第31話 勇者との邂逅

「楓殿、次のダンジョンまでどのくらいかかるのでしょうか?」

「えっとー7日くらい?」

「そんなに遠いの?」

「遠いんだよ」


楓、有咲、ソフィア、レイナの4人は、次のダンジョンに向かっていた。


「なんじゃ~。お主ら、まだ着かぬのか?」

「なんだよソフィア。今更、文句あんのかー?」

「文句は無いのじゃが…。食料とかは大丈夫であるのか?」

「「はっ!」」

「楓殿?それに有咲殿もどうかなさいましたか?」

「有咲!!冷蔵庫を調べろ!!」

「うん!!」


有咲は、大急ぎで冷蔵庫の中を見に行く。


「楓!!」

「あったか!?」

「何も無いよ!!」

「何も!?」

「うん!!何も!!」


キャンピングカーに積んでいる冷蔵庫の中には、何も入っていなかった…。


「マジかぁ。ダンジョンに行く前に、買いだめしておくか。有咲、近くに町はあるか?」

「ちょっと待ってね。今、地図見るから」


有咲は、地図を開き、近くに町がないか調べる。


「んー。このまま南に10㎞ってとこかな」

「そこまで遠い感じではなさそうだな」

「そうだね」

「行き先は決まったようじゃな」

「そうみたいですね」

「それで、町の名前はホプハールって言うんだって」


4人は、食料を買うため、ホプハールという町に向かう。








「ここがホプハールか」

「思ったより活気のある町だね」

「ふむ。アルヴァンには劣るが物もたくさん売ってるみたいじゃ」

「人が多いですね」


4人は、ホプハールに辿り着き、食料の買出しに向かう。


「とりあえず食料を買ってと…」

「ねぇ楓。なんか騒がしくない?」


買い物を済ませ、車に戻ろうとするが、有咲が町の異変に気付いた。


「ソフィアが何かやらかしたか?」

「妾ならここにおるぞい」

「じゃあレイナか?」

「私もここに」

「じゃあ俺たちは関係ないな」


ソフィアとレイナが何かやらかして騒ぎになっているとなれば、問題があったのだが、そうでないなら楓たちには関係のない話だった。


『勇者様だ!!』

『本当だ!!』

『勇者様~!!』


「「勇者???」」

「くっ…」

「ソフィア様…」


町が騒がしいのは、勇者がこの町に来ているからであった。

楓と有咲は、勇者というものがどんな存在かあまり知らない為、リアクションはいまいちだった。

しかし、ソフィアとレイナは違う。

目の前で、勇者に家族を殺されているのだ。


「ソフィア、レイナ。今すぐ車に戻るぞ」

「…分かったのじゃ」

「はい…」

「楓の言う通りだね。帰ろっか」


4人は、車に戻るため、町の外を目指す。

しかし、それは叶わなかった。


「ねぇそこの人たち。見ない顔だね。冒険者かい?」


金髪で青い鎧を着た男がが話しかけてきたのだ。


「「(あっ、無視しよ)」」


楓と有咲は、その足を止めることなく歩みを進める。

それに続いてソフィアとレイナは、付いて行く。


「ちょっと勇者様が話しかけてるのよ!!立ち止まりなさいよ!!」


どうやら金髪の青い鎧を着た男は、勇者のようだ。

その勇者の仲間であろうローブを着た女が4人を呼び止める。


「何か御用でしょうか、勇者様」

「私たちは先を急いでいるので申し訳ございません」


楓と有咲は、会話をさっさと切り上げようとする。


「いや、見ない顔だったんでね。気になっただけさ」

「はぁ…」

「何この人…」


楓と有咲は、勇者のノリに着いて行けなかった。


「それで君たちは何者なんだい?」


勇者は爽やかな笑顔を楓と有咲に向ける。


「「(何この痛い人…)」」

「妾たちは冒険者なのじゃ」

「そうですよ」


楓と有咲が勇者に対して引いている間に、ソフィアとレイナが返事をしていた。


「やはりそうだったのか。3人とも美人さんだね。そんな女性たちを侍らせて全く羨ましいよ」

「「うわぁ…」」

「2人とも声に出ておるのじゃ」

「口に出ちゃってます」

「「えっ?」」


