第10話 白き竜と最後の部下
『なんじゃお主ら…?』
「っ!?」
「今の声ってどこから…」
2人は、どこからか聞こえる声の主を探す。
『こっちじゃ…』
「まさか…」
「ね、ねぇ楓…。もしかしてあのドラゴンじゃない…?」
『お主ら何用じゃ…?』
「やっぱりあのドラゴンだよ」
「みたいだな」
2人は、声の主であろうドラゴンの方を見る。
この部屋はうす暗くはっきりとは確認できないが、形だけはなんとか把握できていた。
体長は、およそ5メートルほどであろう。
「な、なぁお前はドラゴンっていう事で良いんだよな?」
『そうじゃ…』
「ドラゴンさんは、他の魔物と違って話せるの?」
『この通りじゃな…』
2人はドラゴンに話を聞く。
「それであんたは、このダンジョンの主か何かなのか?」
『いかにも…。しかし、もう妾は主と呼べるほどの力も残って無いがな…』
「何があったの…?」
『…その前に妾から質問をさせてくれないか?』
ドラゴンは、弱弱しい声で2人に質問をする。
『お主らは、何ゆえこのダンジョンに来たのじゃ?』
「俺たちは、ダンジョンがどんなものか見に来ただけだぞ」
「うん」
『そうじゃったか…』
ドラゴンはどこか納得した様子だった。
「それで一体このダンジョンで何があったんだ?」
「魔物もこのスライムしか居ないようだけど…」
『うむ…。実はこのダンジョンは、とうの昔に攻略されておる』
「そうだったのか」
「じゃあ他の魔物が居ないのは…」
『昔、勇者とかいう頭のおかしい奴が魔物を虐殺していったのだ…』
「…勇者って居たのか」
「しかも頭のおかしいって…」
このダンジョンは、すでに攻略されていた。
それも勇者の手によって。
「じゃあこのダンジョンの魔物は…」
『妾とこのスライムだけじゃ』
「そうなのか…」
「ってことは、やっぱりこのスライムは守っていたのね…」
『そうじゃ。こやつは妾をずっと匿っていたのじゃ…』
「匿う?」
『このダンジョンには魔法が施されておったじゃろ…』
「魔法って…。あれか?一本道を延々と歩かされるというやつか」
「やっぱりあれって魔法だったんだ」
2人は、ここまでの道中を思い出す。
歩いても歩いても先の見えない一本道。
あれは、どうやら魔法の力によるものだったようだ。
『あの魔法は、このスライムが施していたのじゃよ…』
「なに?」
「この子が…?」
2人に向かって突進してきたスライムは、ドラゴンを守るためにダンジョンに魔法を施し、さらには足止めもしていたのだ。
『それでお主らは、もはや戦う事もできないドラゴンとこのスライムを殺すのか…?』
「楓…」
「なぁ一つ聞いて良いか?」
『何じゃ…?』
「どうしてあんたは、そんなに弱っているんだ?」
「そういえば…」
2人がここに来た時には、すでにドラゴンは弱っていた。
『呪いじゃよ…。勇者のくせに陰気なものを使われてのぅ』
「呪いか…」
「ドラゴンさんは、悪者なの?」
『それはお主ら次第じゃな…』
「まあそうだよな」
「ドラゴンさんは、このダンジョンの外には出た事あるの?」
『妾が生まれた時には、もうこのダンジョンだったからのぅ…。外の世界なんて見た事もないわい…』
このドラゴンは、ダンジョンを守るために生まれてきたようなものだった。
そのため、ダンジョンの外なんて当然見た事も無かった。
「楓…」
「なんだ?」
「このドラゴンを治してあげられないかな?」
「本気か?」
「うん」
有咲は、このドラゴンの治療を願い出る。
「はぁ…」
「だめかな…?」
「分かった」
「本当に?」
「ああ」
楓は、ドラゴンに歩み寄る。
『何じゃ…?』
ポヨン…。
楓がドラゴンに近づこうとすると、スライムは再び突進を始める。
「スライムさん。ちょっとごめんね」
有咲は、楓に突進をするスライムを抱える。
「まずは…。鑑定」
楓は、ドラゴンのステータスを見る為、鑑定をする。
『白竜Lv.200 状態異常、呪い』
「お前白竜だったのか?」
「そうだったの?」
『そうじゃが…。お主ら気付いておらんかったのか…』
2人が居るこの部屋は暗がりではっきりと色までは、ドラゴンの姿を把握していなかった。
