ガッチーズと怪盗キューピー ——小包の謎——【角川つばさ文庫小説賞応募作】

和響

第1話 毎年恒例お泊まり会

 青すぎる空と入道雲にゅうどうぐも。途切れることなく鳴き続けるセミの声と溶けてしまいそうな僕の身体からだ……。


「あづい〜! なんでこんなに暑いんだ〜!」


 夏休みも終盤戦しゅうばんせん、お母さんのお使いで回覧板かいらんばんを届けに行ってる僕の身体はいますぐにでも溶けてしまいそうなくらい汗が流れ落ちている。本当なら絶対に嫌だと断る回覧板のお使いも、今日だけは我慢がまんして引き受けることにした。


 なぜなら、今日は一年間で一番楽しみにしている日、僕の家で『毎年恒例まいとしこうれいお泊まり会』があるからだ。参加メンバーはお母さんが僕を産んだ産婦人科さんふじんかで知り合ったママ友と、その子供たち。つまり! 僕の生まれた頃からの幼馴染おさななじみということになる。


「ふふふ、もうすぐみんながやってくるっ! 今日は寝ないでゲームだぜ!」


 小学六年生の僕たち四人組は、毎日オンラインでゲームもしているけれど、やっぱり実際にあってゲームするのは全然違う気がする。小学二年生の生意気なまいきな妹、リンに言わせれば、「せっかく会えたのにゲームするなんてバカなの?」らしいけれど、ゲームを全くしないリンに臨場感りんじょうかんや一体感が違うと説明してもきっとわからないだろう。


「もう、みんな来てるかな。はやく家に帰らないと」


 それにしても回覧板ってものはおとなりさんに持ってくものじゃないのか?

 なんでこんなに遠いんだ?


 ぶつくさ文句を言いながらお母さんに聞いたけど、去年東京から引っ越してきた僕の家は町内会では新人さんで、結構遠くまで持って行かなきゃならないんだって言われてしまった。回覧板のお使いはめんどくさいけど、みんなが住んでる県に引っ越してこれたんだし、良しとしよう。


「それよりも! 急いで帰らないともうみんな来てるかもだ!」


 僕が家を出る時はまだ誰も来てなかったけど、家を出る前にゲーム機のボイスチャットで話していたリーくんは、もう家を出るところだって言っていた。リーくんの家は僕の家から一番近いから、もう来ているかもしれない。


「やっばっ! リーくんがもう家に着いてたら先にゲームしはじめちゃう!」


 リーくんは明るい不登校ふとうこうで、毎日昼間でもゲームをしている超ゲーム好きなのだ! もしもリーくんが来ていて他のメンバーも来ていたとすれば先にゲームを始めてしまって、後から来た僕が仲間に入れてもらえない!?


「 あ、ありうる! こうしてはいられない! 急いで家に帰らなきゃ!」


 僕は家まであとちょっとの距離きょりもうダッシュで走った。リーくんが一度ゲームを始めたらキリがいいところまで絶対にやめてくれる気がしない!


「あの角を曲がれば家に着く! いけぇ!」


 角を急いで曲がると、ちょうどリーくんのママの車が僕の家の駐車場に入るところだった。


「セーフっ!」


 僕は走る足をゆるめて、はあはあ息を吐きながら玄関でリーくんと合流した。


「ガッくん久しぶり! って、毎日オンラインゲームのボイチャでしゃべってるけど!」


「でも会って遊ぶのはめっちゃ久々だよ! てか、リーくんその腕に抱えてるのってまさか……」


「これ? もちろん!マイコーラ!」


「デカすぎだしっ!」


 明るい不登校児のぽちゃり男子、奥田リヨンこと、リーくんの持っている二リットルのマイコーラにツッコミを入れたところで、僕が一年間で一番楽しみにしている日、『毎年恒例お泊まり会』が始まった。




 それが、まさかとんでもない事件に巻き込まれるだなんて。

 この時の僕も、リーくんも、誰も予想なんてできなかった。


 これは、そんな僕たちのある夏休みの話だ。

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