第9話【親睦会、そして帰宅】
乾杯後は出てくる料理を堪能しつつ、研修中の話で盛り上がった。
そして、料理も出そろい、お酒のペースも落ち着いたころ、それまでより真面目な顔で田中さんが話し出す。
「明日かは営業課で研修かぁ、ついに本番って感じだなぁ。」
「そうですね、最初に挨拶しただけで、周りに知らない人ばかりになるのが少し不安です。」
斎藤さんも田中さんに続き不安を口にする。
僕は二人の言葉を聞きながら、少し考え、話す。
「僕は、やるべき事があるのは嬉しいです。自分の役割を貰える部署で、仕事をして、生きる力を身に着けるみたいな。上手く言えないんですが。」
二人は少し驚いた表情で僕を見る。そして田中さんが笑いながら、「ははっ!西野が一番、大人だな。そうだよな、不安より、仕事を通じて人として成長できる、そう考えたら、どうでも良いことで不安に感じてきがするよ。」
斎藤さんも微笑みながら頷く。
僕は少し照れくさくて、コップ半分ほどのコーラを一気に飲み干した。
時刻は19時半、店に入って2時間ほど経った、飲み放題の時間が終了して、僕らは店を出た。
「じゃあ、また明日な。顔合わせなくなるかもだけど、たまには揃って飯でも行こうぜ!」
田中さんと別れ、僕と斎藤さんは駅へと向かう。
春の陽気から一転、夜はまだ肌寒い。ホームの自動販売機で温かい飲み物を購入し電車を待つ。
「西野君は思っている以上に大人だね、なんだか感心しちゃった。」
「へ?」
「仕事に対する考え方というか、そういうとこ。」
「そうですかね、自分の役割ってあまり感じずに過ごしてきたんで、望まれてここにいるって思えることが嬉しいんですよね。」
「そっか。」
それ以上はあまり深く突っ込んでこなかった。僕もまだ、話したくない事だったので、ありがたかった。
冷たい風が頬をなぞる、斎藤さんに目をやるとジャケットの襟を立て寒さを凌いでいた。僕は寒がりなので春でも使えるマフラーを持っている、そこまで寒くなかったので僕はマフラーを斎藤さんの首へかけた。
「へ?」
「貸します、僕は寒くないので。」
「あ、ありがと・・・」
斎藤さんの頬が少し赤い、よほど寒かったのかなと思い、思わず頬に手を手をあてる。
「頬赤いですよ、これで暖まりますかね。」
「へ?へ?へ?」
斎藤さんがへ?しか言わない。なんでだろうと考えながら自身の行動に驚き、とたんに恥ずかしくなり、斎藤さんの頬から手を放す。
「も、もうすぐ電車来ますね・・・」
「そう、だね・・・」
二人の間に少し気まずい空気と、ほんわか暖かい空気が流れた。
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