第54話 削除
俺のスマホを巡って甘栗さんは何故か、俺の胸の中にいた。
甘栗さんの両手首を抑えてなんとか動きを封じている形だ。
腕立て伏せの要領で屈めばキスできそうなそんな距離感である。
「そこ……どきなさいよ」
「どいたら俺のスマホのデータ消そうとしますよね?」
「当然でしょ。西蓮寺さんの脅しの道具は抹消しなければならない」
「じゃ、どきません」
「ずっとこのままでいるつもり? 私の身動き取れないけど、あなたもこのままでは動けないじゃない?」
「確かにそうかもしれません。でも、俺が有利であることに変わりありません」
「有利だから何? 状況を変えられなければ意味ないでしょ」
「そうでもありませんよ」
「え……?」
俺は甘栗さんの手首から手を重ねて恋人繋ぎにする。
「ちょ、何をしているの」
「主導権を握っているのは俺です」
ゆっくりと俺は腰を落として下半身を甘栗さんに擦り付けた。
「ちょ、何を当てているの? や、やめなさい。何か硬くなってきているんだけど……?」
「気にしないで下さい。当てているんです」
「そう言っているんだけど?」
服の上からでも分かるほど、俺の股間はビンビンの硬くなっていく。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「ちょ、佐伯くん。荒い息を立てないでくれる? 私、そんなつもり一切ないんだけど?」
「言ったでしょ。主導権を握っているのは俺です。甘栗さんには二つの選択肢をあげます。一つはこのまま俺に大人しくヤられる。そうしたら俺のスマホを差し出しても構いません。そしてもう一つは強行突破。俺を無理やり押し切って力ずくでスマホを奪う。ただ、この選択はおすすめしません。性が関わった俺は無敵ですから」
「なら私は強行突破を選択するわ」
「いいんですか? 大人しくヤられたら楽にスマホを渡します。ただ、強行突破の場合は俺もそれ相応の対処をすることになりますよ?」
「それで私を脅しているつもり?」
「今の状況をみて下さい。甘栗さんの弱点である耳を隠すものは何もありません」
「!?」
口を甘栗さんの耳に近づけた時である。
手に力が加わった。必死の抵抗である。
「させるか!」
「往生際は悪いですよ。甘栗さん」
「あなたこそ諦めなさい」
手と手の押し合いをしている最中である。
「素朴な疑問なのですが」
「何よ!」
「何故、そこまで西蓮寺さんを庇うんですか。甘栗さんがそこまでする義理はないですよね?」
「どうしてもこうしてもあんたみたいなクズが西蓮寺さんにいいようにされることがむかつくのよ」
「酷い言われようですね。まぁ、事実なのでしょうが」
「だから私は阻止するためにあなたのスマホを奪ってみせる」
甘栗さんの力が強まった。
上から押し付けている俺が有利なはずなのに力負けしていた。このままでは押し返されるのも時間の問題だ。
「甘栗さん落ち着いて下さい」
「うるさい。こっちは真剣だ。でりゃ!」
そして、ついに俺は甘栗さんに押し返されてしまう。
とても女子の力とは思えないものである。俺の押さえ付けを難なく振り切った。
「スマホ、スマホはどこ?」
テーブルに上に置いてあるスマホを見つけると甘栗さんはすかさず手に取った。
「げっ! パスワード」
「今時、ロックをしない人なんていませんよ。残念でしたね」
カタカタと暗証番号を入力する甘栗さん。
無駄無駄と思い眺めていると「カシャッ」とロックが外れる音がした。
「え? 何で?」
「馬鹿ね。その人の特徴を見れば何をパスワードにしているか大体、想像出来るわよ」
「そ、そんな馬鹿な。俺のパスワードを分かるってことは甘栗さん……どこまで俺のことを知っているんだ」
「考えから思考まで全てお見通しよ。『07214545』ってまさかとは思ったけど、流石に引くんですけど」
「い、いいじゃないですか。パスワードなんて自分だけ分かればそれで」
「ふん。私にバレているようじゃ、まだまだね。さて、データを消してやるんだから」
甘栗さんは録音データの画面を開く。
『削除しますか? はい。いいえ』の一歩手前まで差し掛かった。
「削除するわよ? 抵抗しないの?」
「俺の負けです。無駄な抵抗はしません。削除したかったらして下さい」
「本当にするわよ?」
「何で確認を取るんですか? それとも甘栗さんにとって残すギリはあるんですか?」
「ないわよ」
そして、甘栗さんは俺にスマホ画面を見せつけた。
『削除が完了しました』と表示されていた。
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