第44話 提案


「西蓮寺さん。俺はあなたにお近づきになるために苦労に苦労を重ねて今、この場に立っている状況です。それが分かりますか?」


「分かりたくないし分かろうとも思わないんだけど。でも、その結果が私へのマウントってこと? 意味が分からないわ」


「違います。西蓮寺さんの中で少しでも俺の印象に残ってくれたら満足です。あわよくば付き合えたらなお良いのですが」


「あわよくばってそっちが本音じゃないの。本気で付き合えるなんて思っていないよね?」


「勿論です。付き合えるなんてこれっぽっちも……いや、これだけも思っていません」


 俺は手を大きく広げて言う。


「ガッツリ思っているじゃないの。まぁ、付き合いたいと思う人はいくらでもいると思う。でも、私は全て断ってきた。何故だか分かる?」


「自分に相応しい人は自分より優っている人じゃないとダメだから?」


「いいえ。勿論、それは最低条件だけど、私と付き合える人物は神に選ばれた人だけ」


「……俺か」


「佐伯くんが神に選ばれた人なわけないよね? 頭沸いているの?」


「じゃ、誰なんですか」


「それはまだ現れていない。でも、そう言う人じゃないと私とは到底付き合うことなんて出来ないわよ? 残念だけど」


「そうですか。付き合えないことはよく分かりました」


「分かったら帰りなさい」


 西蓮寺さんは扉の方へ指を差して帰るように促す。

 ここで帰ったら完全な負けだ。俺は提案するように発言した。


「付き合えないのであれば他の付き合いなら可能ですか?」


「どういうこと?」


「俺とフレンドになってください。勿論、どんなフレンドでも俺は受け入れます」


「はぁ?」


 西蓮寺さんは今日一番の嫌な顔をする。


「西蓮寺さんは俺がいるようなフレンドをいないって言いましたよね。だったら俺が立候補します。俺とフレンドになってくれませんか?」


「誰があなたのような最下層の人間と……身の程をわきまえ……」


 発言の途中で西蓮寺さんは言葉を止めた。

 そして何かを考え込むように俯く。


「ねぇ、私が希望すればどんなフレンドにもなってくれるのよね?」


「え? はい。西蓮寺さんとお近づきになれるのならどんなフレンドでも受け入れる覚悟でいますよ」


「へぇ、そう。だったら私の希望を聞いてもらおうかしら」


「はい。何でも仰って下さい」


「じゃ、言うけど、奴隷フレンドになってくれる?」


「それはどういうフレンドなんですか?」


「そのままの意味だよ。私たちの関係は奴隷と主人。関係を築けている間は主人の言うことは絶対の関係ってこと。どう? 楽しいでしょ?」


 西蓮寺さんは足を組み直してニヤニヤと笑う。

 それは悪女のようで少し冷酷さを感じた。

 だが、俺は悪い顔をする西蓮寺さんも好きだった。

 何をしても可愛い人ってこういう人なんだと俺は感じた。


「へー。面白そうですね。そういうプレイはしたことがないので新鮮味があって興味があります」


「そうでしょ。最上位と最下位だからこそ楽しめるプレイだと思わない? そう言う相手って私も興味があったの。でも、そういうことを言うのは恥ずかしいじゃない? でもあなたなら平気で言えそうだからどうかなって」


「そういうことなら喜んで受け入れますよ。西蓮寺さんと付き合えないのは残念ですけど、フレンドと言う形で繋がれるだけ幸せです」


「ふふ。そうでしょう、そうでしょう。まぁ、普通のフレンドとは違ってかなり特殊のフレンドだけどね」


「俺は全然気にしませんよ」


「話が分かる人で良かった。実はこういうものを用意していたりするんだよ」


 西蓮寺さんは戸棚から手錠を取り出した。


「手錠?」


「そう。持っているけど、使う相手がいなかったから宝の持ち腐れって感じで困っていたの」


「そうですか。じゃ、早速その奴隷フレンドというものを体感してみましょうよ」


「そうね。じゃ、早速手錠を付けてあげ……」


「いえ、自分でやりますよ。貸して下さい」


 カッシャンと俺は手錠を西蓮寺さんに掛けた。


「え? 何をしているの?」


「何って奴隷プレイをするんでしょ? だから付けてあげたんじゃないですか」


「付けるって私はあなたに付けるように渡したんだけど」


「俺ですか? それだと俺が奴隷の立場になっちゃうじゃないですか」


「そう言っているんだけど?」


「何を言っているんですか。俺が主人で西蓮寺さんが奴隷でしょ?」


「何をどう勘違いしたらそうなるのよ。どう考えても私が主人でしょ!」


「まぁ、細かいことは気にせずに一回体感してみましょうよ。ね? まずはお尻を突き出してもらっていいですか? 奴隷の西蓮寺さん」


「わ、私の立場が崩れていく」


 西蓮寺さんは最下層を体感したいものだと思っていたが、俺の勘違いにより西蓮寺さんは手錠をはめられたまま俺の命令に怒りが込み上げている様子だった。

 それでも俺はこの立場を降りるつもりはない。

 最後までやる。遠慮なんてなかった。

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