あまりに勇者が痛すぎて、楓と有咲は声に出てしまうほど引いていた。


「ねぇちょっと!!勇者を前にして失礼過ぎない!?」

「まあ落ち着いて。俺は大丈夫だからさ」


ローブを着た女を勇者は宥める。


「あの…もう帰って良いですか?」

「本当に私たち急いでいるんで」


楓と有咲は、この場を立ち去ろうとする。


「待ってくれ。君たちもダンジョン攻略をやっているんだろ?」

「何の話でしょうか?」

「君たちの装備を見たところ冒険者の割には、身軽すぎる。そして俺は、実は鑑定が使えてね。君たちのステータスを見させてもらったよ」

「そういうのって勝手に見てはいけないと思うんだが、勇者様は気にしないんだな」

「それはすまなかったね。でも、君たちのステータスは、その辺の冒険者よりも凌駕している。そんな人たちを見過ごすわけにはいかなくてね」

「それで結局何が言いたいんだ?」


楓は、高圧的に勇者に問う。


「俺のパーティーに入ってくれないか?」

「へぇ…」

「もちろん報酬は払う。基本的に報酬は山分けにしようと考えているんだが、どうだろう?」


勇者は、楓たちをパーティーに引き入れようとする。


「…」


楓は、有咲やソフィア、レイナの顔を見る。

有咲は、楓に任せるような感じだった。

しかし、ソフィアとレイナは、今にもこの勇者を殺しかねなかった。


「なぁ勇者。質問があるんだが良いか?」

「良いよ。なんでも答えるよ」

「そうか。じゃあお前は、魔物を見つけたら自分から攻撃する人間か?」

「もちろんだよ」

「そうか」


勇者は、楓の質問に対して顔色一つ変えずに答える。


「じゃあその魔物には家族が居たとしよう。その家族を守っているだけだとしても…殺すか?」

「ああ。それが魔物であれば殺すよ」

「そうか…」


楓は、勇者を見つめ何かを悟ったような表情をしていた。


「有咲、ソフィア、レイナ。帰るぞ」

「う、うん!」

「うむ…」

「はい…」


4人は、再び歩みを進める。


「ちょっと待ちなさいよ!!勇者様がパーティーに誘っているのよ!!」

「うるせえよ…」

「っ…!!」


楓は、ローブを着た女を睨みつける。


「1つだけ言っておく。俺は、強い奴とは仲間にならない。そして守るものも無いような奴にはな」

「待ってくれ。俺にだって守りたいものはある」

「ほぅ。それは何だ?」

「ここに住むような人たちや帰るべき場所を守っているんだ」

「へぇ…。じゃあその思いは魔物には向けられないのか?」

「さっきから君は魔物の味方をするようだが、何か理由があるのかい?」

「ああ、あるね。そして俺には、勇者を殺す理由もある」


楓は、勇者を殺すと言い放った。


「何よあんた!!」

「よせ」

「でも!!」

「もし良ければ、殺す理由を教えてくれるかい?」

「そうだな。俺の仲間の家族を殺したからかな」

「そうか。それはすまなかった」


勇者は、頭を下げる。


「何をやっているの勇者様!!」

「君の仲間の家族を殺したとしたら、俺が悪い」

「でも!!」


勇者は、頭を下げ続ける。

それを見ていた楓は、口を開く。


「なぁ。何か勘違いしてないか?」

「何を言っているんだ…?」

「俺は謝れなんて言ってないだろ」

「だが…」

「俺はお前を殺す理由があるって言ってんだ」

「楓」


有咲が楓の名前を呼ぶ。


「もう帰ろ。お肉が腐っちゃう」

「…そうだな」

「じゃあほらっ。こっちの荷物持って」

「分かった」


楓は有咲が持っていた荷物を受け取り、町の外へと向おうとする。


「ちょっと待ちなさいよ!!」

「ねぇ。私の旦那に何か文句でもあるの?」

「あるわよ!!」

「そう…。でもあなたは、私に感謝しても良いくらいだよ」

「何を!!」

「だって…あの人本当に殺そうとしていたんだから」

「っ…!」


こうして4人は、勇者と別れ、ホプハールを後にする。

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