第37話 買い物の後に
俺は必要な買い物を購入した。
「良かったわね。服が買えて」
「はい。でも、あんな地味な色の服装でよかったんですか? 赤や黄色の方がオシャレだと思いますけど」
「色が派手なものがオシャレとは限らないよ。まずはシンプルこそがオシャレなのよ」
俺が買ったのはグレー、白、黒がメインのコーディネートだ。
地味な俺が更に地味になるのではないかと思ったが、甘栗さんとしてはそれが正しいファッションだと言う。
「オタクと呼ばれる人は派手なチェック柄を着る傾向があるのを知っている? あれはカッコイイと思って着ているけど、第三者から見ればダサく見えるでしょ? それと同じ」
「確かにあぁいう人が着るとダサく見える。なんでかな。顔が地味だから?」
「別に顔は関係ないよ。色を使うと自己主張が強すぎるってだけ」
「自己主張?」
「目がチカチカする色を使うと見ていて疲れるのよ。それだったらシンプルな色で揃える方がオシャレに感じる。今の時代はモノトーンファッションが合っているのよ」
「甘栗さん詳しいんですね。だから自分も地味な色を取り入れているんですか?」
「一緒にしないでよ。私はヒラヒラした女の子みたいな服装が苦手なだけ」
買い物が済み、ショッピングモール内をウロウロしていた。
時刻は十六時を回った頃である。
「良い時間になりましたね」
「そうね。じゃ、私はそろそろ帰ろうかしら」
「え? 帰っちゃうんですか?」
「だって元々、今日はあなたの買い物に付き合う予定だったし、終わったなら私がいる意味ないでしょ」
甘栗さんが帰ろうとした矢先、俺はパシッと腕を掴んでいた。
「…………何?」
「いや、もう少しだけ遊びたいかなって」
「遊ぶって何をするの? 私、あんまり遅くなるのは勘弁してほしいんだけど」
「分かった。じゃ、後一時間だけ俺に時間を下さい」
「一時間か。まぁ、それくらいなら良いよ。キッチリタイム測ってやるから」
そう言うと甘栗さんはスマホのタイマー機能を一時間にセットした。律儀過ぎる。
「で? 何をしたい訳?」
咄嗟に引き止めたので何をするか正直考えていない。
だが、早く決めないと一時間のタイムリミットを迎えてしまう。
ショッピングモール内から出てどこか行くか? だが、それだと時間が勿体無い。
こうなったら斯くなる上は!
「甘栗さん。来て下さい」
「え? どこに行くの?」
「いいから早く」
そう言いながら俺は甘栗さんの手を引いた。
エスカレーターを駆け上がり、立体駐車場の屋上に俺は辿り着く。
「ちょっと、どうしてこんなところに……」
甘栗さんは空を見上げた時である。
そこには夕日の空が一望できる景色が広がっていた。
茜色の街が綺麗に映るその景色は絵になるものだと思う。
「へぇ。綺麗じゃない。佐伯くんの割にこんな隠れスポットを知っているなんて意外」
「別に景色を見せるために来た訳じゃないんだけど」
「じゃ、なんのために来たのよ」
「ただ人混みを避けたかっただけ」
「ん? 人混みを避ける意味は?」
俺は甘栗さんの後ろに回り込んだ。
「ちょ、何を!」
「フゥ」と、俺は甘栗さんの耳に息を吹き掛けた。
「ふにゃああああ!」
「おっと。危ない」
甘栗さんは転落防止柵に倒れたため、俺はしっかりと受け止める。
甘栗さんに逃げ道は無くなった。
「失礼します」
俺は甘栗さんの胸を後ろから持ち上げた。
「最初からこれが目的だったって訳ね……」
「人混みだとこんなこと出来ないから」
「まぁ、あなたが絶景スポットを女の子に見せるなんて気の利いたことは出来ないのは知っているよ」
「怒っていますか?」
「怒っていないように見える?」
「いえ……すみません」
「謝りながら胸を揉む精神が理解出来ないわね。でも、綺麗な夕日を見ながら胸を揉まれるのは佐伯さんを置いて一生いないかもね」
「ありがとうございます」
「いや、褒めていないんだけど」
「あの、一緒にトイレに行きませんか? ほぼ従業員専用のトイレなので誰も入ることはないと思います」
「あなた、全然懲りていないわね。その下心精神はなんなの?」
「まぁ、いいから少しだけ行きましょう。ね? フゥ!」
「ふにゃ!」
力が抜けきった甘栗さんを誘導してトイレに連れ込んだ。
タイムリミットの一時間をギリギリまで使って俺は甘栗さんと楽しんだ。
何かしらと今日はいい日になった。
そして明日はいよいよBBQパーティーだ。
ーーーーーー
甘栗朱音編はどうでしたか?
次は念願の西蓮寺琴吹編です。
少し構想を練っていますのでお時間下さい。
★★★を押してくれると俄然やる気に満ち溢れるのでよろしくお願いします。
では、次の更新までまた!
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