第2話 フラッグ・ウィン・ザ・バトル

 玄関でリーくんと合流し家の中に入ると、もうすでに前田幸一郎まえだこういちろうこと、こうちゃんと、金田勝かねだまさること、まさやんがリビングのソファに座り麦茶を飲んでいた。


「ガッくん遅かったね。こうちゃんとまだかなって話してたんだ」


「マジよかったぁ! もう少し遅かったら僕だけみんなとゲームできてなかった気がするわ! だってリーくんがゲーム始めたらキリがいいとこまで入れてくれなさそうだもん! 」


「ガチでそうかも! 俺っちもうゲームする気満々でコーラはママに持たせなかったし」


「やっぱり! ふう、めっちゃ走って帰ってきてまじで良かった!」


「うん」


 こうちゃんの「うん」の声を聞きながら、僕は帽子ぼうしを脱いで頭から流れる汗をティーシャツのそでで拭った。ほんと、あそこで走らなかったら間に合わなかったかもしれない。くっ! 汗が目にしみて痛いやっ!


 あれ? そういえば?


「ママーズたちは?」


 リビングには最近めっきり背が伸びて眼鏡めがねをかけてるこうちゃんと、どこをとっても平均値へいきんちのまさやんの二人しかいない。さっき車を駐車したリーくんのママもダンボールに入った荷物を置いて、また車で出かけてしまったみたいだ。


「なんか、夕飯の買い出しに行きながら最近できたおしゃれなカフェに行くって言ってたよ?」


「うん」


「マジで!? 超ラッキーじゃん! 早速始めようぜっ!」


 リーくんが言ってるというのは、僕たちがいつも遊んでいるオンラインゲーム『フラッグ・ウィン・ザ・バトル』のことで、まぁ、簡単に言えば頭についているはたを取り合うバトルゲームだ。


「あのね、それがね、実は、僕……。ごめん! 新シリーズダウンロードしてくるの忘れちゃった!」


「うそだろ!? あんなに昨日俺っちがダウンロード必須ひっすって言ってたのに!?」


「ほんとごめん〜! ほら、これ見てよ。残り時間三十分って……」


「うん」


「あああ、それはもうしょうがない。まさやんはダウンロードができるまでは見学だね!」


 フラバトは新シリーズが始まるとダウンロードを完了させなくては遊ぶことができない。昨日の夜ボイスチャットであんなにモリーくんがうるさく言ってたのに、まさやんはたまーに、こういうドジをする。


「ガッくんのお母さんがWi-Fiをつなげてくれたから、きっとすぐダウンロードできると思ってるんだけど、あ、ダメだ。まだ二十九分かかるって……」


 残念そうなまさやんは仕方ないとして、僕たち三人は早速ゲーム機を立ち上げた。



 オンラインゲーム『フラッグ・ウィン・ザ・バトル』へようこそ!


 これは、『世界で最も平和な国フラッグブル』の新しい王様になるための大会『デザイドキングトーナメント』です!


 プレイヤーは、マイハンドボールという手の形をしたボールをアイテムを使って相手の頭の上に浮いているフラッグを取ります。取られた人は退場。だんだんプレイヤーが減っていく中、最後の一人となって、毎回場所が変わる玉座ぎょくざに自分のフラッグを最後に立てた者が勝者KINGとなります!


 新たに未来シティも加わった新シリーズ!君こそが新しいKINGだ!



 新シリーズのオープニング映像がはやく終わらないかなと待っている僕のゲーム機をのぞき込んで、「僕もみんなとティーしたかったな」とまさやんが残念そうにつぶやいた。


 まさやんが言った『ティー』とは、フラッグを相手から取ることで、英語の『TAKEていく=取る』から来ている。


「ドンマイ、まさやん! 大丈夫、お泊まり会は始まったばっかりだから!」


 僕はまさやんに優しく声をかけたけれど、それでもまさやんは残念そうだった。


 オープニング映像が終了して、リーくんの青いクマと、こうちゃんのクールなサムライと、僕のかっこいい戦士はスタート地点に降り立つ。ここからいよいよ新シリーズのバトルが始まる!


