第48話 攻防戦の先
「い、いやだあぁぁぁぁぁ!」
欲しかったものを買ってもらえず、駄駄を捏ねる子供のように俺の叫びが会場に響き渡った。当然、周囲は何事かと俺の方へ視線が集まってくる。
今の俺に周りの目なんて気にならない。今はとにかく甘栗さんの魔の手から逃げることが先決だった。
「ちょ、バカ! 何、大声張り上げているのよ。恥ずかしいじゃない」
「いやなものはいやだ!」
「いいから早く来なさい。一刻も早く訂正させなきゃ。西蓮寺さんにそんなことを私は絶対に刺せないんだから。ほら! 行くよ」
ズルズルと俺は甘栗さんに引きずられる。
甘栗さんは何としても俺と西蓮寺さんが約束した内容を取り下げるつもりだ。
だが、そんなこと許されるはずはない。どんな苦労を重ねて約束を守らせたのか甘栗さんは何も分かっていない。分かったところで取り下げようとする事実は変わることはないだろう。
俺は必ず西蓮寺さんに屈辱的なプレイをさせたい。そのためには何としても甘栗さんの妨害を掻い潜らなければならないのだ。
それにしても凄い力だ。
俺が必死に抵抗しても甘栗さんの手は俺の腕を放すことはない。
引きずられながら俺はどんどん玄関へ誘導される。
踵で地面を押さえつけても無意味だった。
女の力ってこんなに強かったのか。
「だ、誰か! 助けて。犯される!」
「勘違いされるようなこと叫ぶな! てか、それは女の子が言うセリフでしょ。あんたが言ってどうする! バカなの?」
「バカでもなんでも今はどうでもいい。俺は絶対に行かないからな!」
「何を子供みたいなことばかり言っているのよ。西蓮寺さんにそんなことをさせたら許さないんだから」
「それでも俺はさせなくちゃならないんだ!」
「カッコイイ風のことを言わないでくれる? 私が悪人みたいに見えるから」
「実際、今の甘栗さんは極悪人に見えます」
「ふざけんな。極悪人はどう考えてもあなたでしょ。これ以上、私をキレさせるな」
甘栗さんの怒りはどんどん急上昇中だ。
俺が余計なことを言ったことで力が強まっているので逆効果であることに気付く。
ふざけている場合じゃない。何としても約束の破棄はさせない。
俺がやっとの思いで掴んだ最初で最後のチャンスなんだ。これを無駄にさせてたまるか。
「絶対に約束を取り下げてやるんだから」
くそ。このままでは本当に約束を取り下げられそうだ。
何か。何かここから甘栗さんから逃げる方法はないだろうか。
こうなったらあれしかない。
「甘栗さん!」
「何よ」
「背中にゴミが」
「え? どこ?」
「取ってあげますから動かないで下さいよ」
「う、うん」
「フゥ!」と、俺は甘栗さんの耳に息を吹きかけた。
「ふにゃ!」
一気に甘栗さんの力が抜けたことで俺は解放された。
その瞬間を俺は見逃さなかった。
「ごめん! 甘栗さん。今度、埋め合わせするから!」
「こ、こりゃ! ま、まふぇ!」
俺は全力で走って逃げた。甘栗さんは言葉にならないままその場に倒れ込んだ。
形勢逆転だ。
俺はそのまま会場をすり抜けてガレージの中へ身を隠す。
「ふぅ。危なかった。しばらく甘栗さんから隠れる必要があるな」
動きが正常に戻った途端、甘栗さんは俺を見つけ次第、西蓮寺さんのところへ連行されることだろう。それだけは避けなければならない。
「どのみちパーティーの間は身を隠した方がいいかもしれないな。しばらくここに隠れるか」
たまたま入ったガレージには高級車が三台横に並んでいる。
車に詳しくないので車種は分からないが、高価そうとだけは一目見て分かる。
傷でも付けたら大変だ。他にもいいところがあるかもしれない。
そう思って周囲をキョロキョロしていた時だ。
「つ・か・ま・え・た」
突如、俺は背後から巨乳に抱きつかれた。
むにゅっと背中から伝わる弾力が俺に刺激したのだ。
「だ、だれ?」
俺は振り向くと見覚えのある女性がいた。
確か、西蓮寺さんと一緒にいたメイドの一人だ。
「佐伯高嗣。私はあなたを絶対に許さない。覚悟して下さい」
何かが起こる予感しかしない。
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