第10話【はじまりの音】

斎藤さんを家まで送り、自宅のアパートへ帰ってきた。

歩いているときも少しばかり気恥ずかしく、気まずい空気で会話も弾まず、それでも家まで送り届けたら斎藤さんは笑顔だった。


「よし、宿題やるか。」

入社時に新しい勤怠管理プログラムが欲しいと言われていた。

明日から実務研修で時間も無くなりそうだ、今日のうちに形にして会社にもっていこうと手を付ける。

「あまり複雑ではないから、今のシステムを改修すればいいか。」

二時間程度、作業を行い、形になった。

「よし、これで明日持っていこう。」

時間は夜の9時、少し小腹が空いてしまった。

コンビニはあるが何だか味気ない。

商店街で何か探そうか、上着を羽織り外に出る。

また違う空気を纏う街は、知らない街に来たような気分にさせる。

商店街の入り口につくと、ほっとするような、知った街の顔を見せる。


少し歩くと喫茶店。まだ閉まってはいないが、ここは朝の店だからと、通り過ぎ違う店を探す。目ぼしい店がなくまた少し歩く、すると斎藤さんの精肉店が見えてきた。

この時間でもやっているんだなぁ、と通り過ぎようとした時、声をかけられた。

「西野君?」

「あっ」

斎藤さんだった。エプロンを着け、お店の片づけを手伝っていたようだ。

「斎藤さん、こんばんわ?というか、先ほどはありがとうございました。」

「西野君もね、どうしたの?こんな時間に。」

「少し小腹が空きまして、コンビニじゃ味気ないかなと思い散策しているところです。」

「なんだ兄ちゃん!腹へってんなら家で食べていきな!安奈、ここはいいから用意してやれよ!」

「西野君にだって食べたいものがあるわよ!それに突然じゃ迷惑でしょ!」

「あの、もしよければ斎藤さんのご飯食べたいです。唐揚げもポテトサラダも凄く美味しかったので。もちろんお金は払いますので。」

「気い使いの兄ちゃんだなw安奈の料理じゃ金なんかとれねぇよw気にせず上がって食っていきな!」

「もう!お父さんが強引でごめん、西野君、迷惑じゃなければ寄ってって。」

「お言葉に甘えます。すいません、お邪魔します。」

「おう!ゆっくりしてけよ~」


通された家の中で斎藤さんのお母さん、妹さんと挨拶を交わす。

「初めまして、西野です。安奈さんには職場でお世話になっております。」

「あらあら、いらっしゃい、あなたが西野君かぁ安奈から良く話・・・」

「お母さん!余計なことはいいから・・・西野君にご飯つくるね、余計な話しないでよ・・・」

「あら怖い、はぁ~い大人しくしてます。」

可愛らしいお母さんだ、それにしても斎藤さん家で会社の話とかするんだな、悪い印象じゃなければいいが。

「ねえねえ」

妹さんが話しかけてくる。

「お姉ちゃんとはどこまでいってるの?」

「どこまでって?」

「キスとか?」

「がはっ!ごほ!ごほ!」

咽た。何てこと聞くんだこの子は、高校生くらいだから興味があるのだろうか。

「そういう事は何もないよ、斎藤さんは先輩だし、凄く美人だから俺なんかに興味もたないよ。」

「ふ~ん。てことは西野さんはお姉ちゃんの事、好きなの?」

お母さんが隣で身を乗り出し、うんうんと言いながら俺の答えを待っている。

「二人とも・・・」

声の方向を振り向くと俺の知らない斎藤さんがいた・・・


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