第30話 コンプレックス


「仕上がりました!」


 耳を中心にせめられた甘栗さんは興奮で激しく過呼吸を繰り返す。


「凄い効き目ですね。こんなに耳が弱いなんて」


「でしょ? これで朱音ちゃんといつでも出来るよ」


「出来るってどこまで?」


「最後まで。ただ、やる最中は途中、途中で耳を弄ってあげないと正常に戻っちゃうから注意だね。試しに頂こうかな」


 そう言って百合先輩は甘栗さんの胸を触る。


「ちょ、何をするんですか? いきなり揉まないで……ヒャン!」


 甘栗さんが抵抗を見せた瞬間に百合先輩はすかさず耳に息を吹きかけると強まった力が抜け落ちた。


「侑李ちゃんと違ってこの膨らみも悪くないなぁ。食べちゃいたいくらい」


「あの、百合先輩。俺にも触らせて下さい」


「どうぞ」


 力が抜け切った甘栗さんの胸を下から持ち上げた。

 大きい! しかも吸い付くようなフィット感。


「な、何を!」


「佐伯くん」


「分かっています」


 俺は甘栗さんの耳に息を吹きかける。


「フニャ!」


 甘栗さんの力が更に抜け落ちる。最早マネキン状態だ。


「あれを試したいな」


「あれ?」


「耳舐めです。最近、そういう友だちが出来て試しめみたいなって」


「いいんじゃない? 私が許可する話でもないけど。それにしても佐伯くん。またそういう相手を作ったんだ。私にも紹介しなさいよ」


「また聞いてみます」


 瑞穂ちゃんの真似をするように俺は甘栗さんの耳を外側から舐めた。


「ひゃっ!」


 その声に興奮して俺は耳タブを甘噛みした。


「―――――――――――――――――――――」


 甘栗さんはもう声にならないくらい感じていた。

 身体はもう俺に預けた状態だ。


「ほー。佐伯くん。やるわね。私もあとでやろうかな」


「甘栗さんの耳、大きいですよね。舐めがいがあります」


「わ、私は……耳が……コンプレックスなのよ。大きいし……変な形だし……見られるのだって嫌。それなのに……あなたたちに侮辱されるなんて。許さないんだから」


 霞んだ意識の中、甘栗さんは口にした。

 微かに残る嫌悪感で力を振り絞りながら俺の腕を掴んだ。


「バカにしないで」と、甘栗さんは言い放つ。


「全然、そんなこと思わないですよ。むしろ可愛いです。この大きさ、形。素晴らしい耳です」


「嘘言わないでよ。この耳でどれだけバカにされたと思っているの。私はもう何年もこの耳を髪で隠し続けている。耳なんて晒すなんて失態よ」


「なら俺がこの耳をもらっちゃいますね」


 ペロッと耳を舐める。


「ヒャン! ちょ、いい加減にしてよ。これ以上、恥を晒すわけにはいかない」


「なら俺と百合先輩の前では晒して下さい。全力で受け止めてあげます」


「私の耳、変じゃない?」


「変じゃありません。むしろいいです。そうですよね。百合先輩」


「うん。その耳含めて朱音ちゃんが好き!」


「ありがとう。この耳でそこまで言ってくれる人、初めてだよ。なんか落ち着いた」


「それは良かったです。これからも耳を弄ってもいいですか?」


「ダメ。それをされると私が私じゃなくなる」


「それでいいじゃないですか。なんだか甘栗さんが凄く可愛く見えました」


「ちょ! 何を! ヒャン」


 耳を弄られる度に甘栗さんはメスの顔をする。


「佐伯くん。ここは学校だからそれ以上は他所でやってよね」


「じゃ、俺の家に行きましょう。そこなら存分に羽が伸ばせると思います」


「いいね。朱音ちゃんはもう二番目の彼女同然だし」


 甘栗さんの意見がないまま、二人で話を進める。

 状況を作り出すのは難しいが、一度この状況を作り出してしまえば流れるところまで流れる。

 ただ、素に戻った甘栗さんは扱い辛い。


「もう騙されませんから。二人が揃うとロクなことが起きません」


 ふんっと甘栗さんはそっぽを向いて化学室を出て行ってしまう。


「朱音ちゃん。可愛いでしょ?」


「はい。魅力の塊です」


「あとは私たちのテリトリーに引き入れるだけだね。頑張るよ」


「頑張るところがズレている気がしますが、頑張って下さい」


「そういえば耳舐めの友だちってどんな子?」


「あぁ、中学生なんですけど……」


 そこから百合先輩と雑談しながら自分の欲望を満たせる計画を企てる。

 甘栗さんの弱点は今後、使いどころによってはいい味を出していくと思う。

 そういえば西蓮寺さんの主催するバーベキューはいつになるのだろうか。

 甘栗さんの連絡待ちだ。その前に甘栗さんと色々楽しみたい。

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