第8話 実戦

『グァァァァ!!』


「「ぎゃぁぁぁ!!」」


2人の前には、体長3メートル越えのクマ型の魔物だった。


「有咲!」

「何!?」

「逃げるぞ!!」

「うん!!」


2人は、薬草の入れた箱を持ち、来た道を全速力で引き返す。


「怖い!!」

「逃げ切れると思うか!?」

「無理でしょ!!」


楓と有咲は、全力で走るも背後から魔物が追ってくる。


「じゃあ仕方ない!!」

「楓っ!?」


楓は、アサルトライフルを構え振り返る。


「鑑定」


『ワイルドグリズリー。Lv.30』


「あのイノシシよりもレベルはかなり上だな…」

「楓!!」


『グァァァァッ!!』


ワイルドグリズリーが楓に向かって腕を振るう。


「危なっ」


楓は、間一髪ワイルドグリズリーの攻撃を避ける。


「反撃だ」


楓は、狙いを定めアサルトライフルの引き金を引く。


ズドドドドドッ…!!


無数の赤い弾道がワイルドグリズリーを襲う。


『ガァ…』


バタンッ!!


「ふぅ…。怖かった…」

「危ない!!」

「えっ?」


『ガァァァァァ!!』


「(やべっ…)」


楓が倒したワイルドグリズリーとは別のワイルドグリズリーが楓を襲いかかろうとしていた。


「楓っ!!」


有咲は、持って来たショットガンをワイルドグリズリーに向け引き金を引く。


ズドンッ!!


『…』


バタンッ!!


楓に襲いかかろうとしていたワイルドグリズリーの頭は、爆散していた。


「はぁはぁ…。楓大丈夫!?」

「えっと…」


何が起きたか理解できない楓は、有咲の方を見る。

そして、そこにはショットガンを構えた有咲が立って居た。


「ああ。有咲、ありがとう」

「もう油断しないで!!」

「ああ…。今のはマジで死を覚悟したわ…」


もう一体のワイルドグリズリーは、有咲が倒したようだった。


「奥さんに心配をかける旦那さんはよろしくないと思います!!」

「そ、そうだな」

「ほらっ!さっさとこの森を出よ。また襲われるかもしれないし…」

「ああ」


有咲は、左手で楓の手を握り、右手で薬草の入った籠を抱える。


「有咲」

「なに?」

「すまない」

「私は謝罪の言葉が聞きたいんじゃありません」

「そうか…」

「うん」


機嫌を悪くした有咲は、楓の手を引き、森を出る。


「帰ったら説教だから」

「ちょっとそれは勘弁して欲しいな…」

「は?」

「えぇ…」


それから冒険者ギルドまでの帰り道は終始無言だった。


「薬草ですね。確かに受け取りました。こちらは依頼完了の報酬です」

「ありがとう」

「ありがとうございます」


エルフの受付嬢から報酬を受け取り、2人は家に戻る。


「楓」

「な、何でしょうか?」


家に帰った2人は、重々しい空気だった。


「正座」

「はい…」


楓は、有咲の言葉に従う。


「それで私が何に怒っているか分かる?」

「えっと…油断したことでしょうか?」

「それもある」

「もってことは…他にも?」

「まずは、あの魔物が現れた時、一人で立ち向かったでしょ」

「いや、あれは倒さないと逃げ切れないと思ったから」

「そうだね。それは私も倒すしかないと思ったよ」

「じゃあ…」

「でもあの時の楓は、自分一人で倒そうとしたでしょ」

「それは、あんまり意識してなかったです」

「つまり無意識に一人でどうにかしようと思ったわけね」

「まあ…そうなります…」

「へー」

「あの…。それが有咲が怒ってらっしゃる原因でしょうか…?」

「は?」

「えぇ…」

「あのね。私が言いたいのは、一人だけどうにかしようとしたことが許せないの。私たち夫婦でしょ?それにせっかく異世界転生して第二の人生を送るんだから、勝手に死ぬような真似はしないでよ」

