第42話 与えられた時間
俺はメイドたちに取り押さえられて床を這いつくばる形になっていた。
「み、見えたあぁぁぁ!」
俺のその発言に周囲は白けた。
俺の頭がおかしくなったように冷たい目で見られた気がするのだ。
だが、俺は一直線に目線を変えずに見続けていると一人のメイドが俺から離れていく。
「ど、どこを見ているんですか!」
「メイドさんの谷間、堪能させて頂きました!」
「こ、こいつ!」
俺は三人のメイドから蹴られてフルボッコにされる。
だが、その瞬間でも俺は見逃さなかった。
「見えた!」
その発言でメイドたちは足蹴りを辞めてスカートの奥に映るパンツを隠した。
「ぷふ。あはははは。ふふふ」
西蓮寺さんは突如腹を抱えて笑い出した。
「琴吹様。はしたないですよ」
メイドの一人が注意するも西蓮寺さんは構わず笑い続ける。笑いが収まった直後に一言こう発言した。
「その貪欲な下心はなかなかいないわ。あんた、とんだド変態だね」
「西蓮寺さんが俺を褒めてくれるなんて」
「いや、どう考えても違うでしょ」
ガンッと百合先輩はツッコミの意味を込めて俺の頭を叩いた。
「痛い! さっきのメイドさんより痛いんだけど」
「そこまで強く叩いていないわ。それより佐伯くん。勝手な行動は取らないで。西蓮寺さんの機嫌を損ねたらどうするの」
百合先輩は激しく俺に突っかかる。
「いいよ。時間をあげる」と西蓮寺さんから声が掛かった。
まさかの言葉に全員が西蓮寺さんに注目する。
「い、いいんですか?」
「ただし十分だけね。あなたたちにずっと時間は使えないから」
つまり百合先輩と俺で一人五分という時間を貰ったことになる。
その五分でどこまで交流ができるか勝負のカギになるという訳だ。
「じゃ、まずは俺から……」
「待ちなさい。佐伯くん。ここは私からだよ」
「百合先輩、ずるい」
「ここは歳上優先だよ」
「いや、そんなの関係ないでしょ」
「君たち。そんな醜い争いをせずに公平にじゃんけんをすればいいだろ」
西京の提案で俺たちはじゃんけんで順番を決めることになった。
「やった! 私が先よ」
「クソ! 負けた」
「近藤さん以外、退出して下さい」
西蓮寺さんの指示で俺たちは部屋から出ることになった。
百合先輩に先を越されたことは腑に落ちないが、運がない自分を恨むしかない。
部屋の外に待たされて俺は壁にもたれかかって腕を組んでいた。
「残念だったね。佐伯くん」
「西京さん。でもおかげで考える時間が出来ましたよ。なんでもプラスに考えることにしました」
「君にしてはまともなことを言うんだね。清々しい変態なのに」
「お褒めの言葉として受け取っておきます」
「彩葉さん。何を話しているのかな?」
「大体は想像つきますよ」
「彼女とは仲が良さそうだね」
「えぇ。同盟を組んだ仲ですから」
「同盟?」
「西蓮寺さんの好き同盟です」
「それはどう言う同盟だい?」
「そのままの意味ですよ。西蓮寺さんに関する情報を共有すること。そして西蓮寺さんと付き合うために互いをフォローし合う関係性です」
「お互い琴吹に本気で恋をしているって訳か。まるでアイドルの追いかけだね」
「それでいいんですよ。追いかけている時が一番楽しいんです。それであわよくば付き合えたらなお楽しい。それが今の俺たちの生きがいですよ」
「それは夢で終わることと分かっていても?」
「嫌なことを言うなぁ。西京さんは西蓮寺さんの魅力を分からないんですか?」
「それは分かっているつもりだよ。琴吹は魅力しかない女性だ。だが、その分、追いかける人は数多くいる。その中で神に選ばれる人物はたった一人。君がその一人に入れるとは到底思えない。宝くじに当たる可能性よりも低い確率だよ」
「付き合えたらいいとは言いましたけど、別に付き合えなくてもいいんですよ。俺」
「……それはどういう意味だい?」
「もちろん、付き合えるに越したことはないですけど、例え付き合えなかったとしても何かしらの接点さえ繋がれたらそれで満足です。それが細い糸だったとしても俺はそれを掴み取りたい。彼女の記憶に残る人物として覚えられたらそれでいいと思っていますから」
「それで満足っておかしなことを言うね。佐伯くんは」
「そうですかね? まぁ、西京さんのような幼馴染という太い糸にはなれませんけど、顔見知りくらいの細い糸でも俺はそれでいい」
「そうか。それで琴吹の印象に残る内容は考えているのかい?」
「正直まだ固まっていませんけど、出たとこ勝負になると思います」
「そうか。まぁ、陰ながら応援するよ」
その時である。
キィッと扉が開いて百合先輩が出てきた。
約束の五分より少し早いが一体、何が起こったというのだろうか。
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