第20話 噂

「じゃあ私たちは、アルヴァンに帰るね」

「そうか。寂しいが、また機会があれば来てくれ」

「うん!!また来るね!!」


有咲たちは、ダンジョンを攻略後の2日間をローズの宿で過ごしていた。


「あとは、私たちが冒険者ギルドを通してこの町の復興支援をするから!」

「ああ、頼む」

「任せて!!」


ロックスには魔物襲撃の際に、ローズ以外の住民は避難しているため誰も居なかった。

しかし、原因となっていたダンジョン攻略を有咲たちが遂げたので、もう魔物に襲われる心配はなくなっていた。

ロックスの復興は、冒険者ギルドを通じて冒険者への依頼として受領される。

なので、ロックス復興は時間の問題だ。


「おーい有咲。行くぞー」

「うん!!。じゃあローズさんまたね」

「ああ」


有咲は、ローズに別れを告げ、楓たちと共にアルヴァンへ帰る。







「久々の家だぁ」

「やっぱ家が一番だねぇ」

「そうじゃのぅ」

ポヨンッ…。


楓たちは、冒険者ギルドで今回の依頼の報告を済ませ家へと帰る。

皆は、家に帰り着き、ベッドやソファに倒れこむ。


「もうしばらくダンジョン攻略は嫌だな…」

「燃え尽き症候群が凄いね」

「確かに妾もしばらくは遠慮したいのぅ」

ポヨンッ…。


3人と1匹は、ダンジョンを攻略したが、かなりやる気を失っていた。


「やっぱりパーカーは落ち着くなぁ」

「そうだねぇ」

「妾もそのパーカーとやらを着てみたいのじゃが」

「パーカーなら俺も有咲のでもどっちでも良いか」

「パーカーなら大丈夫かな」


有咲は、クローゼットからパーカーを取り出す。


「じゃあこれ!」


有咲がソフィアに渡したのは、黒の猫耳パーカーだった。


「助かるのぅ」


ソフィアは来ていた浴衣からパーカーに着替える。


「ど、どうじゃ?」

「可愛い!!」

「良いんじゃないか」

「そ、そうかのぅ」


ソフィアは、有咲のパーカーがかなり気に入った様子だった。


「ほほぅ」

「ふふっ、気に入ってもらえて良かった」

「うむ、お主たちには、感謝しかないのぅ」

「気にするなよ」

「楓の言う通りだよ!!」

「それでも感謝なのじゃ」









「そういえば有咲。食料ってまだあったっけ?」

「あーそういえば無いかも」

「じゃあ買いに行くか」

「そうだね」

「それじゃあ妾とレイナは留守番しておるぞ」

「ああ」

「お願いね!」


楓と有咲は、街に買出しへ向かった。


「今日の夕食は何にしようかなぁ」

「そうだなぁ」

「何か食べたいのある?」

「俺は…そうだなぁ、最近肉料理が続いたから、魚介類食べたいな」

「じゃあ魚料理でもしよっか」

「おう」


2人は、食料を買い込み、家へと帰る。

しかし、道中でとある噂を耳にする。


「「幽霊…?」」


街では、幽霊の話で持ち切りだった。

内容は、ある商人がアルヴァンに来る際に立ち寄った町に幽霊が現れたというものだった。


「この世界で幽霊は当たり前じゃないのか…?」

「どうなんだろうね…」

「今更、幽霊なんてなぁ」

「幽霊よりも魔物の方が怖い気がするけど」

「というか俺たちも幽霊みたいなもんだろ」

「まあ考えようによってはそうだよね」

「それに、面倒事は自分から首を突っ込むことじゃないだろ」

「そうだね」


2人は、そんな噂を気にする事も無く、帰路に就いた。








「ただいま~」

「ただいま」

「おかえりなのじゃ~」

ポヨンッ…。


楓と有咲が家に帰ると、ソフィアとレイナが出迎えた。


「お風呂は洗っておいたのじゃ」

ポヨンッ…。

「ありがとう」

「ソフィアさんにレイナさんありがとうね」

「うむっ」

ポヨンッ…!!


レイナは綺麗好きなので、掃除を積極的に行っており、ソフィアはその手伝いをしている。


「じゃあそろそろ晩御飯の準備でも始めるか」

「そうだね」

「おお~。楽しみなのじゃ」

ポヨンッ…!!


