第41話 接触
「琴吹と付き合える人は神に選ばれた人間だけだ。普通の人とは付き合えないというのはそこから来ているんだよ。だから付き合おうなんて期待して近づかないことをお勧めする」
「まぁ、最初からそんなことは微塵も期待していないよ。あわよくば何かの事故で付き合えたらいいかなってだけ」
「がっつり期待しているじゃないか。佐伯くんは常識が通用しない人だな。まぁ、そこが面白いんだけど」
「それよりも……」
「分かっているよ。琴吹に会いたいんだろ? 挨拶の後に中で会うことになっている。そこに君と彩葉さんを連れて行こう」
「ついに私も西蓮寺さんに会えるんですね。楽しみ!」
百合先輩は会えると分かった途端、終始荒い息を吐いていた。
「こっちだ」
西京は外の会場から建物の中へ入る。
中は中で豪邸感が凄い。高価な壺や絵なんかが壁沿い一面に飾られている。
アニメで見る金持ちの家が現実で見られる時が来るとは思わなかった。
西蓮寺さんは良い暮らしをしているようだ。
二階へ続く階段を登り、先ほど西蓮寺さんが顔を出した部屋の前に俺たちは立ち止まる。
西京はコンコンと扉をノックする。
「琴吹。僕だ。天馬だ」
「……どうぞ」
キィッと扉を開く。この奥に西蓮寺琴吹がいる。
中には複数のメイドが立っている。そしてその中央には西蓮寺琴吹が紅茶を飲みながらソファーで寛ぐ姿が映った。
「いらっしゃい。天馬くん」
学校で見る時とは違い、より一層セレブ感があった。
ドレスは勿論のこと。周りにいるメイドたちがセレブ感を引き立てていた。
可愛い子を見つけたら真っ先に飛びつく百合先輩はいつもと違ってオドオドしている。
それもそうだろう。憧れの人が目の前にいるのだから。
「久しぶり。琴吹。今日もいつもなく綺麗だね」
「ありがとう。天馬くんとはどれくらいぶりだったかな。テレビで活躍は見ているけど、なかなか会えなかったものね」
「はは。そうだね。確か前にあったのは半年くらい前だったかな」
「そうだったわね。連勝おめでとう。今日はお祝いを込めて楽しんで行ってよ」
「ありがとう」
「ところで後ろの方は?」
「あぁ、さっき知り合ったんだけど、気が合って連れて来ちゃった。でも、琴吹と同じ学校の人だから知っているんじゃないかな?」
「近藤彩葉です! いつも西蓮寺さんのことは拝見しています」
「佐伯高嗣です。えっと、ずっと遠くから西蓮寺さんを見ていました。今日は直接会えて嬉しいです」
俺たちが挨拶をすると西蓮寺さんは終始無表情だった。
そしてこう言った。
「……知らないわね。申し訳ないけど」
西蓮寺さんは俺たちのことを全く知らなかった。
むしろ眼中にないと言いたいようだ。
「西京さん」と俺は察してもらうように言う。
「琴吹。この人たちは琴吹のことが好きなんだ。彩葉さんは優しくて女性に対する気遣いが上手で一度好きになったら最後まで尽くすタイプ。友達としても恋人としても条件さえ合えば楽しい人だと思うよ。男の子より女の子が好きって言う変わり者だけど、悪い人じゃないんだよね」
「そう……」と西蓮寺さんは薄い発言をする。
「それから佐伯くんは琴吹に対する思いが強い人だ。自分のことよりも相手のことを考えられる強い心を持っている。自分の立場を犠牲にしてでも相手を優先するその姿勢は他の人には出来ない強みだと思うよ。とにかく彼はベタなところはあるが、不器用ながら目的のために頑張れる人なんだ」
「そう……」と西蓮寺さんは百合先輩と同じような反応をする。
西京のプレゼンに対して全く響かない様子だった。
「ははは。そうってそれだけ?」
困り果てた西京はそれ以上のコメントを西蓮寺さんに求めた。
「本人の前で申し訳ないんだけど、なんかパッとしないのよね。コメントしづらいと言うか、手応えが全く感じられないと言うか。私に対する好感度の思いに関してはよく分かりましたけど、それだけっていうのが正直なところです」
「まぁ、琴吹はそういう人だよ。機嫌を損ねる前にここは引こうか。彩葉さん、佐伯くん。さぁ、早く」と、西京がこの場を出ようと背中を押されたが、俺はそれを振りほどいた。
「西京さん。プレゼンありがとうございました。それにこんな夢の場所に連れて来てもらったことに感謝します。後は自分でなんとかしますから」
「自分でって佐伯くん。君は何をするつもりだ?」
「ただの日常会話ですよ。この時間、俺は無駄にはしません」
そう言いながら俺は西蓮寺さんの方向へ一直線に向かって歩いた。
「ちょっと佐伯くん。まずいよ」
すると西蓮寺さんに仕えるメイドたちが一斉に俺を静止させて強制的に床に伏せられた。
「痛っ!」
「これ以上、琴吹様に近づかないで下さい」
メイド三人掛りで俺は押さえつけられる。女性の割に力は強かった。
西蓮寺琴吹に近付くのは容易ではなかった。それでも俺はこの機会を無駄にはしない。
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