第26話 一度勃てばなかなか収まらない


 休み時間。教室の居心地の悪さから俺は席に立った。

 陽キャのグループが俺の席の前で楽しそうに話していると気まずい。

 俺が席を立ったことをいいことに陽キャたちは俺の席を占領する。


「しばらく時間を潰すか」


 肩身が狭い思いをする俺は休み時間の間、ギリギリまで教室の外で過ごすことが多い。そんな俺の後ろをついてくる女子がいた。


「佐伯くん。ちょっといい?」


「宮本さん」


「例のやつをやりたいんだけど」


「はい。いいですよ」


 強制的に廊下と階段の死角へ連れていかれ、人目を気にしながらメガネと髪留めを外す。

宮本郁恵みやもいくえ。遠距離恋愛の寂しさから俺とハフレと言う関係を築いた仲だ。


「誰もいないわね。よし、今のうちに済ませるわよ」


「どうぞ」


 俺は胸を開ける。すると宮本さんは人が変わったように抱きついた。


「あー。好き! この温もりが欲しかったの。スリスリ」


 地味な宮本さんは自然体に戻すと美少女に変貌する。別の男が寄り付かないカモフラージュと言っているが、俺の前だけは素の自分を出している。


「俺も抱きしめていいですか?」


「どうぞ」


 ギュッと抱きしめると女の子の温もりを一気に感じた。

 この腕の中に収まる感じがいいんだよな。

 三十秒ほどこの状態が続く。


「宮本さん。キスしませんか?」


「嫌」


「じゃ、胸を触ったりしても」


「嫌」


「なら、お尻を少しだけでも」


「ダメだって。これだけで我慢してもらえる?」


「でも俺、今やばいかもしれないです」


「ん? って何を当てているの!」


 俺は下半身の出っ張りを宮本さんに擦り付けていた。

 固いものが触れたことで宮本さんは俺から素早く離れた。


「ちょっと。ハグしただけで立たせないでくれる? どれだけ単純なのよ」


「あ、すみません。抱き心地が良かったのでつい」


「ついじゃないわよ! もう。じゃ、今日は終わり。また今度、欲しくなったらお願いね」


「了解です」


 宮本さんはメガネと髪留めをして元の姿に戻った。


「じゃ、私は教室に戻るから」


 ササッと宮本さんは行ってしまう。

 目的を果たされてしまえば素気ない。割り切った関係というのはこれくらいが丁度いいのかもしれない。


「やばっ! 全然収まらない。こんな状態じゃ教室に戻れない。早く収まってくれ。俺の息子。こんなところ誰かに見られたら笑い物だ」


 そんな憶測に反応するように後ろから目を隠された。


「だれーだ!」


「その声は侑李?」


「残念。彩葉ちゃんでした」


 目元を隠したのは百合先輩。声を掛けたのは侑李だ。

 何だ。その騙し討ち。


「高嗣。そんなところで何をしているの? それにどこを抑えているのよ」


 股間に手を当てる俺の仕草に侑李は疑問をぶつける。


「別に何も」


「えい!」


 百合先輩は面白がって俺の手を退けた。

 ズボンの膨らみが二人の前に晒される。


「あんた。何よ、それ! 学校で変なこと考えるんじゃないわよ」


「いや、違う」


「佐伯くん。否定しても身体は正直だよ。欲求不満か。侑李ちゃんにまた満たしてもらう?」


「それもいいかも」


「はぁ? 冗談じゃないわよ。そういうことは学校の外でしてよ」


「学校の外ならいいのか?」


 カアァァッと侑李の顔は真っ赤に染まる。


「バ、バカ言ってんじゃないわよ。あんな練習で満足しているようじゃあんたもまだまだね。フン!」


 侑李はフラフラしながらその場を去っていく。


「照れ方が独特だね。まぁ、そこが可愛いんだけど。ああいう強気な子が百合で溺れる顔がまたいいのよね」と、百合先輩は侑李のことを変態の目で見ていた。


「あの、百合先輩。さっきより酷くなりました。どうしましょう?」


「はい?」


 俺の股間はギンギンとなり、制御不能な状態と化していた。


「…………服を掛けたハンガーも吊せそうだね」


「そんなくだらないことを言っていないで何とかして下さいよ」


「私、女の子専門だからそういうのは専門外。悪いけど、手助けは出来ないかな。じゃ、そういうことで」


 俺はしばらくその場を動けなかった。戻った時には授業が始まっていた。

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