この家では、家事は分担制となっている。

基本的に、料理をするのは楓と有咲の2人。

掃除は、ソフィアとレイナが行っているのだ。


「それにしても、この家の設備は便利じゃのう。特に、洗濯機とか言ったか?あれはとても便利じゃな」

「まあファンタジー世界において、洗濯機は不思議だよなぁ」

「確かにそうだね」


この家には、基本的な家電は揃っており、どういう原理かは分からないが電気も通っているのだ。

そのため、冷蔵庫や電子レンジ、洗濯機やエアコンも完備なのだ。


「というかこの家の外の、草原は洗濯物干すのに向いているから良いよな」

「そういえば、雨はあんまり降らないね」

「言われてみるとそうじゃのう」

「まっ、気にする事でもないか」

「うん!」

「じゃな」


このような他愛ない話をしながら、晩御飯の準備をすすめる。











「ふぅ~。ごちそうさまじゃ」

「うん!」

「お粗末様でした」

ポヨンッ…。


夕食を済ませ、後片付けをする。


「あっ、そういえばソフィアさん」

「む?どうしたのじゃ?」

「この世界で幽霊って居るの?」


有咲は、街で聞いた噂を思い出し、ソフィアに幽霊の存在を尋ねる。


「幽霊じゃと?」

「うん。さっき街で話題になってたから」

「うむ。そうじゃったか。それで幽霊じゃったな」

「うん」

「結論から言うと、居る。しかし、それはダンジョンの魔物としてじゃな」

「って事は…?」

「町や人里には居ないのじゃ」

「なるほどね」

「だとしたら、アルヴァンで聞いた話は、面倒事な気配がするな」

「そうだね」

「明日、冒険者ギルドに行くと何か分かるのではないか?」

「だな」

「じゃあ明日、冒険者ギルドに行こっか」


明日は、冒険者ギルドに行き、情報を集めることにした。


「そうと決まれば、今日は早めに休もうっか」

「ああ」

「じゃな」

「じゃあ、私先にお風呂に入って来るね」

「行ってらっしゃい」

「うむ」


有咲は、お風呂に向かった。


「幽霊か…」

「楓殿は、あんまり乗り気じゃないのか?」

「うーん…。面倒事は避けたいんだよなぁ」

「なるほどのぅ」

「幽霊ってどんな奴なんだ?」

「そうじゃなぁ。一概には言えないのじゃが、人に危害を加えるような悪霊はもちろん存在するし、特に何もせず、この世に残っている浮遊霊もいる。後は、生きている者を守る守護霊というやつじゃな。守護霊に関しては、かなりレアじゃがな」

「守護霊も居るんだな」

「うむ。まあこうして噂になっているのは、悪霊や浮遊霊じゃろう」

「それは、俺や有咲の居た世界と同じか…」

「なんじゃ?お主らの世界にも幽霊は居ったのか?」

「まあ居たというか、話のネタ程度だな」

「そうじゃったか」

「でも、どうしてダンジョンにしか居ないはずの幽霊が、こうして話題になっているだろうな」

「それを明日聞くのじゃろ」

「まあそっか」


楓は、話題の幽霊について考えるも明日、冒険者ギルドに行って聞いてから考えることにした。


「考えるのも面倒だし、一息つくか。ソフィア、紅茶飲むか?」

「頂こうかのぅ」


楓は、お湯を沸かし紅茶を淹れる。


「ほい」

「うむ」

「レイナもいるか?」

ポヨンッ。

「欲しいみたいじゃ」

「あいよ」


楓は、ソフィアとレイナに紅茶を淹れる。


「はい、レイナ。熱いから気をつけるんだぞ」

ポヨンッ。


楓は、ソフィアやレイナと過ごして来て、分かったことがあった。

まずは、人間の料理を食べる事が出来る事。

次に、食べ物の好き嫌いがある事。

そして、飲み物も人間と同じものを飲むことが出来るという事だ。


「不思議な生き物だよなぁ」

「妾からしたら、異世界転生したお主らの方が不思議じゃ」

「それもそうか」

「というかお主らは夫婦なのじゃろ?」

「そうだけど」

「夫婦の営みはしなくて良いのか?」

「ぶふっ!!」

「やり方を知らないわけじゃないじゃろ?」

「あのなぁ、あんまり俺から言う事でも無いかもしれないけど、転生前は普通に夫婦だったし、この世界に来てからも何度かはやってるから」

「何とっ!!そうじゃったか」

「ああ」

「でも、妾たちがこの家に住み始めてからはやっておらぬのではないか?」

「まあそうだけども」

「楓殿も溜まっておるのではないか?」

「下世話なドラゴンだなっ!!」

「それに有咲殿の方も溜まっておるのではないかのぅ」

「とは言ってもなぁ」

「なあに。妾だって空気は読める。ベッドが軋む音やお主らの淫らな声を聞いたとしても聞こえないふりくらいしてやるぞい」

「マジで余計なお世話だなっ!!」


今の月詠家には、ベッドは、キングサイズのベッド一つしかない。

基本的にはベッドに、楓と有咲が一緒に寝ており、ソフィアとレイナは、ソファーにて寝ている。

そして、部屋が沢山あるわけでもなく、基本的にワンルームなのだ。

そこに、隠し部屋として武器庫があったりする。

つまり、ベッドが置いてある部屋とソファが置いてある部屋というのは同じなのだ。


「まあそれは、有咲殿と話すと良い」

「はぁ…」

「上がったよー!!」

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