第25話 話す機会を与えてもいいかな
「今のは極秘情報だから絶対に誰にも言わないでね」
「甘栗さん。その西京天馬と西蓮寺さんはどういう関係?」
睨むように百合先輩は迫った。
「幼馴染らしいよ。学校は違うけど、昔から仲が良いんだって。お願いだからこれは内緒にしてよ」
「ありがとう。良い情報が聞けた。誰にも言わないから安心して」
そう言って百合先輩は俺の肩に手を当てる。
「諦めましょう」
「潔ぎよすぎませんか?」
「だって! そんな有名人に私たちが叶う訳ないじゃない。どうしろっていうのよ」
「確かに戦う相手が悪いとは思います。そもそも狙う相手も悪いですが」
「そうでしょ? あーなんか気持ちを伝える前に振られた感覚よ」
「いや。まだダメと決まった訳じゃありません」
「佐伯くん。あんたこれを聞いてもまだ諦めがつかないの? 無理じゃん」
「彼氏になることが無理でも友だちになることが無理でも知り合いになることが無理でも何かしらの接点さえ持てたら俺は満足です。そういう意味ではまだ諦めたくありません」
「前向きというか、バカというか、世間知らずというか、佐伯くん。あんたやっぱり面白いわね」
「ぷふ。あはははは! なに、それ! バカみたい」
俺と百合先輩のやりとりを聞いていた甘栗さんは笑い出した。
笑い方は侑李とそっくりだが、今はどうでもいいことだ。
「俺は至って真面目ですけど」
「ごめん。急に笑っちゃって。あまりにも前向きすぎるバカな人だったからおかしくて。でも嫌いじゃないよ。佐伯くんのような前向きバカ。私は好きだよ」
「それは俺のことがタイプってことですか?」
「本当にバカなんだね。そんな訳ないじゃん」
完全否定された。その冷めたような目で見ないでくれ。
「まぁ、二人がどれだけ西蓮寺さんが好きかっていうのはよく分かった。逆恨みでも悪いことをしようとしている訳じゃないだけでもよかった。確かに付き合うことは難しいかもしれないけど、話す機会は与えてもいいかなって思った」
「え? 本当?」
「うん。実は今度、生徒会メンバーが西蓮寺さんの実家でバーベキューに来ないかって誘われているの。そこに二人を招待してもいいか聞いてあげる」
「バーベキュー? そんなビッグイベントがあるの?」
「実は西蓮寺さんってパーティーのような集まりが好きなの。いろんな人と交流して意識を高めていけるからって定期的に開いているそうよ。今回はたまたま私たち生徒会メンバーが招待されたけど、他では芸能人も来るって噂だよ」
「意識高すぎでしょ」
「え、でもそんな集まりに私たちが入り込めるの?」
「私から言えば多分大丈夫。百人単位だから一人や二人増えたところで西蓮寺さんも気にならないと思うよ?」
「百人ってどんな規模のパーティーだよ」
「まぁ、楽しみにしていて。日程や時間は追って連絡するから」
俺は甘栗さんの両手を掴んだ。
「え?」
「ありがとう。甘栗さん。俺、今メッチャ幸せだよ」
「う、うん。どういたしましいて。泣くほど嬉しい?」
「当たり前だよ。だって西蓮寺さんと喋れるって思うと今から何を喋るか考えなきゃ」
「喋れるとしても一、二分程度だと思うけどね。まぁ、頑張ってよ」
戸惑いながらも甘栗さんは労いの言葉を添えた。
「ところで甘栗さん」と百合先輩は甘い言葉で甘栗さんに近づく。
「な、なんですか?」
「ちょっとメガネとってもらえる?」
「メガネ? 別にいいですけど」と、甘栗さんはメガネを外す。
「いい。凄くいい」
「はい?」
あぁ、百合先輩の変なスイッチが入っちゃった。
「甘栗さん。ずっと思っていたけど、可愛い顔をしているね。私の二番目の彼女にならない?」
「に、二番目? 何を言っているんですか?」
「甘栗さん。百合先輩って実は百合なんだよ」
「百合が百合? 何を言って……」
ギュッと百合先輩は甘栗さんを抱きしめた。
「ちょ、何を?」
「キスをしてもいいかな?」
「はぁ? いい訳ないじゃないですか。辞めてください」
甘栗さんは無理やり百合先輩を引き離した。
「もう、照れ屋さんなんだから」
「何を言っているのか分かりません。大体、女同士でイチャイチャしないでください」
「女同士だからじゃん。私は構わないぞ?」
「佐伯さん。この人なんなんですか」
「まぁ、見た通りだ」
「意味が分かりません。私は男が好きなんです。断じて女の子は好きじゃないです」
甘栗さんは身の危険を感じて教室から出ていってしまう。
百合先輩のことを分かり合える女子は簡単に現れない。
「佐伯くん」
「なんですか」
「三日で甘栗さんをものにするからまた部屋を提供してくれる?」
「どこからその自信が出るんですか? メッチャ嫌がっていましたけど」
「あぁいうタイプの子って実は単純だったりするのよ。おこぼれがあったらあげるから」
「百合先輩。頑張って下さい。応援しています」
「話の切り替え早! それより佐伯くんは西蓮寺さんとの話題を考えなよ」
「それもそうですね」
楽しいイベントがまた出来た瞬間だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます