第11話 どちらでもいけますよ


「調べるとは言っても面識もない俺が質問したところで引かれることが目に見えているんだよな」


 百合先輩に押し付けられた俺は頭を悩ませた。この際、嘘の報告をしてしまうか。

 いや、俺も西蓮寺さんの恋愛対象がどちらなのか気になるところだ。

 ここは何としても調べ上げたい。


「とは言ってもどうしようかな」


 悩んでいたその時だ。


「佐伯くん。ヤッホー」


 通り掛かりに声をかけてきたのは安藤火乃香あんどうほのかだ。


「安藤さん」


「どうしたの? 難しい顔をして」


「いや、ちょっと悩んでいて」


「私でよければ聞くよ。いつも練習に付き合ってもらっているからこういう時くらい頼ってよ」


 安藤さんには俺が西蓮寺琴吹を好きだと知らない。

 また秘密を握られそうになることを躊躇した。


「いや、こればかりはちょっと……」


「言っちゃいなよ。スッキリするよ」


 安藤さんの強引な態度に俺は悩んでいることが馬鹿らしく思えた。


「実は……」と、俺は事情を話した。


「そんなこと? じゃ、私が聞いてあげようか?」


「聞くって聞けるの?」


「別にそれくらい余裕だし。じゃ、ちょっと聞いてくる」


 軽い感じで安藤さんは西蓮寺さんの元へ向かう。


「ちょ、安藤さん」


 ギャルのコミュニケーション能力は化け物じみている。

 俺のようなカースト最下位には考えられない行動力だ。ただの添い寝相手かと思えばこういう時は謎に頼りになる。

 西蓮寺さんを見つけた安藤さんは手を振りながら声を掛ける。


「あ、西蓮寺さん! 少しいいですか?」


「はい?」


 西蓮寺さんは安藤さんの呼びかけに立ち止まった。

 俺は思わず壁に隠れてその様子を伺う。


「西蓮寺さんの恋愛対象って男ですか? それとも女ですか?」


「へ?」


 いや、ストレート過ぎるだろ。聞くにしても聞き方というものがあるのに安藤さんはそのまま質問を投げかける。当然、西蓮寺さんは唐突の質問に頭の中は『?』でいっぱいだろう。


「それでどっちが好きなんですか。西蓮寺さん」


 西蓮寺さんの困っている様子を無視して安藤さんは再度、質問を投げかける。

 バカ、バカ。西蓮寺さんを困らせるな。

 苦しくなった俺は安藤さんを連れ去ろうと踏み出したその時だ。


「私はどちらでもいけますよ。時と場合によりますが」


 それだけを言い残して西蓮寺さんは去っていく。


 どっちでもいけるんだ。

 意外と思いながらも欲しい情報を聞き出せたことで達成感を覚えた。

 安藤さんにお礼を言った後に早速、百合先輩に報告に向かう。


「どちらでもいける? それは間違い無いのね?」


「あぁ。ちゃんと本人の口から聞いたから間違いない」


「良かった。それなら私にも可能性がありそうね。ところでよく本人から聞き出せたね。どういうカラクリ?」


「まぁ、積極的な友達がいまして。それで聞き出せました」


「ふーん。お手柄よ、佐伯くん。それと大事なことなんだけど、西蓮寺さんは攻めるタイプかな? それとも受け身?」


「知りませんよ。そこまで聞けませんからね、俺」


「ちなみに私は受け身なんだけど、西蓮寺さんも受け身だったらどうしよう」


「どちらかが攻める役目をしたらいいのでは?」


「西蓮寺さんにそこまで負い目をさせられないよ」


「それは付き合ってから考えてくださいよ」


 百合先輩は完全な受け身タイプだ。見た目通りといえばその通りだ。

 対して西蓮寺さんはどちらかといえば攻めのタイプだと思う。普段の立ち振る舞いを見る限り、そんな感じだ。

 だが、交際すると受け身に変わることだって考えられる。

 俺としてはどちらの西蓮寺さんも好きだ。想像するだけで可能性が広がる。

 それでも西蓮寺さんはまだ俺の手が届く範囲にいない。

 ひたすら練習を繰り返して男として磨きを掛けなければならない。

 そんな時だ。百合先輩はとある提案をする。


「佐伯くん。同じ人が好きなもの同士。ライバルであると同時に協力関係を築きましょうよ」


「協力関係?」


「常に西蓮寺さんの情報は共有すること。それと付き合う前の事前準備よ」


「事前準備ってどちらでもいけることが分かったならアタックすればいいんじゃ無いですか?」


「バカね。今の私には見向きもされない。だから自分磨きに協力してほしいの」


「自分磨きって?」


「佐伯くん。私には全てお見通しよ。あなた、西蓮寺さんと付き合う為に裏で何かしているでしょ? 自分磨きに繋がる何か。それを教えなさいよ」


 確かに俺は裏で練習行為を行なっている。

 百合先輩に言うとまた面倒なことになるのは見えていたが、この強引さは簡単に引き下がらないことを考え、俺は白状する。


「実は……」

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