第14話 竜と浴衣

「そういえば前から気になっていることがあるのじゃが」

「ん?どうしたのソフィアさん」


ソフィアはある疑問を抱いていた。


「お主らの服は、アルヴァンでは見慣れないものじゃが…。どこで売っておるのじゃ?」

「へ?」


現在の有咲の服装は、猫耳パーカーにショートパンツを着ていた。


「実は、私も分からないんだよね。この服もだけど、あそこのクローゼットに入っているのは元からこの家にあったものなのよね」

「ふむ。そうじゃったか」


有咲とソフィアは家のリビングにて寛いでおり、レイナもソファに座っていた。

楓は、買出しに行っており、不在だ。


「ソフィアさんも何か着てみる?」

「良いのか?」

「うん!!」






「の、のう有咲殿。ちょっとばかしキツくはないかのぅ」

「えっ!?そ、そうなの!!」

「ちょっと胸が苦しいのぅ」

「な、何ですって…」


ソフィアは、有咲の服を試着するもサイズが合わなかった。


「じゃ、じゃあこれ!!」

「これは何じゃ…?」

「これは浴衣って言うんだよー」

「ふむ。着てみても良いか?」

「うん!!」


有咲は、黒い浴衣をソフィアに着せる。


「白い髪と白い肌が映えるね!!。良い!!」

「これじゃと妾も着れるのぅ」

「今までは、ソフィアさんが自分の魔法で生み出したものを着てたけど、これなら魔力を使わなくても良いね」

「じゃな」


こうしてソフィアの服は浴衣を着ることになった。






「ただいま~」

「お帰り楓」

「楓殿、お帰りなのじゃ」

「…花火大会にでも行くの?」


楓が買い物から帰ると、家では有咲とソフィアは浴衣を着ていた。

何故、有咲も着ているのかというと、ソフィアが着ているのを見たら自分も着たくなったという理由だった。


「それで、楓。感想は?」

「綺麗ですね」

「おお~。楓が素直だ~」

「楓殿は、もう少し有咲殿に素直になった方が良いのではないか?」

「うっ…」


楓は、この世界に来てからは以前より素直になったのだが、それでもまだ慣れないようであった。


「良いよソフィアさん。楓は、こういう人だから。これだから私も好きになったからね」

「ほほう。そうじゃったか。それは過ぎた真似をしてしまったわい」

「か、肩身が狭い…」












「楓殿。今日はどうするのじゃ?」

「今日は…どうしよう…」

「何も決まってないなら何か依頼でも受けない?」

「おおそれは良いのう」

「依頼かぁ。何かあったかな」

「まずは行ってみようよ」

「そうじゃな!!」


3人は、冒険者ギルドに足を運ぶ。

レイナは、ソフィアが持つ鞄に入れることにした。


「じゃあ楓も着替えてね」

「は?」

「私たちだけ浴衣っておかしくない?」

「い、いや俺はこれで…」

「着替えて」

「俺は…」

「着替えろ」

「はい…」


楓は、シャツの上にジャケットを羽織るという格好だったが、有咲により浴衣に着替えさせられるのだった。








「有咲さんに楓さん。お久しぶりです」

「メリッサ!!」

「どうも」


冒険者ギルドに行くと、エルフの受付嬢メリッサが声をかけてきた。


「それで、そちらのお方は…?」

「私と楓の仲間のスフィアさんよ」

「スフィアじゃ」

「そうだったのですね!!。それで今日はスフィアさんの冒険者登録をしにこちらにやって来たんですか?」

「ああそうね。ねぇ楓」

「ん?」

「スフィアさんも冒険者登録した方が良いよね?」

「そうだなぁ。またダンジョンに行くときは、このブレスレットが必要なんだろ?。じゃあしても良いんじゃないか?」

「そうだね。じゃあメリッサ、スフィアさんの冒険者登録もお願いします」

「かしこまりました」


スフィアも楓や有咲と同じように冒険者登録を進める。


「にしても、ここは相変わらずだなぁ」

「そうだね」


2人は冒険者ギルドの中を見渡す。

その光景には、初めて来た時と同様、冒険者同士の乱闘をする者だったり、それを囃し立てる者だったり依頼書を見つめる者など様々だ。


「というか乱闘してる理由は何なんだ?」

「さぁ?メリッサ、どうしてあの人たちは喧嘩してるの?」

「ああ。あれですか。あれは冒険者として相応しい者か確かめる儀礼のようなものです」

「というと?」

「はい。冒険者という人達は有咲さんや楓さんのような人なら良いのですが、野蛮な方だったりも居るので、一種の防犯ですね」

「じゃああの人たちって、別に仲が悪いわけではないの?」

「はい。むしろ彼らは同じパーティーに所属していますよ」

「そうなんだ」

「すごいね」


どうやらこのギルドで行われている乱闘騒ぎはわざと起こしているようだった。


「お主ら終わったぞい」

「おお。終わったか」

「そういえば、どんな魔力の形をしてたの?

