第14話 場所の提供


「ちょっ! 彩葉さん。それは反則だって」


「え? 何のこと? これにルールなんてあったかな?」


 百合先輩の暴走は止まらない。

 もしかしたらこのまま最後までイッてしまうのではないだろうか。


「ひゃっ! そこは摘まないで」


「え? もっと?」


「あっん! いやあぁぁぁ!」


 え? まさか乳首を摘んでいるのか? 俺でもまだこそはためらっているのに一回目でそれは反則だ。

 まるで恋人を略奪されたような感覚に襲われた。

 俺の大事な練習相手以前に大事な幼馴染がこうも簡単に女の顔にさせてしまうとは百合先輩は百合先輩なだけあるということだろうか。

 このまま続ければいくところまでイッてしまいそうでならない。

 現に侑李は顔が真っ赤でいやらしい吐息を吐き散らしている。

 俺でもあそこまでさせたことがないのに。という嫉妬なのかよく分からない感情が込み上がっていた。


 そんな時だ。ガッと扉を開こうとする音がした。


「ん? おい! 誰かいるのか?」


 化学室の前で呼びかける人物で現実に戻される。

 ガンガンと必要以上にノックをする。


「やばっ! 見回りの先生かも」


 時刻は十七時を回っている。

 そういえばうちの学校は部活の使用教室以外は戸締りの先生がすることになっている。

 化学室はその対象内になっていた。

 急いで二人は乱れた服装を直して鍵を開けた。


「はい。なんですか?」


「何ですかじゃないだろ。下校時刻は過ぎているはずだ。早く帰りなさい」


「はい。すみません。すぐに帰りますので」


 そそくさと化学室を出ようとする俺たちの背中に向けて先生は呼び止める。


「お前ら、ここで何をしていたんだ? 鍵まで掛けて」


「勉強です。化学の実験で分からなかったところがあったので」


「そうか。危ない薬品とかあるから出来れば先生の前で実験をしなさい。万が一の事態になれば大変だからな」


「はい。気をつけます。それでは失礼します」


 百合先輩は自然の口調で嘘を並べた。何とか先生にバレなかった。

 人目から外れた直後、俺は冷や汗が一気に流れた。


「ビックリした」


「ごめんね。私が時間を気にしていなかったばかりに」と、百合先輩は俺たちに頭を下げる。


「いえ。慣れた口調ですけど、前にもこんなことがあったんですか?」


「まぁね。百合に集中するとつい、時間を忘れてしまう」


「私はある意味、助かったかもしれない」と侑李は小声を漏らす。


「うーん。やっぱり学校じゃ安全に勤しめないね。どこか学校以外の場所はないかな」


「カラオケボックスとか?」と侑李は提案する。


「いや、そういうところって監視カメラあるんじゃない?」


「確かに。他には多目的トイレとか。でも満足にできないか」


「一層、ラブホなんてどう?」


「バカね。高校生が入れるわけないでしょ。それに一回で結構するよ。割り勘にしても痛手だよ」


 侑李と俺が場所に悩む中、行き着く先は一つしかない。


「それ以外となれば家だな。ねぇ、百合先輩」


「あー私は家だと無理なの。兄弟と同室だし、常に誰かいるからちょっと厳しい。侑李ちゃんの家は?」


「難しいかな。うちは壁が薄いから家族に声が聞こえちゃう」


「だよね。残念。困ったなぁ」


 そんな会話をしていた二人は何故か俺をガン見する。

 無言の圧力で何かを訴えかけている。


「え? 何?」


「練習する時って大体、高嗣の家でするんだよね。何かと都合良くて」


「へーそうなんだ。佐伯くんの部屋なら色々できちゃうってことね」


「え? 何を言っているの?」


「佐伯くん。私たちの百合をする場所を提供してくれないかな?」


「あんたの部屋なら自由だものね」


 二人は部屋を貸してくれと頼み込む。と、言うより貸して当然という態度だ。


「まぁ、それは構いませんが……」


「本当? じゃ、続きは佐伯くんの部屋でやろうか。侑李ちゃん」


「そうですね。今度は人目を気にせずにできそうですし」


「俺の目線はいいのか?」


「見たければ見ればいいよ。あんたにはいつも見られているし」


「佐伯くんに見られれば興奮が増すから好きなだけ見てよ」


 話は最終的にありえない方向へ向かっていく。

 こうして何故か、俺の部屋は百合の場所として提供することになる。

 まぁ、さっきの興奮が目の前で見られるなら場所の提供はありなのかもしれない。


 休日の昼頃、侑李と百合先輩は揃って俺の家に訪れた。

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