第15話 ダークエルフ

「着いたぞ」

「すやぁ…」

「すぴぃなのじゃ~」

「はぁ…」



アルヴァンを出発し、およそ3時間。

地図が無いので、アルヴァンから東に100キロと言っても、正確な位置までは分からない。

なので、車をつらつら走らせて3時間かかってしまった。

その間、楓以外の女性陣は寝ていた。


「おーい有咲。起きろー」

「んぅ…パンナコッタ…」

「どんな夢を見ているんだ。ソフィアも起きろ」

「んん…ミノタウロスのビーフシチューなのじゃぁ…」

「煮込んでも堅そうだな。というか揃いも揃って食べ物の夢って…」

ポヨン…。


楓は、有咲とソフィアを起こしていると、レイナが目を覚ました。


「おはよう、レイナ。よく眠れたか?」

ポヨンッ…。


楓がレイナに話しかけると、返事をするようにレイナは飛び跳ねる。


「眠れたっぽいな。ごめんけど、レイナはソフィアを起こしてくれるか?俺は、有咲を起こすから」

ポヨンッ…。

「頼むぞ」


楓は、有咲を揺すって起こす。

レイナは、ソフィアの膝の上に乗り、その上で飛んで起こしていた。






「んはぁ…。着いたの?」

「おはよう有咲。もう着いたぞ」

「そっかそれでここは…?」

「メリッサが言っていたロックスって町だよ」

「あぁ~ここが」

「そうだぞ。とりあえず宿でも探しに行くぞ。車中泊は身体が痛くなるからな。ちゃんとベッドで休むぞ」

「はーい」

「という訳で、ソフィアもさっさと起きろ!!」

「はっ!!妾は何を!?」

「何をって…。今まで寝てたんだぞ。なぁレイナ」

ポヨンポヨンッ…。

「そうじゃったか。それはすまぬ」

「良いよ。ほら宿を探しに行くから車から降りるぞ。このまま町に入るのは目立つからな」

「はーい」

「うむ」


3人と1匹は、車から降り、車を魔法陣の中に収納する。


「これぞ本当のスマートキー」

「有咲は、毎回それを言わないと気が済まないのか」


楓たちは、新たな町ロックスに足を踏み入れる。



「メリッサの話では、近くのダンジョンから魔物があふれ出して町を襲ってるって話だったよな?」

「そうだね」

「うむ」

「なるほどな。じゃあ町に誰も居ないのは避難しているからか?」

「どうだろうね。この町はまだ襲われてなさそうだけど」

「魔物の気配も無いようじゃ」

「まぁ宿を探すか」

「そうね」

「うむ」


町の静けさを感じ取りながらも、拠点となる宿を探す。








「ここか?」

「そうっぽいよ」

「入ってみようかのう」


3人は、宿に入る。


「すみませーん。誰か居るかー?」


楓が受付で店員を呼ぶ。


「客か?」

「あんたはこの宿のオーナーか?」

「そうだ」


受付の奥から現れたのは褐色の肌の女性だった。


「「(ダークエルフだ!!)」」


この宿はダークエルフが経営していた。


「それで泊まる部屋を頼みたいのじゃが」

「良いけど、このまま泊っても死ぬぞ?」

「それは魔物が襲いに来るって言いたいのか?」

「なんだ、知っているのか。その通りだよ」


楓の質問に淡々と答えるダークエルフの店主。


「俺たちは、それの解決も兼ねてこの町に来たんだ」

「ふっ、そうか。でもまぁご苦労なことだが、この町はもう守るほどの場所ではない。お前らも見ただろ?この町には人はもう居ない。みんな逃げたからな」


この町の人たちは、みんなすでに逃げているようだ。


「じゃあどうしてあなたは、まだ残っているの?」

「何となくだ。逃げたところで行く当てもないからな」

「そうなんだ…」

「まあとりあえず部屋を頼む。金は出す」

「そうか。一部屋で良いのか?」

「どうする?」

「私は良いよ」

「妾も構わぬ」

「じゃあ一部屋頼む」

「分かった」









「さてと作戦会議でもするか」

「そうだね」

「そうじゃな」


陽はもうだいぶ沈み、外はうす暗くなっていた。

夕食を済ませた3人と1匹は、ホテルの一室で作戦会議を始める。

今まで鞄の中に居たレイナもベッドの上に居る。


「人はもうあの店主さんしか居ないが、仕事だ。ちゃんと最後までやるぞ」

「うん!そうだね!!」

「妾もそれでよいぞ」

「よし、じゃあこの町を守るためにダンジョンに乗り込むぞ」

「やっぱりそうなるよね。魔物がそこから現れているしね」

「でもおかしいのじゃ。本来、ダンジョンに生息する魔物は、外には出て来れないのじゃ」

「そうなのか?」

「うむ。それに各ダンジョンには、主がいて、その主がダンジョン内の魔物を統率しておるのじゃ。じゃが、今回の依頼ではダンジョンから魔物があふれ出し、町を襲っている。つまり、何らかの力が働いているとしか考えられないのじゃ」


