第3話 謎の小包

「あ、誰か来たみたい! ちょっと待ってて僕見に行ってくるから! それにしても大興奮だいこうふん手汗てあせがひどいや」


「俺っちも!」


「うん」


「あ、僕のダウンロード、あと三分になったよ!」


「じゃあ、まさやんのダウンロード待ちでそれまで休憩きゅうけいだね! すぐに行ってくるから! リーくん、ゲーム始めないで待っててよ!」


 リーくんの「ホーイ!」という声を背中に聞きながら僕は急いで玄関に向かった。


 こんな時間に誰だろう? お母さんはまだ帰ってこないだろうし。なんて思いながら玄関のドアを開けると、すらっと背の高い宅配業者たくはいぎょうしゃのおじさんが立っていた。なあんだ、ただの宅配便か。


「お届け物です。タナカタケルさんのお宅で間違いないですか?」


「あ、はい。僕の家です」


「それではこれを、失礼いたしました」


 宅配便のおじさんは僕に四角い箱を手渡してお辞儀じぎをしてからさっさと行ってしまった。お父さんあての真四角な小包だけど、なんか変なの。なんで宛名あてなが書いてないんだ? それに箱の周りには不思議ふしぎ模様もようがいっぱい書いてある。


 みょうに気になるけど、まいっか。それよりも早くみんなのところに戻らなくっちゃ、まさやんのダウンロードが終わったらきっとすぐにゲーム開始になっちゃう!


 僕は急いで二階のお父さんの部屋に小包を置きに向かった。僕のお父さんは東京のIT企業アイティーきぎょうで働いていて、いつもは自分の部屋にこもりリモートで仕事をしている。お盆休みの今日は泊まりで大学時代の友達と山登りに行くって言ってたから、明日までは帰ってこない。


 さっさとこれを置いて、みんなと一緒にフラバト二回戦だ! 今度は僕も最後に玉座ぎょくざおどりたい!


「お父さんの部屋に行ってから戻るから、みんなまだやらないで待っててねー!」


 僕は急いで階段をけ上がり、お父さんの部屋のドアを開けた。


 うっ……。超暑ちょうあつい! 熱気ねっきがすごいや。


 お父さんの部屋は二階にあって、いつもカーテンが閉めてある。大事なパソコンを真夏の熱気から守ためだって言ってたけど、こんなに暑いんじゃ全く意味がないな、と僕は思った。それに薄暗うすぐらくってやな感じだ。


「パソコンのとこでいいよね」


 僕はパソコンの置いてある机の上にさっき届いたお父さん宛の小包を置いて、部屋を出てからドアを閉めようとした。


——ガタッ!


「え!? 」


 閉めかけたドアを少し開けて中をのぞいてみると、小包はちゃんと僕が置いた位置にあった。


「気のせいか」


 僕はまたドアを閉めようと、にぎっているドアノブを手前に引こうとした、その時、さっきよりも大きな音が薄暗い部屋の中から聞こえてきた。


——ガタガタガタガタッ


「えっ……?!」


 急いでドアを開けて部屋をのぞくと、今度は見間違みまちがいようがないほどに机の上で小包がれている!?


 え?! なんでなんで!? 何で箱が動いてるの!? まさか! これがうわさのポルターガイスト……?!


 僕の頭にテレビの特番で見た『真夏の怖い話』の再現ドラマがよみがえってくる。お化けのいたずらで、誰もいないはずの部屋の中のものが勝手に動き出す的な……。


「ガッくーん! 」


「ひぃっ!」


 一階から僕を呼ぶリーくんの声にびびって、思わず変な声が出てしまった。


「ねぇー、まだぁー? 先やってていいのー?」


「リーくん! あのさぁ、なんか変なんだよ! ねぇ、みんなで二階にきてよ!」


「えー、アチ〜じゃーん!」


 僕がリーくんに大きな声で話しかけている間中もずっとお父さんの机の上で小包が揺れ続けている。こ、これ以上ひとりでここにいるのは怖すぎるっ!


「ちょっと待ってて今降りるからっ!」


——ダダダダダ!


 階段をけ下りて、ガラッとリビングの扉を開けると、リーくんが二リットルのペットボトルからコーラをがぶ飲みするところだった。


呑気のんきにコーラ飲んでるだなんて! 僕はすごく怖かったんだから!」


「なんで?」


 コーラを飲んでるリーくんの代わりにまさやんが僕にたずねてくる。僕は急いで今起きたことをみんなに話した。


「あのさ、さっきお父さん宛の小包が届いたんだけど、その箱がさ、お父さんの机の上でガタガタガタガタ揺れ出したんだよ!」


「「まっさか〜」」


「うん」


「いや、ガチで! 本当、ガタガタガタガタ動いてるんだって! ほら、静かに耳をすませると二階からなんか聞こえたりしない?」



「「「「…………」」」」


「や、聞こえないね」


「でもまさやん! 本当に動いたんだって!」


「その箱、生き物とか入ってたんじゃね? カブトムシとか、ネットとかでも買えるじゃん? ガッくんのお父さん山好きだろ?」


「山は山でも虫じゃなくて山登りの方ねっ! でも、生き物か……。え? でもそれって こんな暑さの中ほかっておいたら箱の中で死んじゃうじゃん?」


「あ、ガチで死ぬな、それは」


「うん」


「まずいって、そんなの、お届け物の中身が死んでたら! いやいや、生き物とは限らないし……。ねぇ、みんなで一緒に二階に見に行かない?」


「ゲー! アチ〜じゃん!」


「暑いけど、リーくんが言ったみたいに生き物だったらかわいそうだよね?」


「うん」


「だろ? さすがまさやん! ねねね、お願い、一緒に二階に見に行ってみようよ」


「俺っち暑いのきらいなんだけどなぁ」


「まぁまぁ、リーくんそう言わずに! すぐに終わるって!」


 暑いからいやだというリーくんを説得せっとくし、僕たちは二階のお父さんの部屋に向かった。だって、僕は確実かくじつに見たんだから。あの、変な模様もようのついた箱がガタガタガタガタれるのを。そのまんまになんてできないよ。お化けの仕業しわざだったら怖すぎる!


 ここは僕の家なんだから!



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