第57話 近藤邸へ


「どうぞ。散らかっていますけど」


 小太郎は俺と侑李をすんなり家に上げた。

 お世辞とは言えないほど、言葉通りに部屋は酷く荒れていた。

 片付けが行き届いていないようでゴミがあちこちで散乱している。


「弟くん。百合先輩は?」


「姉ちゃんならバイトだと思います」


「バイト? どこで?」


「さぁ、喫茶店とは言っていたんだけど、どこかまでは教えてくれなくて」


「小太郎くん。彩葉さんに最近、変わったことはない?」


「変わったこと? 別に普通ですよ」


「じゃ、何で学校に行っていないの?」


「え? 学校行っていないんですか? いつも朝は制服を着て一緒に出ていますけど」


 家族にも内緒にしているってことが判明した。

 やはり一人で何か抱え込んでいる様子だ。


「彩葉さんはいつも何時くらいに帰ってくるの?」


「二十時くらいですね」


「両親は?」


「うちは片親で母さんは昼夜問わず働いています。父さんは色々ありまして今は拘置所です」


 重い家庭事情を知った。

 百合先輩って実は大変な事情を抱えている。

 その現実が胸に刺さった。


「あの、二人は姉ちゃんの友達ですよね?」


「えぇ、そうよ」


「姉ちゃんに友達、居たんだ。そういう話、してくれないから意外です」


 百合先輩の素性が少し見えた気がする。

 明るく見えて裏では黒いものを隠している。それが今、分かった気がする。

 それから数時間、俺と侑李は弟くんと話をして百合先輩のことについて盛り上がっていた。そんな時だ。


「ただいま」と玄関扉が開いた。


 百合先輩が帰ってきたのだ。


「小太郎。ご飯、買ってきたよぉーって、え?」


 俺と侑李の存在に驚きを隠せない様子だった。


「捕まえた!」


 侑李はすかさず百合先輩に手を腰に回した。


「侑李ちゃん? 何でいるの? それに佐伯くんも」


「それは彩葉さんが連絡をしてくれなかったからでしょ。さぁ、話してくれるまで離さないんだから」


「はは。そういう訳だから百合先輩。洗いざらい話してくれないと侑李は納得してくれませんよ」


「……参ったな、もう」


 困りながらも百合先輩は観念したようだ。

 ただ、自宅は都合が悪いということで外に出てファミレスに入店することになった。

 百合先輩を正面の席で俺と侑李は横並びの構造で座る。


「小腹が空いたからポテト頼んでいいかな?」と百合先輩は言う。


「どうぞ。それよりどうして学校に来なかったんですか?」


「佐伯くん。侑李ちゃんに日曜日の件は話したの?」


「いや、まだ」


「そっか」


「何よ。日曜日の件って」


 俺は侑李に西蓮寺邸で起きたことは話した。

 会話したことから例の約束を取り入れたことも全て言った。


「はぁ? あんた、またそんなことをしているの? ばっかじゃないの?」


「すみません」


「後で説教ね。それより、彩葉さん。西蓮寺さんに振られたってことですか?」


「そうなのよ。まぁ、少し落ち込んだけど、もう大丈夫。今日まで誰とも関わりたくなかったけど、ようやく気持ちが晴れたところ。明日から学校に行こうと思うから大丈だよ」


「そうですか。それなら良かったです」


「ごめんね。侑李ちゃん。心配かけちゃって」


「いえ、彩葉さんが元気でいてくれて私は嬉しいです」


「佐伯くんも少しは心配してくれていたってことだよね。ありがとう」


「いえ、それほどでも」


「彩葉さん。こいつ、全然心配していませんでしたよ。大丈夫、大丈夫って言うばっかりで」


「おい。侑李、お前は味方じゃないのかよ」


「味方になった覚えはありません!」


「裏切り者」


「どっちが裏切り者よ。そんな楽しそうなイベントをどうして私に一言も教えてくれなかったのよ!」


「それは色々あって」


「色々って何よ」


 俺と侑李が揉めている最中である。

 百合先輩は眺めるようにジッと俺たちを見ていた。


「あ、ごめんなさい。私たちで盛り上がってしまって」


「いえ、いいのよ。それよりも他に聞きたいことがあるんじゃない?」


「聞きたいこと?」


「弟から色々聞いたんでしょ? 私の家庭のこと。この際だから二人に話してあげようか。私の過去」と、百合先輩は不敵な笑みを浮かべながらそう言った。

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