ナナの結婚(3)

 ナナは、鈴の態度に困惑している。誰だってウソをつかれたらいやなはずなのに、お姉ちゃんは文句一つ言わず、怒ってもいない、いったいどいうことなの。確かに、ウソはよくないけど、多少文句というか怒られても、ここで腹を割って話せばお姉ちゃんだって、一生私について行くって言ったのは、あれはウソだったの、って言う訳ないし。瞳ちゃんだって結婚を諦めなくてすむはず。ナナはそう思って秘密を話し。もちろん秘密をばらした以上は、責任をとって謝らないといけない。


 早川副院長は、本当は結婚したいのに、結婚に興味がないとウソをついていた。

 鈴は、瞳の性格なら、私が結婚しない限りおそらく一生結婚はしない。私に似てちょっと頑固なところがあるからね。結婚が瞳の夢と知った以上は、こちらとしてもその夢を私が原因で潰させる訳にはいかない。そちらが筋を通すと言うのなら、あの手を使うしかないか。


 ソファーに座り、窓の外を眺める2人は、無言の30分が流れ。その時、早川副院長の匂いと動きを察知したナナは、鈴より早く玄関の上がり口に行き、玄関ドアが開くと。いきなり深々と頭を下げ、困惑気味の早川副院長の前で。

「瞳ちゃん、ごめんなさい、あの秘密、喋っちゃった」

「秘密……!? それってまさか……」

「はい、そのまさかです、ごめんなさい……」

 ナナは、また深々と頭を下げ、早川副院長は呆然と立ち尽くしていると、2人の前に鈴が現れ、いつになく真剣な表情で。

「副院長、結婚を許します。これは院長命令です。院長命令は、絶対でしたよね!? 副院長……ところで、いつまでそこに突っ立っているつもり、お昼食べるわよ!?」

 鈴は、2人を置き去りにして、1人先にリビングに行き。

「ナナ、院長命令だって、院長命令じゃ、従わない訳にはいかないよねー……ナナ、もしかして、こうなるとわかって……」

 ナナは、首を横に振り。早川副院長は、だったら許すと言い、その表情はどこか嬉しそうだった。


 院内の決まりでは、院長命令は絶対に従わなければならない。但し、院長が間違った判断を下した場合のみ、命令に従わなくてもよい。


 ことあと、早速、早川副院長は鈴の母親に料理を教えて欲しいと言い。鈴はナナたちに、リンと結婚は関係ないと断言し。ただ、今は結婚したいとは思わないだけで、この先どうなるかは私にもわからないと言っていた。


 この時、つくづく人間ってよくわからない生き物だなとナナは思っていた。

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