第32話 守りたいもの
「はぁ…怖かった…」
「そうだね…」
勇者との邂逅の後、4人はキャンピングカーに戻って来ていた。
「…妾たちの為に怒ってくれてありがとう」
ソフィアは、楓と有咲に頭を下げる。
「あの…私からもありがとうございました」
ソフィアに続きレイナも頭を下げる。
「気にするな。むしろよく有咲は止めたよな」
「だって、あなた本気で殺そうとしてたじゃない」
「それに関しては申し訳ない」
楓は、ソフィアとレイナの家族を殺した勇者に、本気で殺そうとしていたのだ。
「確かに、怒りは湧いたけど、殺しは駄目だよ」
「まあそうだなぁ」
楓は、勇者を殺そうと考えていたことを反省する。
「ソフィアとレイナは、大丈夫か?」
「妾は大丈夫じゃ」
「私も大丈夫です」
「そうか…」
ソフィアとレイナは、楓に安心させるように言う。
「そんなことよりもお腹が空いたのじゃ」
「私もです」
「そっか。じゃあ作るか」
「そうだね」
ソフィアとレイナの言葉を聞き、楓と有咲は調理に取り掛かる。
「それで今日の昼食は何なのじゃ?」
「グリフォンの卵で作るオムライス」
「さて、食材は買い込んだし。次のダンジョンを目指すとするか」
「そうだね」
「じゃな」
「はい」
昼食を済ませ、後片付けを終えると再びダンジョンを目指す。
「ねぇ楓」
「んー?」
「あの勇者もダンジョン攻略してるのかな?」
「さあ?」
「もし、また私たちの前に対峙した時は楓はどうするの?」
「…分からん。俺たちに危害を加えようとしたり邪魔してこない限り、俺からは特に何もしない」
「そっか」
有咲は、楓の表情を見て納得した。
何があってもソフィアとレイナの味方をするという覚悟を持っていると知っていたからだ。
「ねぇ、変な事聞くけどさ」
「ん?」
「私とあの2人。どっちを優先してくれる?」
有咲は、不安を抱えながら楓に問う。
「そんなの決まってるだろ。有咲だ。お前だけは、絶対に失わせない。ただ、あの2人も最早家族同然だ。それは分かって欲しい」
楓は、有咲の目を見て真剣な表情で答えた。
「そっか。変な事聞いてごめんね。それに、私だってあの2人の事は家族だと思ってるよ」
「それなら良かった」
「うん。前の世界では、お互い忙しかったし、子どもとか考えていなかったけど…。居たらこんな感じになってたのかな?」
「そうかもな…。でもまあ、いつかは欲しいもんだな」
「…ふぇ!?」
有咲は、楓の発言に驚く。
「経済的にも余裕はあるし、良いんじゃないのか?」
「ふふっ、そっか」
「機嫌が良さそうで何よりだ」
「ふふふ~ん」
有咲が上機嫌に鼻歌を歌う中、後ろの方に居るソフィアとレイナは、どこか覇気がなかった。
「ソフィア様…」
「分かっておる。あの男は、妾たちの大事なものを奪って行った。じゃが、今は楓殿と有咲殿にこの命を預ける身じゃ。復讐心だけで動いてはならぬ」
「はい…」
「それに、あの2人は妾たちを家族同然のように扱ってくれるのじゃ。あやつらの為に戦うのが筋なのじゃ」
「そうですね。ソフィア様の言う通りです」
「うむ」
ソフィアとレイナは、何の為に、誰の為に戦うか覚悟する…。
陽は傾き、空は茜色になっていた。
「運転疲れたぁ~」
「…代わらないからね」
「いや、代われよ…」
長時間の運転に疲れる楓だったが、有咲は頑なに運転しようとしない。
「だってだって怖いんだもん」
「何を今更…」
有咲の理由に呆れる楓。
「ダンジョンまでまだまだかかりそうだね」
「そうだな」
「この世界ってかなり広いよね」
「1つ気になったんだけどさ」
「うん」
「ここって地球では無いよな?」
「あー多分違うんじゃない?」
「まあ異世界が天動説、地動説のどっちなのかは知らんけど、基本的にはあの地球と変わんないよな」
「感覚的にはそうだね」
「異世界って不思議だなぁ」
「ふふっ、そうだね」
4人を乗せたキャンピングカーは、岩陰に駐車する。
「今日は、この辺で良いか」
「そうだね。ここなら、周りを注意しなくても大丈夫そうだね」
「そうじゃな。何かあれば迎撃するだけじゃ」
「私の幻術もあります!」
周囲を見渡し、魔物が居ないのを確認し、泊る準備をする。
楓と、有咲は食事の準備。
ソフィアとレイナは、周囲の警戒と幻術を施し、車を隠す。
「今日は、ハンバーグでも作るか」
「良いね。えっと…ミノタウロスの挽き肉にオニオン、後はパン粉を混ぜますっと…」
