第62話 彩葉の過去⑤ ※百合先輩視点


 私は初めて失恋した。いや、そもそも失恋と言ってもいいのだろうか。


「やっぱり女が女を好きになることって変なのかな?」


 男を見ても好きという感情は湧かなかった。あるのは無理やり犯された恐怖だけ。

 今の私は年頃の女の子を見ると心が癒された。

 キスをしたい。胸を揉みたい。なんなら胸を吸いたい。そんな感情が湧き上がっている自分は変人なのだろうか。

 私はもう普通の恋が出来ない身体になっていた。

 この気持ちを分かってくれる人を探すのが大変だ。


「寂しい」


 中学を卒業するまでの間は生気がなく、私はひっそりと学校生活を送ることとなった。

 学校生活はそんな感じの一方、私の家庭は苦労の連続だった。

 私は小学生の頃までは普通の家庭だった。

 しかし、それが一変したのは中学に入ってすぐのことだ。


「お父さんが捕まった?」


 母からそのような報告を受けた私は動揺が隠しきれずにいた。

 逮捕容疑はひき逃げによる死亡事故によるものだった。

 父は重罪となり、母は離婚をしてすぐに父との関係を切った。

 そこまでは良かったが、家庭は余裕がなくなったことは事実である。


「ごめんね。しばらく贅沢できないけど、お母さん頑張るから」


「大丈夫。私、毎日もやしでもいいからさ」


 せめて母には私が辛い姿を見せないように振る舞った。

 だが、実際に不便なところは多々出てくる。

 修学旅行や部活の交通費などお金が掛かる行事は不参加にした。

 それが私にできる唯一のことだった。


「お金欲しい。でも、中学生で働くことはできないし、高校生までまだ数年あるし」


 その中でどうやってお金を手に入れようか悩んでいると援交など身体を売ることしか思いつかなかった。

 だが、男に身体を売るトラウマがある自分には到底できなかった。

 じゃ、どうすればいい?

 私は考えた結果、とてつもない考えをしてしまった。


「この動画、言い値で売ってあげるけど、どうする?」


 私はサッカー部員の復讐でした卑猥な動画を盾に金を要求した。

 当然、批判的なことを言われたが、私が受けた仕打ちに比べれば可愛いものだった。


「千円」


「安い」


「くっ。二千円」


「ふざけているの? ネットに流してあげてもいいんだよ?」


「なら五千円だ」


「一人一万円。それで動画を売ってあげる」


「ふ、ふざけるな。そんな大金払えるわけないだろ」


「払えないなら払えないでいいんだよ? この動画がネットに拡散することになるかもしれないけど」


「ひ、卑怯だぞ」


「卑怯? 私にあんなことをしておいてよく言えるわね」


「それは前やり返されてチャラになっただろ。これじゃ割に合わない」


「お金さえ払ってくれればこれっきりよ。あんたたちとこれ以上は関わりたくないし」


「くそ」


 泣く泣くサッカー部員たちは私に現金を支払った。

 私は一気に八万円を手にしたのだ。


「まいどあり」


 大金を手にしてもこれだけでは生活費としてはすずめの涙程度にしかならない。

 もっと一気に稼げる方法はないだろうか。

 そんな時である。

 私は街中を歩いている時に思わぬ出会いをする。


「お嬢ちゃん。お金、困っているんじゃない?」


 サングラスを掛けた強面のおじさんに声を掛けられた。


「困っているけど、エッチなお店ならお断りです」


「大丈夫。エッチなことは一切なし。ただエッチな格好をして接客をしてもらうだけだよ」


 怪しすぎる。

 私は相手にしなかったが、そのおじさんは必要に誘う。


「一回、店を見てよ。それで決めてくれたらいいからさ」


「じゃ、ちょっとだけ」


 断りきれずに私はそのおじさんについていくことにした。

 案内された場所はガールズバーというところだ。

 可愛い格好をした女の子がお酒を提供して雑談をするというスタイル。

 キャバクラと似た雰囲気があるが、それとは違って地下で経営する隠れ家的なバーというのがいいところだろうか。


「お客さんにお酒を出して雑談するだけ。エッチなことは一切なし。どう? いいでしょ」


「確かにエッチなことはなさそうですけど、私はまだ学生ですし」


「じゃ十八歳という設定ということで働いてもらえればいいからさ。ね?」


 オーナー自らが年齢を偽って働くことを提案してきたのだ。

 これだったら学校に見つかることもないし、大金だって稼げる。


「じゃ、少しだけなら」


 そう言って私は生活費を稼ぐために少し危ない仕事に手を出してしまったのだ。

 でも後悔はしていない。これは生きるために仕方がないことなのだ。

 中学三年生から高校二年生の三年間、私はガールズバーの接客として働き続けることとなった。

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