第9話 ダンジョン
「はぁはぁ…」
「あぁ!!しんど…」
「はぁはぁ…。そうだね…」
2人は、アルヴァンからダンジョンを目指して歩みを進めている。
「どれくらい歩いたかなぁ」
「2時間くらいか?」
「う、運動不足は良くないね…」
「車通勤に慣れ過ぎてたな…」
2人とも転生前は、特に運動もしておらず、会社までの通勤も車だった。
そのため、体力の少なさが今顕著になって現れている。
「というかレーシングスーツ着て歩きって…」
「仕方ないじゃない。バイクなんて無いんだし」
「せっかくのスーツだからバイクとか乗りたかったけどなぁ」
「ちなみに楓が持ってる免許は?」
「普通自動車第一種免許」
「つまり?」
「バイクは50cc以下の原付だな」
「その恰好で原付に?」
「それもそれで恥ずかしいな」
「でしょ」
転生前の世界では、バイクに乗ってみたいとは思いつつも乗る機会はないだろうと思い免許は自動車のみであった。
「有咲も免許は自動車だけだよな?」
「もちろん」
「じゃあ車がこの世界にあればなぁ」
「本当だよね。装甲車とかあれば便利なのだろうけど」
「装甲車って普通車免許でも大丈夫だっけ?」
「さぁ?確かキャタピラのものは無理だけど、タイヤなら良いんじゃない?あとは重量次第じゃない?」
「それもそっか」
転生前の世界の免許事情を話しながら歩みを進める。
「この世界の移動手段って他に何か無いのか…?」
「馬とか?」
「馬なんてこの世界で見てないぞ」
「ペガサスとか?」
「もっと見た事無いし、そんな伝説の生き物を乗り物にするな」
「じゃあユニコーン」
「あんまり変わんないだろ」
「翼があるかないかは結構大きな違いでしょ」
「そうだけども…」
「でも、確かに歩きは不便すぎるよね」
「だろ?。他に何か無いものか…」
「ねぇあれ見て」
「何だ?」
「あれってダンジョンじゃない?」
有咲が指さす先には大きな遺跡のようなものがあった。
「やっと見えて来たね」
「いや、見えたのは良いんだが…」
「うん」
「いやあれ何キロ先だ!!」
ダンジョンまでの距離、残り8キロ。
「あぁ…」
「やっと着いたね…」
「休みたい…」
「そうだね…」
2人はダンジョンの前に着いたものの、体力の限界を迎えていた。
「これは誰も、ダンジョン攻略とかやらないよなぁ」
「そうね…」
「そういえば、冒険者の証のこのブレスレットが無いとダンジョンに入れないんだよな…?」
「確かにそんなこと言ってたね」
「でも誰がそれを調べるんだ?」
「…さあ?」
「俺はてっきり門番みたいな人が居ると思ってたけど、誰もいないな」
「何かセンサーがあったりして!!。ほらよく本屋とかにある万引き防止のセンサーみたいなやつ!!」
「あの会計前に出ようとしたらブザーなるやつね」
「そう!!。それ!!」
「いや流石にそれは無いだろ」
「フリなの?」
「そんなわけ…」
2人は、体力を回復した後、ダンジョンに潜入する。
「ブザー鳴らなかったね」
「そのセンサーがあったとしても、ブレスレットを付けてるから警報とかならないんじゃ…?」
「それもそっか」
「おう」
ダンジョンの入り口を通り過ぎ、先に進む。
「なんか凄いね」
「雰囲気あるなぁ」
「魔物も居るよね?」
「魔物のいないダンジョンなんてダンジョンじゃないだろ」
「確かに」
「ほら噂をすればだ」
「本当だ」
2人の前に魔物が現れる。
「「スライムだ!!」」
2人の目の前に現れたのはスライムだった。
「ねぇ!楓!!。これってあのスライムだよね!!」
「ああ間違いない!!。こいつはあのスライムだぞ!!」
「だよね!!日本においては国民的なあのモンスターだよね!!」
「ああ!!。さらには近年の日本においては、実はスライムが強かったりしてスポットが当たるようなあのスライムだぞ!!」
2人が大騒ぎする中、スライムが2人に突進する。
ポヨン…。
「えっ…」
「な、なんだ…?」
スライムの突進は、楓に当たったのだがダメージは無かった。
「俺は今、攻撃されたのか…?」
「わ、分かんない…」
