第40話 裏事情
「お願いします。西京さん。俺をプレゼンして西蓮寺さんに好印象を与えて下さい」
「私もお願いします。西蓮寺さんの印象に残るように熱く語って下さい」
俺と百合先輩は西京天馬に言い寄る。
「わ、分かったよ。いい感じに紹介しよう。だが、期待しないでくれよ? どう思われても僕は責任持てないからね?」
「ありがとうございます! 紹介してくれるだけで大手柄ですよ」
泣きながら喜ぶ俺たちに甘栗さんは後ろから「何だ、こいつら」と言いたそうな眼差しで見つめられた。
「プレゼンと言っても僕と君は初対面だ。良いところなんて何も知らないよ。逆に良いところがあるなら予め教えてくれると言いやすいかも」
と、俺と百合先輩は互いに顔を見合わせる。
「百合先輩。俺の良いところって何ですか?」
「さぁ、女の子に対して貪欲なところ?」
「それ、良いところですか?」
「んー。難しいわね。ねぇ、私の良いところって何かな?」
「百合先輩の良いところ?」
「女の子の扱いが上手なところですか?」
「うーん。良いところといえばそうなるのか」
改めて互いの良いところを探す。
だが、俺に対する良いところが何も出てこない。
俺ってそんなにダメなところしかないのだろうか。
「まぁ、当たり障りのないことを適当に言うよ。それでいいかな?」
西京はフォローとは取れない発言をするが、本当にないので仕方がない。
「はい。お願いします」
「了解。まぁ、任せてくれよ。ただ、僕に八つ当たりする真似だけは辞めてね?」
「勿論です。ダメだったら潔く諦めます」
「本当に諦められるの?」と、百合先輩は野次を入れる。
「諦めますって。多分」
「はーい。皆。そろそろパーティーが始まるみたいだよ」
甘栗さんの呼び掛けで時刻は十時を迎える。
パーティー開催の時刻だ。
だが、肝心の西蓮寺さんはまだ現れない。いつになったら現れるのだろうか。
「あ、見て。西蓮寺さんよ」と、参加メンバーの一人が言った。
「え、どこ?」
「ほらあそこ!」
その方向を見ると二階のテラスから西蓮寺さんが姿を現した。
水色の高価そうなドレスに身を包んで参加メンバーの注目を集めた。
「皆さん。今日はわざわざお越しくださいましてありがとうございます。是非、最後まで楽しんでいって下さい。なお、今日は好きなだけ飲んで食べて交流を深めて下さい。人との繋がりが可能性を生み出します。存分に楽しんでね!」
西蓮寺さんの登場で会場は一気に盛り上がりを見せた。
会場からは拍手が巻き起こる。
「交流を深める?」と、俺は疑問をつぶやく。
「あれ? 佐伯くん。君はこの集まりの意図は知らないのかい?」
「意図? 俺は西蓮寺さんに会いに来ただけだけど?」
「そうか。甘栗さんからその辺は聞いていないってことか」
甘栗さんに目を向けるとツンとそっぽを向ける。
「琴吹は交流を深めてくれって言っただろ? それはつまり勧誘だよ」
「勧誘?」
「君は琴吹がどう言うお金持ちか知っているかい?」
「さぁ? そこまで興味ないし」
「あんた、西蓮寺さんのことが好きならそれくらい知っておきなさいよ」
「じゃ、百合先輩は知っているんですか?」
「一応……。そこまで詳しくないけど」
興味はないとは言ったけど、これだけの豪邸に住んで大規模なパーティーに参加費がなかったことを考えると裏があるのは自然なことだった。
西蓮寺琴吹と接点を持つことしか頭になかった俺としては今更ながら妙な不安に駆られていた。
そして甘栗さんはその事情を知っていて俺に伝えなかったことを見ると参加させるのが目的だったと考えるのが自然だった。
「じゃ、僕から教えよう。琴吹の家系は宗教団体のトップに君臨する組織なんだよ。つまりここに集められた人は勧誘が目的で集められたってことさ」
「宗教って確か、神の教えがどうのこうのっていうあれか?」
「まぁ、そんな感じかな。僕もその関係者だったりもする。そして甘栗さんも最近、勧誘を受け入れた人間さ」
「甘栗さんが?」
「ごめんなさい。今日は誰かを連れてくるように西蓮寺さんに頼まれていたの。そこで西蓮寺さんに会いたいっていうあなたたちが居たから連れてきた形になるわ」
「……甘栗さんは宗教側の人間ってこと?」
コクリと甘栗さんは小さく頷いた。
「騙されたって口かな? まぁ、そうでもしないと普通、こんなところに来ないと思うよ。殆どの人はただのパーティーってことで来ている者と思うだろうし」
「関係ないよ。俺は騙されたなんて思っていない。例え事情を知っていても来ていただろうし」
「そうか。だが、宗教って軽蔑するものがあるが、宗教側の人間から言わせてもらうと入ってみれば意外といいものだと知ることができる。君もこっち側に来るといいよ」
「それより西京さん。早く西蓮寺さんのところに連れて行って下さい。そういう約束でしょ?」
「分かったよ。琴吹に掛け合ってみる」
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