「えっと…そのじゃな…」

「ん?」

「ソフィアさん?」


ソフィアは言いよどむ。


「…ドラゴンが映ったのじゃ」

「なるほど」

「そうだったんだ」

「ドラゴンじゃぞ!!。私の恥ずかしいところがあんなところまで!!」

「あっうん…」

「そ、そうだね」


ソフィアは、自分の姿を客観的に見るのは恥ずかしいようだ。


「そういえば、有咲さん達にお願いがあるのですが…」

「メリッサが私たちに?」

「はい…」


メリッサは深刻な顔で話を続ける。


「実は、あるダンジョンから魔物があふれ出し、周囲の町を襲っているようなのです」

「なるほど」

「そんなことがあったのね」

「それで、妾たちは魔物を殲滅すれば良いのじゃな?」

「はい。報酬は支払いますので、是非お願いします」

「…」

「メリッサ、ごめんけど、ちょっと考えさせてもらえる?」

「はい。構いません」

「うん。ありがとう」


3人は、メリッサから少し離れたところで話をする。


「2人とも、妾やレイナの事は気にしなくてもよいぞ」

「良いのか?」

「本当に?」

「もちろんじゃ。むしろ、ダンジョンから魔物があふれ出しているのは問題じゃ。ダンジョンの主でもあった妾からしたら深刻じゃぞ」

「そうだったのか」

「ソフィアさんが言うなら良いんだけど…」

「お主らが気にする事じゃないぞい。妾は、あの日からお主らと共に戦うと決めておるからのぅ」

「そっか」

「うむ」

「じゃあ依頼を受けるぞ」

「うん」

「私も構わんぞ」


3人は、メリッサのもとに戻り、依頼を受ける。


「では、その問題のダンジョンは、この街アルヴァンから東におよそ100キロ先にあります。そしてその付近にある町ロックスに立ち寄ると良いでしょう」

「そうか」

「ありがとうメリッサ」

「ふむ」

「いえ、それではご武運を」


3人は、メリッサに見送られ冒険者ギルドを後にする。










「というか100キロって歩いたらどのくらいかかんだよ…」

「もう歩きじゃないから良いじゃない」

「そうじゃよ楓殿」


3人と1匹は車に乗り、目的のダンジョンへと向かっている。


「それにこの車は、本当に俺たちの世界にあったものと似ているよな」

「そうね。エアコンも付いてるし、それにドリンクホルダーもあるなんてね」

「ふむ。お主らの世界には便利なものがあるのじゃな」

「まあ魔法も便利だとは思うけどな」

「そうね。でも…この車のウィンカーってこの世界で何の意味があるの?」

「ウィンカー…?」

「ウィンカーってのは、まあこの車がどっち曲がりますよーってのを周囲に教えるものだな」

「ふむ、そういうものじゃったか」

「そうだね。でもこの世界で意味あるのかな?」

「さぁ?。この世界に道路交通法なんてあるなんて知らないし」

「ふふっ。そうだね」


2人は、この世界にありもしない道路交通法の話をする。


「そもそもこの世界に法律なんてあるのか?」

「流石に窃盗とか殺人みたいな刑事罰に問われるようなことは罪になるんじゃない?」

「妾は、ダンジョン暮らしが長いからのう。そんなルールは分からないわい」

「それもそうか」

「だね」

「うむ」


3人と1匹はドライブを続ける。


「そういえば、レイナは大人しいな」

「確かに、寝てるのかな?」

「ふっ。みたいじゃ」


レイナは、ソフィアと共に後部座席に座っており、寝ているようだった。


「まあまだまだ時間はかかるだろうし、寝てて良いだろ」

「じゃあお休み」

「うむ妾も寝るとしよう」

「待って!!誰か起きてて!!俺の話し相手になってよ!!」

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