ポヨン…。
スライムはもう一度、楓に突進する。
「ど、どうしよう…」
「そ、そうね…」
多少の煩わしさはあるものの、ダメージは全くない。
「倒すか…?」
「何か可哀そうじゃない…?」
2人がどうしようか悩んでいる間もスライムの攻撃は止まない。
ポヨン…ポヨン…ポヨン…。
「無視して進むか」
「無益な殺生は避けようか」
「だな」
ポヨン…ポヨン…ポヨン…。
2人はスライムの攻撃?を受けつつ先に進む。
「というか魔物少なくない?」
ポヨン…。
「そうか?」
ポヨン…。
「だってこのスライムしか現れてないよ」
「確かに…」
ポヨン…。
2人がダンジョンに潜入し、およそ30分ほどが経過した。
ここまでの道は一本道なのだが、魔物は最初に出くわしたスライムしか居なかった。
そしてその間、スライムは休むことなく突進を続ける。
「何か訳ありかもな」
「そうなのかな」
「うーん。スライムって知性あるのかな…」
「どうして?」
「だって知性があるなら、こうして突進を続けないだろ」
「分からないよー。逆に、この先に何かあってそれを守るために一匹で戦ってるかも」
「だとしたら、勇敢なスライムだ」
「そんなスライムは嫌い?」
「いや。むしろ好きだね」
「ふふっ。楓ってそういう所あるよね」
「そういう所?」
「うん。諦めない人の味方というか蔑ろにしないというか」
「んー。あんまり意識はしたことないけど、まぁ仮にこいつに知能があって守りたいものがあるのなら、俺はどうもしない」
「そっか」
「ああ」
ポヨン…。
「というかこのダンジョンってどれだけ広いんだ?」
「一本道で入り組んでないのにね」
「何かの魔法だったりして」
「だとしたらどうする?このダンジョンごと吹き飛ばすか?」
「怒られない?」
「分からん」
「壁に穴とか開けてみる?」
「器物損壊の罪に問われないか?」
「分かんない」
「まあでも、ダンジョンって戦闘とか起きるだろ。今もスライムに攻撃?されてるし」
「じゃあやってみよっか」
「おう」
有咲は、持って来たグレネードランチャーを壁に向ける。
「もう少し奥を狙わないと危ないんじゃないか?」
「そう?この辺?」
「まあそのくらいか?」
「うーんじゃあ…。このくらいかな」
有咲は、照準を定める。
「じゃあ行っくよー!!」
ズドンッ!!
放たれたグレネードは、壁に着弾し、爆発した。
「どう?壊れた?」
「煙でよく見えん」
「どうかな~」
煙が落ち着くまで、待ち続ける。
その間スライムは、爆風で吹き飛ばされるも、再び楓に突進する。
ポヨン…。
「楓!!。壁が崩れているよ!!」
「そうみたいだな。だけど、その先になにがあるんだ?」
「えっと…何か空洞というかこれは部屋…かな?」
崩れた壁の先には、開けた空間が存在していた。
「お宝でもあんのか…?」
「どうだろうね…」
ポヨンッ…。
2人は、崩れた壁の先に現れた部屋に足を踏み入れる。
「ね、ねぇ楓…。あれ…」
「なんだ?」
有咲が、部屋の奥の方に何かあるのを気付き指を指す。
その先には…。
「ドラゴン…?」
「みたいだね…」
2人が目にしたのは、弱り切ったドラゴンだった。
ポヨン…ポヨン…。
すると、スライムが2人とドラゴンの間に入る。
「もしかしてこのスライム…」
「このドラゴンを守ってたの…?。たった一匹で…?」
スライムは、ドラゴンの前から動く様子はない。
「このダンジョンで何があったんだ…。ここに来るまでに、魔物はこのスライムしか居なかった…」
「それに、ダンジョンには一本道で先が見えなかったよね…」
「宝がある様子もないし、この冒険者の証であるブレスレットを持つ意味もあまり感じられなかった」
2人は、ここまでの道程を思い出し、状況を整理する。
そして、導き出された答え。
それは…。
「つまりここって…。ダンジョンのなれの果てだったりするのかな…」
「かもしれない」
『なんじゃお主ら…?』
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