第19話 馴れ初め
「ふふふ~ん」
「機嫌良さそうだな」
「そうみたいじゃな」
ポヨンッ…。
「だって、指輪だよ!」
「指輪だな」
「左手の薬指だよ!!」
「左手の薬指だな」
「結婚指輪だよ!!」
「まあそうなったな」
「この世界に来て、着けてなかったから落ち着かなかったの!!」
「それは申し訳ない」
ダンジョンの主であったトロールを倒した後、その部屋にあった宝箱を開けるとペアリングが入っていた。
その指輪を楓と有咲は、左薬指に着けたのだった。
すると、特に有咲がなのだが、機嫌がとても良かった。
「じゃあ機嫌が良いついでにロックスまでの運転は頼むな」
「嫌」
「えぇ…」
「と言いたいけど、いつも任せてるから今日くらいは良いよ」
「おっ、マジか」
「うん!!」
「妾は、どちらでも良いのじゃ~」
ポヨンッ…。
ロックスまでの運転は、有咲がすることになった。
「じゃあ行くよー!!」
「おう」
「うむ」
ポヨンッ…。
皆、車に乗り込み、有咲がハンドルを握る。
「出発~!!」
有咲は、アクセルを踏む。
「…安全運転で行くよ」
「分かってるから」
「本当に苦手なのじゃな」
有咲は、未だにこの世界での運転に慣れておらず、安全の時速60kmだった。
「ただいま!!」
「ほ、本当に無事に帰って来たんだな!?」
「うん!!」
ロックスの宿に戻るとローズが出迎えてくれた。
「良かった…」
「うん!もうこの町は大丈夫だからね」
「ああ、本当にありがとう」
有咲は、ローズを抱きしめる。
「うん。もうローズさんとローズさんが好きだった人のこの店は安全だよ」
「ぐすっ…本当にありがとう…」
「それでねローズさん」
「ぐすっ…なんだ…?」
「シャワー浴びても良い?」
ダンジョンから帰って来たばかりなので、ゴブリンやオーク、トロールの返り血がついてしまっているので、早く洗い流したいと思う一同だった。
「はぁ…。疲れたぁ」
「そうだね…」
「ふかふかベッドなのじゃ~」
ポヨンッ…。
全員シャワーを浴び、部屋で休んでいた。
コンコンコン
3人と1匹が泊まっている部屋をノックする音が聞こえる。
「はーい!!」
ガチャ
「失礼する」
「あっローズさん!!」
「どうかしたのか?」
「改めて礼を言おうと思ってな」
「全然良いのに!!」
「有咲の言う通りだ。俺たちは仕事でやったんだ」
「そうは言っても。私にとっては、この町とこの宿を守ってくれただけで嬉しいんだ」
「そっか」
「まぁ感謝の気持ちは受け取るよ」
「ああ。そうしてくれると助かる。本当にありがとう」
ローズは、自分と自分が愛した人の店を守ってくれた感謝の意を表して頭を下げる。
「ローズさん頭をあげて」
「あ、ああ」
「もうお礼とかは良いからさ、約束のお話しよ」
「約束の話って…」
「ローズさんの話だよ!!」
「わ、私のか!?」
「うん!!」
有咲は、ダンジョンに行く前にローズと約束をしていたのだ。
帰ったらローズの話をしよう…と。
「じゃあ俺は、外の空気でも吸ってくるわ」
「うん。行ってらっしゃい」
楓は、空気を読んで部屋を出て行った。
ここからの話は、自分が聞くべきでないと思い、退室した。
「ん?良いのか?」
「良いの良いの!!」
「その話は、妾も聞いて良いのか?」
「んー。ローズさんはそれでもいい?」
「あ、ああ。私は構わないが…」
「じゃあガールズトークをしよー!!」
こうして、有咲、ローズ、ソフィア、そしてレイナの女性たちによるガールズトークが始まった。
「それでさ、ローズさんの好きな人の馴れ初めとか聞いてもいい?」
「私のか?」
「うん!」
「私か…。そうだな…。あいつとは、この町で出会ったのだ。私はダークエルフであいつは人間。種族も違うし、あいつは15歳の子どもだった」
「うんうん」
「だが、私はあいつの無垢で純粋なところに惹かれていった。私のために花束を作ったり、私のためにご飯も作ったりもしていたな」
「花束かぁ良いなぁ」
「まあ私のほうは、特にキッカケがあるわけではなかったからな。気付いたらあいつの事を好きになっていたんだ」
「そっかぁ。そういうのもありだね」
「それで、いつしか付き合うようになり、この店を作ったんだ」
「その人が建てたって言ってたもんね」
「ああ。あいつと私で共同経営って話だったからな。一緒に店を回して来たんだ」
「いい話だね」
「そして、魔物の襲撃があって今のこの町の様子だ」
「そっか…」
「だからお前たちには、私だけでなくあいつの夢を守ってくれた事に感謝しかないのだ」
「ローズさんたちの夢を守ることができて私も良かった」
有咲たちは、ローズの話を聞き、改めてこの宿を守ることができた。