ソフィアは、元ダンジョンの主であり、レイナはその部下だ。

ダンジョンの事は、楓や有咲より何倍も詳しい。

そんなソフィアが今回の件は異常というほど何かが起きている。


「じゃあその謎を解くにはダンジョンに乗り込むしかないってわけね」

「有咲の言う通りだ。何にせよダンジョン攻略が解決の最短の道だ」

「そうじゃな。ではいつ乗り込むのじゃ?」

「明日の朝だ」

「今すぐじゃないの?」

「今日は、もうじき日が暮れるからな。それにいつ魔物がこの町を襲いに来るか分かんないから、ここを離れるわけにはいかないだろ」

「そういう事ね」

「楓殿の考えにも一理あるのう。では、妾は明日に備えて寝るとするのじゃ」

「おう」

「うん、おやすみソフィアさん」

「おやすみなのじゃ~」


ソフィアは、ベッドに横たわり眠りにつく。

レイナもソフィアに寄り添うように眠る。


「有咲はどうする?」

「私はもう少し起きていようかな」

「そっか」

「楓は、先に寝てても大丈夫だよ。もし魔物がこの町を襲いに来たら、叩き起こすから」

「そうかぁ、じゃあ頼む」

「うん!おやすみ楓」

「おやすみ有咲」


楓は、もう一つのベッドにて眠りにつく。


「さてと、ちょっと外の空気でも吸ってこようかな」


有咲は、部屋を出てロビーに向かう。








「あの~店主さん。居ますか?」

「なんだ?」

「急にごめんなさい。ちょっとお話を聞きたくて」


有咲は、ホテルの店主であるダークエルフに話を聞きに来ていた。


「構わんが、何を聞きたいんだ?」

「このホテルについて教えて欲しいな。店主さんがこのホテルを建てたの?」

「私ではない。この店は、私の友人が作ったものだ」

「そうなの?」

「ああ。この店は、そいつが経営していてな。小さい頃からの夢だったらしい」

「すごいね」

「ふっ。ああ、私も凄いと思ったさ。何て言ったって好きな人と一緒に経営したいって言っててな」

「そっか。その友達ってどんな人なの?」

「何にでも興味を抱いて、騒々しい奴だったよ。でも、良い奴だった。あいつはただの人間だったが、私がダークエルフだろうと関係なく接してくれる。そんな奴だったよ」

「あなたは、その人が好きだったのね」

「なっ…!!いや、そうだな。好きだったんだろうな。失って気付いたよ…。私はあいつが好きだ、なのにどうして…」

「うん。好きな人を失う苦しみは私も分かるよ。目の前で失った辛さ。もう私には耐えられないから」

「ああああああ!!」

「今は泣いて良いよ」


有咲は、好きな人を失ってしまったダークエルフの悲しみを受け止める。

そっと優しく抱きしめ、涙を受け止める。


「よしよし」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」






「ぐすっ、すまない。客に変な姿を見せてしまった」

「良いよ良いよ。私は、恋する者の味方だから」

「ふっ。そうか。なんかあいつに似ているな」

「私に?」

「ああ、私が泣いた時はそうして抱きしめてくれたのだ」

「そうだったんだ」

「ああ、あんたのような可愛いやつでな。夜はあいつが可愛く啼くのだ」

「ん?もしかしてだけど、その好きな人って女性?」

「そうだぞ」

「あっ、そうだったんだ」

「ああ」


有咲は、冷静を保つも内心は驚きだった。


「(女の子同士か…。なるほど…。)」


有咲は、一瞬考える。


「(まあアリか!!)」

「どうしたんだ?」

「う、ううん!なんでもないよ」

「ん?そうか」


その後も2人は、話で盛り上がるが、いつまでもという訳にはいかなかった。


「っ!?」


ダークエルフの店主は、何かを察知し立ち上がる。


「どうしたの?」

「魔物だ…」

「えっ!?」

「魔物が再びこの町に来た!!」


2人は、急いで店の外に出る。

そこで目にしたのは、魔物の群れがこの町ロックスに迫ってきている光景だった。


「おい!お前らは早くこの町から逃げろ!!」

「ごめんね。私たちはそうはいかないの。それに、私もこの宿を守らせて」

「何を…」


有咲は、急いで自分たちが泊る部屋に戻り、みんなを叩き起こす。


「楓!!起きて!!魔物が襲いに来たよ!!」

「んっ…。敵か」

「うん!!」

「分かった」

「ソフィアさんも起きて!!」

「んん…何じゃ?」

「魔物だよ!!」

「ん、そうか」


寝ていた楓とソフィアは起き上がり、ソフィアがレイナを抱え宿の外に出る。


「なるほど、確かに魔物の群れだな」

「ざっと3万っていったところじゃな」

「結構居るね」

「お前ら、あの群れを倒すというのか…?」

「まあな」

「そうじゃな」

「それが私たちの仕事なの」

「無理だ…」


ダークエルフの店主は、逃げるように促すが、楓たちは全く気にしない。


「眠いからさっさと終わらせるぞ」

「そうじゃな」

「うん!!」


3人と1匹は、町の外に出る。

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