第29話 正当防衛と過剰防衛

「着いたな」

「うん」

「じゃな」

ポヨンッ…。


アルヴァンを出発して三日。

ようやく次なるダンジョンへとたどり着いた。


「武器は…アサルトライフルじゃなくてマスケット銃も持っていくか」

「あくまで念のためよね…?」

「ああ。ダンジョンの主を倒す時くらいで良いだろ」

「秘密兵器という事にしましょ」

「あいよ」


楓は、いつものアサルトライフルをキャンピングカーに置いていき、スナイパーライフルとマスケット銃を持っていく。

有咲は、ショットガンとグレネードランチャーのいつもの装備だ。

拳銃はサブウェポンとして常に装備している。


「じゃあ行くぞー」

「はーい」

「うむ」

ポヨンッ…。


楓、有咲、ソフィア、レイナ一行は、ダンジョンに潜入する。


「さてこのダンジョンには、どんな魔物が居るんだろうな」

「スケルトンが確実に居るんでしょうけど…」

「前のダンジョンの様に奥に行くにつれて強くなるかもしれぬ。気をつけるのじゃ」

「あいよ」

「そうだね」


楓たちは、奥へと進む。


「出たな」

「スケルトンが何体かいるね」

「さっさと片付けるのじゃ」

ポヨンッ…。


楓たちの前に現れたのは、複数体のスケルトンだった。

スケルトンたちは、楓たちを見つけるや否や攻撃を始める。


「全く…」

「困ったものね」

「全くじゃ」

ポヨンッ…。


楓と有咲の基本的な方針として、絶対に自分達から攻撃はしない。

攻撃をされたら徹底的にやり返すというのが、彼らの信条なのだ。


バンッ!!

ズドンッ!!

スパッ!!

ドンッ!!


楓がスナイパーライフルで狙撃をし、有咲がショットガンでスケルトンの頭蓋を破壊し、ソフィアは二本の刀でスケルトンを切り伏せ、レイナが範囲攻撃の魔法でまとめて吹き飛ばしていた。


「片付いたな」

「私たちのレベルって上がらないよね?。でもはるかに前より敵を倒す時間が早くなってる気がするんだけど」

「それはあれじゃろ。効率的な戦い方が実戦で分かって来ておるってことじゃろ」

「そうだな。俺と有咲は、これ以上レベルが上がらない。つまりステータスもあがらないんだ。だけど、身につくのはないわけではない。ソフィアの言う通り、どうやったら敵を早く倒せるかが何となく分かって来てるって事だ」


楓と有咲のレベルはカンストしているため、これ以上のステータスは変化することはない。

しかし、実戦での経験は確かに身につく。

魔物の動きを知り、自分がどう動くべきかっていうのは自ずと分かってくる。

それが、楓と有咲を強くしている。


「ふーん。何か無意識に動いてたけど。楓の邪魔をしないように、私は動いてるよ」

「そうだったのか」

「気付いていなかったの!?」

「分かるか」

「えぇ~」

「まあ俺の邪魔にならないように気を遣ってくれているとしたら…」


楓は、有咲に近づき頭を撫でる。


「ありがとうな有咲」

「…初めて頭撫でられたかも」

「そうだっけ?」

「だって付き合っている時ですらボディタッチは無かったじゃない!!」

「恥ずかしいですからね」

「だから毎回私から手を繋いだり」

「はい」

「抱き着いたり」

「はい」

「…初めてだって」

「そ、そうでしたね」

「何じゃ?初めてすら有咲殿から言い寄ったのか?楓殿は、もう少し女心を理解した方が良いようじゃな」

「返す言葉もありません」


楓は、有咲とソフィアに頭を下げる。


「お主ら、痴話喧嘩は後のようじゃ」

「「痴話喧嘩じゃない!!」」

「はいはい。分かっておるのじゃ。ほれ、魔物が迫ってきたようじゃ」

「「は?」」


楓たちの前に、再び魔物の群れがやって来た。


「面倒くさいな」

「そうだね」

「全くじゃ」

ポヨンッ…。


楓たちは、武器を構え迎撃の体勢に入る。


「じゃあやるか」

「うん」

「うむ」

ポヨンッ…。












「あぁ疲れた」

「そうだねぇ」

「じゃな」

ポヨンッ…。


敵を殲滅し、かなり奥まで進んで来た。

ここまでの道中に襲って来た魔物は、全て一撃で葬られた。


「前回のダンジョンと比べるとレベルとか装備とかは大したことないな」

「あの時は、鎧なんて着てたもんね」

「確かにあれは不思議じゃったのう」


今回のダンジョンでは、スケルトンは確かに居るのだが、鎧や盾を持って武装しているという事は無かった。


「ダンジョンによって装備のグレードが違うとかあるのか?」

「分かんないねぇ」

「基本的に強い魔物が誰かの下につくというのは、生物として基本じゃからのう。じゃから、あのグリムリーパーが強かったからこそスケルトンも武装した奴がおったのじゃろう」

