第49話 天秤
「覚悟して下さい」
グッとメイドは腕に力を加えて俺の首を圧迫した。
「ちょ! いきなり何を。俺が君に何をしたって言うんだ」
「思い当たる節はあるのではなくて? 私の下着を見ておいて」
「それは見たんじゃなくて見えただけだ」
「同じことです」
メイドは更に力を加える。
「ちょ、当たっている。当たっていますって」
「当たっている?」
自分の胸を俺に押し当てていると言う現状に気づいたメイドは顔を赤くして俺から離れた。無意識にサッと手で胸を隠す。
「D……いや、Eカップはあると見た」
「あなた、そんなことを考えながら締め付けられていたんですか。最低ですね」
「考えさせたのはどっちだよ。メイド服は派手に動き回る服装としては向いていない。手荒な行動は控えた方がいいですよ。まぁ、男の刺激を与えることとして動き回る分には全然ありですけどね」
「あ、あなた。存在そのものが凶器です。何なんですか」
「それはこっちのセリフだ。もしかしてパンツを見られた個人的な恨みで俺を付けてきたのか?」
「それもありますが、私はあなたに撤回させる為に近付いたに過ぎません」
「撤回?」
「勿論、琴吹様の件です。本人から聞きました。あなたに奴隷プレイをすることになったとか。そんなこと私が絶対にさせません」
「させないも何もあなたに関係ないですよね? これは俺と西蓮寺さんの問題です。部外者は引っ込んでいて下さい」
「部外者? 私は琴吹様の世話係として常に近くにいる存在です。部外者はあなたの方です。佐伯高嗣!」
「へぇ、西蓮寺さんの世話係か。じゃ、日常的な世話をしているってこと?」
「当然です。朝のお目覚めから服を着せたりご飯を運んだりお風呂に入れたり髪を乾かしたり全部私がやっているんですよ!」
ドンッと胸に手を当てながらメイドは誇らしげに言い放った。
「……西蓮寺さんって一人で服も着られないの?」
「着られます! バカにしないで下さい。私がしたいとお願いをしてやらさせてもらっているだけなのですよ」
「ふーん。部外者じゃないことはよく分かったけど、お互い承諾した結果だし、今更撤回って言われても」
「承諾したのは確かですが、それは納得したわけではなくせざるを得なかったと言うことです。本当は死んでもやりたくなかったはずです。それなのにあなたが無理やり約束を守らせて脅しをかけたのはお見通しですからね」
「最初に話を持ち出したのは西蓮寺さんの方だ。俺はそれに乗っただけ。勘違いもあったかもしれないけど、何やかんやでそうなったわけだしあなたはクビを突っ込まないで下さいよ」
「その何やかんやが問題です。これがクビを突っ込まずには入られますか!」
「はぁ、じゃどうすればいいの?」
「勿論、約束の撤回を求めます。しないと言うのであれば手段は選びません」
「暴力? 俺はそういう殴り合いは好きじゃないんだけどなぁ。でもあなたが動けば動くだけ見られたくないものがあるんじゃないんですか?」
「なら見たことを忘れるまで痛い目に遭わせるまでです」
「君のような美人さんに手荒な真似をしてほしくない。せっかくの綺麗な身体を痛めてしまう」
「そうやって逃げるんですか? 琴吹様のプライドを守る為なら私はどうなっても構いませんのよ?」
「もう少し自分を大切にしたら? 美人のお姉さん」
「ぐっ。何なのよ。あなた、さっきから。甘い言葉で油断を誘っているつもり?」
「メイドさん。あなたの名前は?」
「
「白草さんか。素敵な名前だ」
「下の名前で呼ばないで下さい」
「じゃ、北条さん。二つの選択肢をあげます」
「はぁ? 何よ。急に仕切り出して」
「北条さんの目的は西蓮寺さんとの約束の撤回ですよね。だったらお互いにメリットがあるように平和策を考えましょうってことです」
「何が平和策ですか。私は手段を選ばないと言いましたよね」
北条さんは両手を構えて戦闘態勢に入る。
あくまで暴力で解決しようとしている。
「それは辞めておいた方がいいです。俺はどんなにボコボコにされたり、傷を付けられたり、骨を折られたりしても約束を撤回するつもりはないと宣言します」
「そうですか。なら実際にギブアップするまで殴りましょうか? こう見えて私は合気道を心得ています。その辺の女子の力と同じと思っていたら死にますよ」
「さっき首を軽く締められた時に思いました。北条さんは強いって」
「なら痛い目に遭う前に今のうちに約束の撤回をすることをオススメします」
「いや、それはない。言いましたよね? どんなことをされても撤回するつもりはないと。どうしてだか分かりますか?」
「さぁ、ただの強がり?」
「違います。天秤に掛けた結果です」
「天秤?」
「西蓮寺さんとの約束と暴力を受けることに対して天秤を掛けるとどう転んでも西蓮寺さんとの約束の方が優っているんです。だから俺はどんなに暴力を受けても撤回しないと言い切る自信があるってことですよ」
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