「ああ…」

「例え、チート能力があったとしても自分を傷つける様な真似はお互いしないこと!!。良いね!!」

「分かった」


有咲の怒りを素直に受け入れる。


「全く…。呪いの指輪でも買おうかしら」

「どんなものか分からないものを買おうとするなよ…」


こうして、異世界転生して初めての夫婦喧嘩となった。








初めての依頼から一週間後…。


「楓、そろそろダンジョンに行ってみない?」

「依頼もそこそこクリアしたし良いかもな」

「うん。魔物もかなり倒したから、もう良いんじゃない?」


2人は、この一週間大量の依頼をこなしていた。

ある日は、ゴブリンの討伐。ある日は、オークの討伐。さらにある日は、ワイバーンも討伐していた。


「どの魔物も一撃だったけどな…」

「まあね」


そう、この一週間は魔物を大量に倒してきた。

それも一撃で。


「レベルを上げるための経験値は稼げないけど、実戦の経験は積んだからなぁ」

「そうだね~。私たちのこの服の丈夫さも知る事も出来たし」

「ああ…。あの時のやつね…」


実は、ワイバーン討伐の際に、炎のブレスを放たれ、楓は有咲を庇うために身代わりになっていた。

しかし、ダメージはほとんどなく、服にも一切のダメージはなかった。

その際も、楓はこっぴどく有咲に怒られていた。


「それで今日あたり行かない?」

「有咲から誘うなんて珍しいな」

「もうだいぶこの世界にも慣れてきたし、ダンジョンに興味もあるから行ってみたいななんて」

「なるほど」

「うん。それでどうする?」

「良いぞ。行ってみるか」

「うん!」


こうして2人は、ダンジョン攻略を目指す。


「そういえば、回復魔法って私たち使えるの?」

「さぁ…?」

「確か、水とか火とかは念じれば魔法陣みたいなのが手のひらに現れて魔法が使えたよね?」


有咲は、この世界に来て初日に使った魔法を思い出す。


「確かにそんな感じだったな」

「じゃあ回復を念じればできるのかな」

「やってみるか」

「うん」


2人は、回復魔法を使おうとする。


「えいっ!」

「ふぬっ!」


すると、2人の手のひらに魔法陣が現れる。

そして、2人の身体は、光に包まれる。


「つ、使えてるの…?」

「分からん…」


光が2人を包むも、何か変化が起きた様子はなかった。


「そもそも私たち怪我してないから、回復してるかも分からないよね」

「確かに」

「そうだなぁ。じゃあなるべく怪我をしないように戦おう」

「そうだな。怪我をしないに越したことはないからな。もう怒られたくもないし」

「怪我をしたくない動機が気に食わないけど、仕方ない」

「という事で準備が出来次第ダンジョンに行くぞ」

「はーい!!」


ダンジョン攻略のため、2人は武器の準備をする。


「というか有咲。ダンジョンの場所知ってるのか?」

「ふふふ。その辺は準備万端なのだ!!」

「って事は…?」

「もちろん聞いてきたよ!!」

「いつの間に…」

「楓が依頼書を見てる時にメリッサから聞いたよ」

「メリッサ…?」

「冒険者ギルドのエルフの受付嬢さんだよ!」

「あの人メリッサって言うんだ」

「うん!!」


有咲は、楓が知らぬ間にエルフの受付嬢から名前を聞いていたのだ。


「という訳で場所の方は大丈夫だよ!!」

「そっか」

「うん!」

「じゃあしっかりと準備していくか」

「そうだね。それで武器はどうするの?」

「ダンジョンの中がどうなってるか分からないからなぁ」

「だねー。私もどうしよっかな~」


有咲は、銃を物色する。


「ショットガンも持っていこうかなぁ。あっグレネードランチャーも持って行こ」

「こ、高火力だなぁ…」


有咲は、破壊力のある武器が好みのようで、この二つはお気に入りのようだ。


「じゃあ俺は、アサルトライフルとスナイパーライフルだな」

「狙撃とか私には絶対に無理…」


楓の方は、近距離でも戦えるようにアサルトライフルと遠距離での狙撃が得意なため、スナイパーライフルを装備する。


「よしっ!!私の方は準備OKだよ!」

「そうみたいだな」

「うん!!」


ちなみに今回の二人の服装は、バイク用のレーシングスーツである。


「それでその場所まではどうやって行くんだ?」

「歩いて行ける距離らしいから。歩いてかな」

「この格好でか…」

「うん!」


今日の服装は、有咲のチョイスである。

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