「なるほどなぁ」

「どの生物も強いものに従うものなんだね」

「生存本能じゃな」


楓たちは、さらにダンジョンの奥深くへと進む。






「このダンジョンは、なんか湿度が高いというか何というか…」

「そうだね…。じめじめする…」

「確かに肌にべた付く感じが嫌じゃのう」

ポヨンッ…。

「レイナが心なしか大きくなってないか…?」

「言われてみればそうかも…?」

「湿度が高いからじゃのう」

「スライムってそんな機能があるのか」

「レイナさん、大丈夫?」

ポヨンッ…。

「身体が重いそうじゃ」

「まあそうだよなぁ」

「私が抱えようか?」

「いや、妾が抱えるから有咲殿は、楓殿のサポートを頼めるかのう」

「うん」


ソフィアがレイナを抱える。


「むっ、レイナ。お主油断しておるな?」

「ん?どうかしたのか?」

「ま、まさか…」

「ちょっとお腹周りが大きくなってきたのではないか?」

「いや、水分を吸ったせいだろ?」

「何ですって!!」

「いや、有咲。何をそんなにショックを受けているんだ」

「だって重くなったって事でしょ!?。女の子にとって一大事だよ!!」

「あっそう…」


水分を吸ったせいで、レイナは少し重くなっていたようだ。


ペタペタ…。


「はぁ…。また魔物か」

「なにあれ?キモいんだけど…」

「ふむ、サハギンじゃな」

「「サハギン?」」


楓たちの前に現れた魔物は、三叉の槍をもった半魚人の魔物だった。


「サハギンってあれだよな。スライムやドラゴンほどでは無いが、ファンタジーものでは、ポピュラーな方だよな」

「確かに、物語として出てきた直後はしぶといけど、後々は雑魚モンスターの仲間入りする魔物よね」

「妾は、戦った事無いがそうなのじゃろうな」


『グァァァァ!!』


一匹にサハギンが叫ぶと次々と別のサハギンがやって来た。


「仲間を呼ばれたな」

「見つけた瞬間にやるべきだったかな?」

「効率を考えるとそうじゃが、お主らはそれをしないのじゃろ?」

「「もちろん」」

「正当防衛を主張するんでね」

「過剰防衛だけど」


楓たちは、銃を構える。


「さて、狩られる側はどちらかな?」


『グァァァァ!!』


一匹のサハギンが叫ぶと他のサハギンもそれに応えるように攻撃してきた。


「ちっ!距離を詰められると厄介だな!!」


楓は、スナイパーライフルから拳銃に持ち替え、サハギンに向け発砲する。


「確かにそうかもね!!」


有咲は、ショットガンを使い、サハギンを吹っ飛ばす。


「すまぬレイナ!!降ろすぞい!!」


ソフィアは、抱えていたレイナを安全な所に下ろし、刀を引き抜く。


バンッ!!


「ソフィア!!そっちは大丈夫か!?」


スパッ!!


「こっちは無事じゃ!!」


ズドンッ!!


「生臭い!!」


ドンッ!!


ポヨンッ!!


「次々、湧いてくるなぁ」

「本当ねぇ」

「お主らからもらった刀が汚れるのは、本当は嫌なのじゃが…」

ポヨンッ…。

「はぁ…。本当はやりたくなかったが…」

「まさか…」

「やるのじゃな…?」

ポヨンッ…。


何かを察した有咲とソフィア、そしてレイナは楓の背後に隠れる。


「じゃあ行くぞー」


楓は、マスケット銃を構え、サハギンの群れの方に銃口を向ける。


「えいっ」


ドゥシューン!!


マスケット銃から放たれたビームは、サハギンを跡形もなく消し飛ばした。


「こんなもんか…」

「「うわぁ(なのじゃ)」」

ポヨンッ…。

「よしっ、もういいや。進むぞ」

「ねぇ楓。なんか面倒くさくなってない?」

「面倒くさいのは最初からだ」

「この銃で全て終わらせようとしてない?」

「そそそ、そんな訳ないですよー」

「…そんなあからさまな動揺ある?」

「まあ、この武器は今回みたいにキリが無い時に使うのもありという方向で…」

「それなら良いけど…」


ビームが撃てるマスケット銃の使い道を改める楓だった。

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