゃんまで!?」


「なーんて冗談冗談じょうだんじょうだん! ガッくんもしかしてお化けが怖いの? ガチでウケるんだけど!」


「もう! じゃあ僕の見間違いでいいからっ!」


 そうは言っても、僕は絶対に見間違えてなんかいない。でもそうなると、僕の家にお化けが住んでいることになってしまう。ううむ。僕の気のせいだったのか?!


「アチ〜し、はやく下に降りてゲームの続きしようぜ!」


 リーくんがそう言って箱をお父さんの机の上に置いたのを合図に、みんなはさっさと部屋を出ていく。なんか何にも解決してない気がする僕だけど、もういいやとドアを閉めようとした時、また、机の上の小包がガタガタガタガタ動き始めた。


 その音につられて振り向くみんな。すぐさま僕のとこまで戻ってきて、三人も部屋の中をのぞき込んだ。


「うそだろ……」


「動いてる……」


「うん」


「ね!? 僕が言った通りでしょ!?」


「ガチで? これガチのポルターガイストじゃね?」


「またぁ、やめてよリーくん!」


「ちょまっ! 俺っちスマホとってくる! これ絶対バズるやつじゃん!」


「「「え?」」」


 リーくんは急いで一階に駆け下りて行き、自分のスマホを持ってすぐさま戻ってきた。


「これ中に入って暗くして撮影しようぜ!」


「ええー! やだよ!」なんていう僕たちの声を無視してリーくんは中に入り、僕たち三人も部屋の中に引きずり込まれてしまった。


 もしこれが本当にポルターガイストならば、お化けがこの部屋に!?

 僕の心臓の音が耳の中で聞こえる。


「ヤベェ、まじで動いてる……」


 スマホのカメラで動画撮影どうがさつえいをしながらリーくんが楽しそうにいうけれど、僕は全然楽しくない。だって、ここは僕の家なんだから!


 リーくんが「これさわったらどうなるんだろ?」と言いながら不気味な箱に手を伸ばしたその瞬間!



——ピーピーピー!ピーピーピー!ピーピーピー!



 何かを警告けいこくするようなするどい音が不気味ぶきみな箱から聞こえ始め、ピカーっと青い光がいくつもいくつも部屋中に糸のような線であふれ始めた。


「ガチでやばくない?!」


「うん」


「もうやめて……」


 思わず僕の声がもれる。


 こんな怖いものが家の中にあるなんて最悪だ!


 部屋の中にはするど警告音けいこくおんがけたたましくひびき、薄暗い部屋の中にはいくつもの青い光の線が浮かび上がっている。と、その時、動いていた箱がピタッと動きを止めた。


「あ……とまった?」


 まさやんが小さくそうささやくと同時に、警告音もピタリとやんで、箱のふたが自動的にパカっと開き、今度はお父さんのパソコンが起動きどうする音を出し始めた。


「お父さんのパソコンが動き出してる?!」


「ガチでやばくね?」


「うん」


「だよね」


 僕たちは自然に四人でくっついて、お父さんのパソコン画面を恐る恐るおそるおそるのぞき込んだ。


 パソコンにはブラック画面に赤い文字で、


 『オマエノツクッテイルシステムハシャカイノアクダイマスグツクルノヲヤメロヤメナケレバオマエノカイシャノスベテノデータヲハカイスルユウヨミッカ』


 と書いてある。


「え? 何これ!? どういうこと!?」


「わかんねぇ、でも、なんかきみが悪いよな」


「うん……」


「ガッくん、これ、怖すぎるよ……」


 まさやんが泣きそうな顔で一歩後ろに下がると、パソコンは、まるで僕たちがメッセージを読み終わったのを確認かくにんしたかのように、変な音を出しながらブツッと電源でんげんを落とした。


「「「うわぁ……」」」


「ヤッベ、すげえ動画撮どうがとれちゃった!」


「それどころじゃないって、リーくん……」


 これはポルターガイストなのか、それとも何かの犯罪はんざいなのか?! とにかく何か「とてつもなく悪いことが起きている」ということだけは間違いない。僕は思わずこうちゃんの腕をつかんだ。こうちゃんは基本「うん」しか言わないけれど、クールなところがたよりになるはず……と、思ったのに! こうちゃんも泣きそうな顔をして僕の方を見ている。まさやんは、言うまでもない。


 僕たち三人が怖さにふるえて、もう部屋から出ようと目で合図を送りあったその時、僕たちの背後で勢いよく部屋のドアが開く音が聞こえた。



——バーン!



「ひぃー!」


 変な声を出しおどろきながら振り向く僕たちの目の前には、真っ黒な人影が!?












 

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