「ミノタウロスの挽き肉ってやべぇよな」
「もう慣れたでしょ」
「まあなぁ…」
異世界の食材も慣れてきていた2人だった。
いくつかは、転生前の世界で見た事や食べたこともあるものも存在している。
しかし、それでも異世界ならではの食材も存在する。
「というか、この世界にも米が存在しているなんてな」
「穀物とかは、私たちの世界と変わんないもんね」
「食事には、困らないから助かるよな」
「食べ物が合わなくて、身体を壊す事無いから良いよね」
2人で調理をしていると、外で幻術を施していたソフィアとレイナが帰って来た。
「終わったのじゃ~」
「わぁ、良い匂いです」
「おう、もう少しかかるから座って待ってろ」
ソフィアとレイナは、楓の言う通り座って大人しく待つ。
「外はどうだったの?」
「見たところ安全じゃ。凶暴な魔物も見なかったぞい」
「私の幻術も自信あります!」
「ふふっ、そっか。2人ともありがとう」
有咲がソフィアとレイナの働きにお礼を言うと、2人は照れた様子を見せる。
「さてさて、後はフライパンで焼くだけだな」
「味噌汁の方は、いつでも大丈夫だから」
「さんきゅ」
楓と有咲が共に料理する姿を見るソフィアとレイナは、この空間を心地良いと感じていた。
「良いのぅ」
「そうですね」
「妾たちは、こやつらの為に戦わなければならぬな」
「ですね」
「もちろん、妾はお主も守る」
「では、私はソフィア様をお守りします」
「うむ」
それからハンバーグが焼き終えるまでの時間、ソフィアとレイナは、車内から周りの様子を確認していた。
「よし、焼けたな…」
「サラダの盛り付けも大丈夫だよ」
「よしソフィア、レイナ出来たぞ」
「うむ」
「はい!」
楓と有咲は、料理の乗った皿をテーブルに置き、席に着く。
「じゃあ…」
「「「「いただきます」」」」
4人は、夕食を食べ始める。
献立は、ミノタウロスのハンバーグ、味噌汁、米、サラダとなっている。
「美味しいのじゃ~」
「美味しいです!」
「おう」
「良かった」
「お主らの作るものはどれも美味しいのじゃ」
「スライムの時から料理を振舞ってくださってありがとうございます!!」
ソフィアとレイナが美味しそうに食べてくれるのを見て、楓と有咲は嬉しく感じる。
ソフィアとレイナに出会う前は、お互いの負担を減らすために二人で料理していたのだが、出会ってからは美味しく食べて欲しいと思うことが増え、凝ったものも作ることが増えた。
「次のダンジョンまでは、予定通りだと6日くらいで着くな」
食事をしながら、これからの予定を立てる。
「食材とかは買い込んだから、そんなに寄り道もしなくて大丈夫だね」
「そうじゃな。またいつダンジョンの魔物がイレギュラーな動きを見せるか分からぬからの。あんまり寄り道はしない方が良いじゃろ」
「ソフィアの言う通りだな。アルヴァンを再び攻められても前みたいに上手くいく保障はないからな」
「そういえば、お願いがあるのですが…」
「レイナ?どうしたのじゃ?」
レイナは、何かお願いがあるらしく申し訳無さそうに言う。
「私にも何か武器を頂けると助かるのですが…」
「ああ、確かにレイナもあった方が良いな」
「そうだね。でも、何なら良いかな。銃は使えないし…」
「そうじゃのう。では、妾の刀の一つをやろう。有咲殿から貰ったものじゃが、とりあえずお主にはこれを渡しておくのじゃ。2人も文句はないか?」
ソフィアは、有咲から譲り受けた刀をレイナに差し出す。
「俺は文句は無いぞ」
「私も良いよ」
「うむ、助かる」
「ありがとうございます!!」
レイナは、ソフィアが差し出す刀を受け取る。
「レイナも何かあった時は気を遣う事無いからな」
「楓の言う通りだよ。わがままの一つや二つ聞いてあげるんだから」
「無論、妾も気を遣わぬとも良いからな」
「皆様、ありがとうございます」
夕食を食べ終え、後片付けとシャワーを浴びて寝る準備を始める。
「にしても、このキャンピングカーってスゲェよな」
「何でも揃ってるもんね」
「凄い設備じゃ」
「楓殿と有咲殿の居た世界にあったのですよね?」
「あるにはあるけど…」
「よっぽどお金が無いとね…」
「この世界でも高い方なのじゃが…」
「凄いですね!!」
寝る準備を終えると、みんな昼間の勇者とのことが関係しているのか、すぐに眠りに着いた。
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