「ウヒョー! むっちゃ楽しみ!」


「うん」


「僕も今日みんなとやるのを楽しみにしてて、昨日ダウンロードしてからやってないんだ!」


 今回のゴール地点、玉座はどうやら滝壺たきつぼの中にあるらしい。「ダイビングアイテム」と、こうちゃんが、ボソッと言うのが聞こえた。


「よっしいくかー!」


 ゲームがスタートし、どんどん敵のフラッグをとっていくリーくん。さすが学校に行かずにゲームをしてるだけのことはある。でも、実は最強なのはこうちゃんだ。基本、こうちゃんは「うん」しか言わない。だがしかし、こうちゃんはプロ仕様のコントローラーを手にすると性格が変わって、むっちゃ最強こうちゃんに変身する。今日はまだ普通のコントローラーだからノーマルこうちゃんだ。


「ティーティーティー! ヒョー俺っち今日調子いいぜ!」


「あぶねあぶね、今のはガチで危なかったよね、助かったわこうちゃん!」


「うん」


 青いクマが相手のフラッグを狙う。

 超かっこいい戦士がかくれアイテムで青いクマを上手にかくす。

 サムライは黙々もくもくとその近くの相手のフラッグを取る。


 なかなかの連携れんけいプレーで僕たちは敵をどんどん減らしていく。これ、もしかしていけるんじゃね? などとリーくんが調子に乗ったところで、黙々もくもくと指を動かしながらこうちゃんが一言放った!

 

「ダイビングアイテム」


「うおー! 俺っちすっかり忘れてた!」


「僕も!」


「うん」とだけまた言ったこうちゃんは、サムライのふところからぽいぽいぽいぽいダイビングアイテムを投げ捨てた。


 こうちゃんすげぇ、いつの間に!?

 リーくんの青いクマと僕の戦士は急いでそれをひろう。


 画面に出ている残りプレーヤーは10人。


 僕たちが3人だから、後7人だ。

 僕たちは玉座のある滝壺へ急いだ。


 この玉座の近くはものすごく危ない。ゴールが玉座ってわかってるから、終わりが近づくとプレーヤーがみんなここに集まるんだ。


 隠れアイテムを上手に使って、相手をねらう。


 青いクマが狙いを定めて、戦士がそれを上手に隠す。サムライは敵を見つけるとサクっとフラッグを取る。

 

「はいゲットー! これいけるんじゃね俺ら!」


「うん! いけるいける!」


「うん」


 画面のプレーヤー数残り5。ということは後二人じゃないか!?


 僕たちは慎重しんちょうに慎重に滝壺にダイビングアイテムを使ってもぐり込む。もうこの中にしか敵はいない。ここでは隠れアイテムが使えない。クマも戦士もサムライも背中を守りながら戦うしかない。


 どこだどこだ、どこにいるんだあと二人!?


「ちょまっ!あと二人ということは、きっとそいつらチームだからこれは最終決戦じゃないか!」


 リーくんの言葉に、僕の胸も高鳴たかなってくる。すごいぜマジ。今シーズン初のKING取れちゃうんじゃね!? 

 

 興奮こうふんしてきた僕たち。

 こうちゃんの指の動きも止まってる。


 来る最終決戦のために、指に全集中をこめて、画面をくいいるように見てる。  

 どこだどこだ、あと二人、あと二人?!

 僕も画面に集中する。


 どこだどこだあと二人、あと二人……。


 ゴクリとつばを飲み込んだその瞬間しゅんかん、「ああー!?」


 僕のフラッグがどこからか飛んできたハンドで取られてしまった!

 えぇ! ここまできたのに残念すぎるっ!! 


「気をつけて、どっからきたか分かんなかった!」


 すかさず二人に声をかける僕。


「うん」


 二人にさらなる緊張きんちょうが走る。


「あっちはこっちをもう見つけてるってことだよなぁ。絶対ティーしてやるぜ!」


「うん」


「どこだどこだ、どっからきた?」


「うん」


 僕たちはすごい緊張感きんちょうかんの中、残り二人を探す。水の中は薄暗うすぐらいから見つけにくい。


 敵は僕たちの居場所いばしょを知っている。


 くそっ!全然見つけれない!


 背中を丸め、コントローラーをにぎりしめ、全集中ぜんしゅうちゅうでみんな鼻息はないきあらくなってきた。と、その時! こうちゃんがバババッと高速に指を動かした。


「ティーーー!」


 すげぇこうちゃん取ったよフラッグ、今日一番のティーじゃん!


「はい俺っちもティーーー!」


 こうちゃんの動きにつられたリーくんも、もう一人のフラッグを取った。


 ゲーム画面に『 KING 』の文字と共に青いクマとサムライが踊ってる。


 くぅ! うらやましいっ!


 僕も一緒にKINGになりたかったな、と思ったその時、玄関の呼び鈴がピンポーンとなった。

 



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