第38話 BBQパーティー下準備
「こ、ここが西蓮寺さんの家? 豪邸じゃん」
家というより城と言った方が正しいのかもしれない。
門から家まで徒歩五分くらいの距離だ。
お嬢様の見た目通りの住まいである。
「にゃはは! ここが憧れの西蓮寺さんの家か。未知の領域ね」
隣で百合先輩は俺以上に浮かれている。
今回は甘栗さんの紹介で俺と百合先輩が西蓮寺さんの家で主催されるBBQパーティーに招待された形だ。
開催は十時からとのことだったのでそれより早い一時間前に俺たちは訪れていた。
「一時間前行動。合格と言いたいところだけど、あまり早いと迷惑になるからそこは注意してね。まぁ、今回の場合は大丈夫だと思うけど」
甘栗さんも既に来ていた。
いつにも増してシックは服装だ。
「朱音ちゃん! 私の二番目彼女!」
甘栗さんの姿を見た瞬間、百合先輩は抱きついた。
だが、甘栗さんも学習したのか、百合先輩の後ろ首に手刀を決めて一時的に動きを止める。
「さて。早く来たのであればあなたたちにも手伝ってもらいましょうか」
「手伝うって?」
「勿論、バーベキューの準備です。お手伝いさんはいるんですけど、百人以上も参加するから手伝わないといけません」
「了解した。百合先輩も手伝いましょう」
「う、ぐぐ!」
百合先輩は失神寸前だ。どれだけ強く手刀をしたのだろうか。
「彩葉さんは動けるまでそこに居てください。佐伯さん行きますよ」
「お、おう」
置いて行ってよかったのだろうか。まぁ、誰かが気づいてなんとかしてくれると思うが。
会場はウッドデッキの専門の場所でテーブルやコンロなどが準備されていた。
「薪の準備をして下さい。バーベキューは火が命です」
「あの、それより西蓮寺さんは? 一言挨拶をしたいんだけど」
「今はおめかし中です。時間までは来ないと思うので後にして下さい。それまでの指揮は私に任されています」
「へぇ、甘栗さんって西蓮寺さんに信頼されているんですね」
「まぁ、仕事上では信頼されていますね。こういう役目は私に頼ってくれます」
「プライベートではうまくいっているの?」
「そういう話はあまりしませんね。日常では学校行事とか当たり障りないことばかりですから」
「ふーん。そうなんだ。今日はどういう人が参加しているの?」
「さぁ、私も詳しくは知りませんけど。西蓮寺さんは多忙の活動をしています。バイオリン、ピアノ、英会話、バレー、茶道、射撃、弓道、他にも色々しているようですけど、忘れました」
「結局何がやりたいの?」
「それは知りませんけど、まぁそういう繋がりの人が沢山いるみたいでその中から集まったメンバーということだけしか知りません」
「友達の友達は友達って感じかもな」
「かもしれませんね。いっておきますけど、呉々も変なことはしないで下さいね」
「変なことってなんだよ」
「女性を食い物にするなってことですよ」
「それはその時のノリだから出来ないとは言えないかな」
「またそんなことを言って。西蓮寺さんに嫌われてもいいって言うの?」
「そ、それは困る」
「だったらいう通りにしなさい」
「分かったよ。甘栗さんで我慢します」
「私の扱いをなんだと思っているわけ?」
「えーと。はは」
「笑って誤魔化すな!」
火起こしをしている最中である。
参加者たちが続々と集まり始める。
高校生は勿論だが、小学生から大人まで年齢層は様々だ。
一体、どういう経由の知り合いか謎だ。
一つだけ言えることは西蓮寺さんと関係があるということだけだ。
「ん? やぁ! 甘栗さんじゃないか」
俺たちの前に爽やかな男性が現れた。
甘栗さんの知り合いか?
「あ、天馬くん。ご無沙汰しています」
天馬くん? どこかで聞いたような……?
「前のパーティー以来だね。今日はお友達も誘ったんだって?」
「えぇ、佐伯高嗣さん。もう一人いるんだけど、近藤彩葉って人がいるんだけど、今は席を外しているみたい」
「へー。そうなんだ。よろしく。
思い出した。こいつは確か西蓮寺さんの幼馴染という噂の西京天馬だ。
天才プロ将棋士としてテレビで引っ張りだこの俺にとって最大のライバルとも言える存在になり得る人物。
オシャレなパーマに爽やかな笑顔。女子にモテる顔立ちに思わず、怒りが湧いた。
「あなたが西京天馬か」
「ん? 僕のこと知っているの?」
「知らない方が珍しいと思いますよ」
この余裕の態度。イケ好かない。
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