第29話 あるスイッチ
「ふふ。仕上げてきました」
そう、笑顔で百合先輩は甘栗朱音の肩を組んで言った。
突然、化学室に来てほしいと言われたので何事かと思えばあの
「あの、仕上げたって何を?」
「ねぇ、
「…………はぁ」
温度差がすごい。テンションが高い百合先輩に対して甘栗さんは冷め切っている。
無理やりここに連れて来た感が強い。
「あの、百合先輩。仕上げたって何を?」
「朱音ちゃん。実は西蓮寺さんのこと好きなんだって」
「え?」
「違います。尊敬するって意味の好きです。彩葉ちゃんのような好きとは違いますから」
「ふーん。西蓮寺さんのどういうところを尊敬しているの?」
「人前に立って堂々とした立ち振舞い。そして視野が広くて誰かが困っていると自分のことを置いて真っ先に近寄ってくれる。頭が良くて気品があり、嫌いな要素なんて見当たらない素晴らしい人です!」
先ほどまでテンションが冷め切っていたが、西蓮寺さんの話をするとイキイキするように喋った。
その姿を見た百合先輩は甘栗さんに抱きついた。
「可愛い!」
「ちょ、何をするんですか」
「イキイキしている朱音ちゃんが可愛すぎた!」
「スリスリしないで下さい」
甘栗さんは腕を伸ばして迫る百合先輩を押し退けた。
「百合先輩。全然懐いていない気がしますが?」
「普段はツンツンしているけど、あるスイッチを入れてあげると思い通りになるんだよねぇ」
「あるスイッチ?」
すると百合先輩は甘栗さんの耳に息を吹きかけた。
「フゥ!」
「ひゃあぁん」
甘栗さんは一気に力が抜けて崩れ落ちる。
「どう? こうなってしまえばもう思い通りだよ」
「やめて下さい。私、耳が弱いんですから」
甘栗さんは普段、耳の部分を髪で隠すようにしている。手で耳を隠しながら百合先輩の吐息から逃げる。
「佐伯くん。抑えて」と百合先輩は指パッチンをする。
「はい。分かりました」
俺は甘栗さんの両手を抑えた。
「ちょ、佐伯さん。あなた、彩葉ちゃんの言いなりですか?」
「百合先輩の行動は尊重してあげたいんです」
「はぁ? 何を言っているの?」
「えへへへ。朱音ちゃん。もう逃げられないよ」
「ちょ、何をするつもりですか?」
「何って息をかけるだけだよ」
「や、やめて下さい。そんなことをしたら私、壊れちゃいます」
「いいんだよ。壊れちゃって。私が後始末してあげるから」
「や、やめて!」
フゥと大量の息を耳に吹き上げた瞬間、甘栗さんはイッた顔をする。
「フニャ……」と、まるで精神が抜け切ったようになる。
「凄い効き目ですね」
「私も発見した時は驚いたよ。きっかけは単純だったよ」
「どうやって見つけたんですか?」
「いい曲を聴かせてあげるってイヤフォンを差し出したら必要以上に断ってね。変だなって思って無理やり耳にイヤフォンをつけたら変な声を出してさ。もしかしたらと思ったのよ。かなり耳が敏感のようでイヤフォンもまともに付けられない身体みたい」
「へぇー。じゃ耳かきをしたらどうなるんですかね」
「やってみる? 丁度持っているんだよね。私」
「やってみましょうか」
「朱音ちゃん。耳掃除しようか?」
「や、やめて下さい。そんなことしたら私、私……」
「大丈夫。怖くないよ。すぐ終わるから」
百合先輩の膝枕に寝かされた甘栗さんは逃げることは出来ない。
「ほ、本当にやるんですか」
「私、実は耳掃除上手なんだよね。すごく気持ちいいよ」
そして、百合先輩は甘栗さんの耳に耳掻きを突っ込んだ。
「ひゃあ! あ、あ、あぁぁぁ。ん、んんんんんんん!」
まるで性行為をされているような喘き声が化学室に広がった。
口が自分では閉じられず唾液が溢れた。
ビクビクと身体をくねらせて精神が崩壊した。
「その顔見るとドキドキしてきちゃった」
百合先輩は甘栗さんの顔を見てさらなる興奮を覚えたようだ。
最近、耳の良さを知った俺も甘栗さんの気持ちは分かるが、あそこまで感じられるのは才能と言える。
瑞穂ちゃんが甘栗さんの耳を舐めたらどうなるのか。少し想像しただけでニヤニヤする自分がいた。
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