夢を守ることができた。
それだけで、有咲は、嬉しく思えた。
「そういえばだが、お前とあの男はどういった関係なのだ?」
「ふぇ?」
「私ばかり話しても面白くないだろう。だから少し聞きたくなった」
ローズは、有咲を問い詰める。
「楓はね、私の旦那さんだよ」
「そうだったんだな」
「うん」
「そういえばじゃが、お主らの出会いはいつなのじゃ?」
今まで、静かにしていたソフィアが有咲に問う。
「そうだなぁ。まず話すには、ローズさんに私と楓の境遇を話さないとね」
「ん?どういうことだ?」
「私と楓はね、実は異世界転生してるの」
「ほう」
「異世界転生した経緯は、ソフィアさんにも言ってないよね?」
「うむ。そうじゃな。お主らは、この世界とは別の世界から転生したことは聞いておるがのう」
ソフィアには、有咲と楓が異世界転生していることは言っているが、どうして転生したかは言っていないのだ。
「私と楓はね、一度死んでいるの。火事に巻き込まれてね」
「っ…」
「そうじゃったのか…」
「うん。あの時、私は目の前で死んでいく楓を見て、私も死んだの。そして、目が覚めたらこの世界にいた」
あの時の火事で、楓が先に息を引き取り、それを追いかけるように有咲も息を引き取った。
「まあ、異世界転生した経緯はこんな感じだけど、楓とはね大学っていうとこで出会ったの」
「大学…?」
「それは何なのじゃ?」
「うーんとね…。この世界に学校ってある?。何か勉強したりする場所みたいなの」
「それならあるぞ」
「妾はダンジョン住まいだからな。あんまり分からんぞい」
「うーん。そっかぁ。まあその学校でね楓と初めて会ったの」
有咲は、楓との出会いを思い出す。
大学一年生。
「えっと…。ゼミ室はここかな…?」
大学に入学し、初めてのゼミ活動。
まずは、ゼミ生との顔合わせだ。
ガチャ…。
「こ、こんにちは…」
有咲は、恐る恐るゼミ室に入る。
「ど、どうも」
ゼミ室に居たのは、後の夫である月詠楓だった。
「それが楓殿との出会いなのじゃな」
「まだ出会いだけな気もするけど…」
「ふふっ、まだまだこんなもんじゃないよ。それで、私があの人を好きになった出来事がね‥‥」
「ボランティアですか?」
「はい、ボランティア活動で子ども食堂をやります」
有咲や楓たちが所属するゼミ室の教授がゼミ生に向け告げる。
「いつやるんすか?」
「来月の土曜です」
楓は教授に日程を尋ねる。
「来月って2週間後じゃないすか」
「そうですね。予定が合う人たちはなるべく参加してください」
教授は、ボランティア活動に積極的な人であるため、学外での活動がゼミ活動として主に行われている。
「面倒だなぁ」
「そうだね」
楓が面倒くさそうに机に突っ伏している所を、有咲が話しかける。
「何か予定でも入れるかぁ」
「そんな事通用すると思ってるの?」
「思って無いなぁ」
「でしょ」
「仕方ないか」
「仕方ないよ」
「はぁ…。子どもの相手かぁ…面倒だなぁ」
「月詠君は、子どもとか苦手?」
「苦手苦手。生意気なガキは嫌いだよ~」
「あはは…」
2週間後、ボランティア活動の当日。
「じゃあ3つの班に分けます。1班は、子供たちとレクリエーションをして遊びます。2班は、午後のバザーの準備、3班は、昼食を作る3つに分けます」
教授の説明を受け、班分けを行われた。
「俺は3班か」
「よろしくね月詠君」
「夜桜さんか。よろしく」
有咲と楓の2人が3班となった。
「月詠君って料理できるの?」
「まあ一人暮らししてるからな。というか、このゼミ生のほとんどは一人暮らしだろ」
「確かにそうかも」
「じゃあ作るか」
「えっと、カレーだっけ」
「みたいだな」
2人は、カレーの調理に取り掛かる。
トントントン…。
「(月詠君、手際良いなぁ)」
有咲は、楓の料理の手際の良さに驚いていた。
「ん?夜桜さん?どうかした?」
「い、いや何も!!」
「ん?そう?」
「うん!!」
「包丁の切れ味が悪いとかか?それなら俺のと交換しても良いよ」
「い、いや!だ、大丈夫」
「そっか」
「うん」
有咲が楓を見つめていたのを気付かれてしまった。
「まあ何にせよ怪我しないようにな」
「うん」
「その一件があってから私は楓に惹かれていったかな」
「そうなのか」
「なるほどのぅ」
「あとは、私から告白して付き合い始めたかな。プロポーズは、24の時に私からしたよ」
「有咲殿から言ったのじゃなぁ」
「なるほど」
有咲と楓の馴れ初めから、結婚に至るまでの話をローズとソフィア、そしてレイナに全て話したのだった。
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