第63話 強いて言えば
「と、まぁ私は色々あって家族に内緒で危ない橋を渡っているって訳」
百合先輩は淡々と自分の過去について語ってくれた。
「う、う、うわああああぁぁぁ」
俺の横で聞いていた侑李は堪らず顔を伏せて泣き出してしまった。
「ゆ、侑李ちゃん?」
「彩葉さんがそんなことがあったなんて私、知らなくて」
「まぁ、人に言えるようなものじゃなかったから言わなかっただけだよ。でも、聞いてもらって少しスッキリしたかも」
一息つくように百合先輩はジュースをストローで啜る。
「百合先輩は今もそういうお店で働いているってことですか?」
「高校卒業までは働こうと思っている。本当はダメだけど、給料いいし好きなタイミングで働ける環境ってなかなかないからね」
「それはダメだと思います」
「そうです。高嗣のいうとおり、そんなお店で働くのは危険ですよ」
俺に便乗するように侑李は前のめりになるように顔を近づけた。
「それは分かっているんだけど、お金は必要だし生きる手段としては選べないところもあるんだよ」
「百合先輩。聞いてもいいですか?」
そうだ。言ってやれという感じに侑李は俺を見て頷く。
「何?」
「ガールズバーってワンチャン出来るんですか?」
「違うでしょ! 今の流れで言うとお金よりも大事なものがあるって話をするべきじゃないの?」
侑李は強めのツッコミで俺を小突いた。
「うーん。人によるかな。お客さんが格好良かったらついていく子も中にはいる。私のお店にもそんな子いたよ。もう辞めちゃったけど」
「彩葉先輩も真面目に答えないで下さい」
「うーん。今度行こうかな。俺」
「未成年は出入り禁止だぞ?」
「百合先輩だって未成年じゃないですか」
「私は店長公認だから問題なし。佐伯くんはアウト」
「ちぇ。後、五年以上も行けないのか。長いな」
「そんなのすぐじゃない。成人したら嫌でもいけるよ」
「俺は今すぐ行きたい」
「おい。話逸れているだろ。高嗣。あんた、どういうつもりで彩葉さんの過去を聞いていたのよ」
横から侑李は睨むように聞いてきた。
「それはまぁ、災難だとは思うよ」
「どう思ったか言えって言っているの」
「どう思ったか? うーん。なんだろうな。強いて言えば……」
侑李も百合先輩も俺の言葉を待つようにジッと見つめる。
「その里帆っていう人、可愛かったですか?」
シーンと数秒の時が止まった後、侑李から「そこじゃねぇだろ」と叩かれた。
「ふふ。やっぱり佐伯くんは佐伯くんだな」
百合先輩はホッコリしたように微笑んだ。
「彩葉さん。こいつ、人間性がバグってます。他人の気持ちが分からない人です」
「そんなこと最初から知っているよ。だってそこが佐伯くんなんだから」
「いや、そうかもしれませんけど、ムカつかないんですか?」
「全然。佐伯くんに慰めてもらおうなんてこれぽっちも思っていないから」
「彩葉さんがそれでいいならそれでいいですけど」
「百合先輩。それより里帆っていう人は?」
「うーん。侑李ちゃんに似ているかな」
「え? 私に? そうなんですか?」
「性格は違うけど、見た目は似ているかもね」
「喜んでいいのか、ちょっと微妙なところですね」
「ところで百合先輩。ガールズバーで可愛い子を紹介してくれませんか」
「無理」
「だー! そんな!」
「君に紹介すると食い物にされそうだし。それに可愛いけど性格は良くない子ばかりだよ」
「可愛いければなんでもいいです。可愛さが全てですから」
「それでもダメ」
「百合先輩のケチ」
「ところで話は変わるけど、西蓮寺さんの件だけど、実際のところどうなの?」
「どうなのとは?」
「何をさせるつもりか教えなさいよ」
「それはですね……」
悪巧みをするように俺と百合先輩は悪い顔をする。
それに対して侑李は嫌な顔を終始していた。
「あんた、そんなことをしてタダじゃ済まないわよ」
「それでも俺にはやらなくてはならないことがあるんだ」
「それはただあんたの欲求を満たしたいだけでしょうが!」
「ねぇ、佐伯くん。その方法なんだけど、練習しなくてもいいの?」
「練習?」
「最初で最後の一回きりなんでしょ? ミスがあったら困るんじゃない?」
「それもそうですけど、練習っていってもどうすれば」
「練習相手がいればいいんだよね? それだったら最適の人がいるんじゃなくて?」
「最適な人?」
「それは……」と百合先輩はとんでもない人物の名前を挙げた。
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