「まあ何でもいいか…。じゃあやるぞ」
『何をじゃ…?』
「あんたを治す」
『な、何を言っておるのじゃ…?』
「俺の奥様があんたを治療したいって」
『だから何を…』
楓は、白いドラゴンに向けて手をかざす。
『こ、これは…』
白いドラゴンは光に包まれる。
『な、何が起きておる…』
ムニュムニュ…。
有咲に抱えられているスライムは、開放されようと暴れる。
「大丈夫だよスライムさん。私たちを信じて」
有咲は、スライムに優しく説得する。
「ふぅ…。こんなもんか?」
「終わったの?」
「多分」
「ドラゴンさん、体調はいかがですか?」
有咲は、ドラゴンに問いかける。
『あ、ああ。呪いが解けておるが…。どうやって…』
「初めてやったけど上手くいったな」
「みたいだね」
楓によるドラゴンの解呪は成功した。
ポヨン…。
スライムはドラゴンのもとにまで急ぐ。
『何じゃ?妾の心配をしてくれるのか?』
スライムがドラゴンにすり寄る。
『妾は、この通りじゃ。お主には心配をかけたのぅ』
ポヨン…。
スライムは、自分の主が回復したことを喜ぶように飛び跳ねる。
「さて帰るか」
「ねぇドラゴンさん。それにスライムさん。あなた達はこれからどうするの?」
『妾たちは…』
白きドラゴンは思考する。
この先、どのように生きていくか。
最早、このダンジョンはダンジョンとして機能しておらず、魔物も自分とスライムだけなのだ。
「もしドラゴンさん達が良ければ、私たちと一緒に来ない?」
「は?」
『は?』
ポヨン…。
有咲の提案に、ついて行けない楓。
さらには、ドラゴンやスライムさえも何を言っているのか理解できていない様子だった。
「いやだから、一緒に来ないかなぁなんて」
「そうは言ってもなぁ…」
『妾は、このスライムを守らなければならぬ。この最後の部下を…』
「じゃあさ、私たちも一緒に守らせてよ。ねっ!楓良いでしょ…?」
「…はぁ。分かった」
「やった!!じゃあ行きましょ!!」
『良いのか…?妾は、魔物だぞ』
「でも私たちを攻撃しないでしょ?」
『でも…』
「はぁ…。なぁあんた名前は何て言うんだ?」
『妾か…?。妾の名前は、ソフィアじゃ』
「じゃあソフィア。後は、お前が決めろ。こればっかりは無理やり連れて来ても仕方ないからな」
楓は、白き竜ソフィアに選択を委ねる。
『…分かった。じゃあ妾とこのスライム共々頼む』
「そうか」
「やった!じゃあソフィアさんこれからよろしくね!!。私は、有咲って名前でこっちは私の旦那の楓ね」
『有咲に楓か。分かった』
「さて、じゃあ帰るとするか」
「そうだね」
こうして楓と有咲の初めてのダンジョン攻略は終わった。
「というかソフィア。その姿でこのダンジョンから出れるのか?」
「確かに、その大きさじゃ出れないよね…」
『うむ。そうじゃな。ではこうしよう』
「ん?」
「ふぇ?」
ソフィアの身体は白い光に包まれる。
『こんなものか」
「「え、えぇ!?」」
「どうしたのじゃ…?」
白い光に包まれたソフィアは、ドラゴンの姿から人間の姿に変化した。
白き髪にエメラルドグリーンの瞳。
そんな姿をした女性に変化した。
「そ、そんな事が出来るのか…?」
「本当にファンタジーだね…」
「妾クラスだとこのくらいできて当然じゃ」
「そ、そうなんだ」
「不思議だね」
「そうかのぅ」
ソフィアは、スライムを抱える。
「そういえば、そのスライムさんにも名前はあるの?」
「こやつか?。こやつは、レイナじゃ」
「もしかして女の子なの?」
「スライムに性別なんてあるのか?」
「そうじゃぞ。こやつは、部下というより娘に近いからのう」
「なるほど」
ソフィアは、スライムのレイナを優しく撫でる。
「じゃあソフィアさんにレイナさん。これからよろしくね」
「妾からもよろしく頼む」
「というか、ここからまた歩いて帰るのか…」
「そういえばそうだね」
「ん?お主らの住処まで遠いのか…?」
3人?と1匹は、ダンジョンを後にし、帰路に就く。
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